蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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END OF THE WORLD5
2011.11.20 Sunday
携帯電話の通話ボタンを押そうとする指をふと止めて、最近登録されたばかりの表示番号に
総士は目をやるとそのまま唇を噛みしめる。
そして、先ほどの出来ごとをもう何度反芻するかというふうにまた考えを巡らせる。
開け放たれた窓からは夕暮れの生ぬるい風が吹き込んで、纏めていなかった総士の長い髪を
ふわりと宙に舞いあがらせた。
いつもと同じ―総士が帝都に呼ばれた理由であるところの―任務をこなして部隊を引き揚げる
途中のことだった。
今では建物が原型すら留めていないその場所は、フェストゥム側との情報交換が秘密裏に行わ
れていると諜報部からの情報があり、総士達はその日一斉捜索に踏み切った。
出入り口を全て封鎖し、中にいる人間をまとめて連行しようとしていたが相手もこの場所が
危険であることは承知の上だったらしく、上層階で凄まじい爆発音がしたかと思うとその数分
後、建物はあっけなく上から潰れてしまい、重要参考人として連行しようとした人間もろとも
瓦礫の下に埋まってしまった。
結果から言えば総士達の任務はここ何回か続く失敗に終わり、とりあえず瓦礫の下に埋まった
死体を処理する作業に切り替えようと指示を出した時、壊れた建物の影から走り出る人影を
見つけた。
一般人かと最初は気にも留めずにいたが、考えてみればここは普段でも一般人が訪れることは
稀な場所であり、そもそも封鎖の前に一般人が建物の中や付近にいないことは確認済のはず。
総士は慌ててその走り去る人影に目を凝らしたが、すでに路地へと曲がってしまったところで、
何者なのかはついに解らなかった。
ただ、数秒見たその後ろ姿に見覚えがあった。
まさかとは思ったが任務を終えて部屋に戻ってもその事が気になって何も手に付かない。
アリバイのような事を問うのは後ろめたいにも程があったが、どうか違っていてほしいと総士
は祈るような気持ちで通話ボタンを押した。
吹き込み続ける風を遮るように、空いた片手で目の前の窓を閉める。
ぼんやりと街灯が夕暮れ空に浮かび上がって街がそろそろ別の顔を見せ始める時間だ、と総士
は思った。
一騎は杖をついて右足を庇いながらいくつもの路地をすり抜けて行く。
急がなければならない訳ではなかった。
というより、外に出る前の操に言われた言葉が頭を離れなくて、いつもはもどかしいと思う不
自由な右足の動きも全く気にはならなかった。
「今日も仕事かい?」と馴染みの老人に尋ねられて、一瞬戸惑っては「はい」と笑顔で答える。
たぶん、いや、確実に仕事になるんだろう、そうさせるのは自分だけれど。
一騎はふと立ち止まると、まだ操の感触の残る身体にそっと左手を這わす。
「ねぇ、一騎」
連絡を貰って待ち合わせ場所へ向かおうと部屋を出る瞬間、急に操に呼び止められた。
何か忘れ物でもしたかと一騎は思って「何?」と振り向くが、操の口から次に出た言葉は、
全く頭の中で繋ぎ合わせられるものではなくて、一騎は固まってしまう。
「復讐、したい?」
「…え?」
「復讐だよ」
「なに、言ってるの?…操」
やっとの思いで一騎がそれだけ返すと、操は近づいて突然一騎を強く抱きしめる。
しばらくそのままでいた操はそっと屈んで一騎の耳元に口を近づけると、「したくなったら、
いつでも言って」と今まで聞いた事のないような声色で言った。
「…操?」
「手伝ってあげる」
そう言って操は一騎の耳に舌を這わせて甘噛みを繰り返す。
突如与えられる快感に一騎は「ぁ…」と小さく声を上げて操の背に腕を回すと崩れ落ちない
ようにシャツを握りしめた。
「…ぁの…さ」
一向に止める気配のない操に一騎は口を開く。
すると、「ん?」とだけまるで吐息のような声で操は答えて、でも一騎の思惑通り耳から口
を離した。
「操は、ここに来る前…どこにいたんだ?」
一騎は操を見上げる。
でも操は一騎に視線を合わせることなく口を開いた。
「紅音さんは、とても優しくて、僕は心から尊敬してた」
「え?」
一騎が驚いて声を上げると、操はまだ視線を合わせることはなく、でも表情をふと緩める。
「僕は親なんて知らないんだけど、もしいたら、こんな感じなのかなって思った」
「ぁ…それって、その」
「…そう、フェストゥムにいたよ」
そう言って操は一騎の方を見ると微笑んだ。
けれど一騎はそれにどう返していいのかわからずただ見つめ返すばかりだった。
「操は…」
立ち止まって先ほどの出来事を思い出していた一騎はそれだけ呟くとまた歩き出そうとする。
でもそれは、不意に前方から聞こえた総士の声によって阻まれた。
「総、士」
一騎は慌てて時計を見たがまだ待ち合わせ時間には10分弱程余裕があった。
しかも待ち合わせ場所から遠くもないが近くもないこの場になぜ総士が来たのかわからなか
ったが、焦った様子は悟られまいと一旦俯いてから顔を上げる。
「来てくれないかもって…思ってた」
微笑むような戸惑うような表情を浮かべて総士が近づいてくる。
一騎は杖を握る右手に力を込めた。
「話をするなら、俺を買ってよ」
「一騎?」
「俺が聞きたくない話をしに来たんでしょ?」
わざと憮然とした顔で一騎は総士を見上げる。
総士は少し驚いたような表情をしたが、すぐに何の感情も見せないような顔になった。
「何か…言いなよ」
しばらく沈黙が続いて、耐えきれなくなって一騎が言うと、総士は「わかった」と言って
上着のポケットから分厚い封筒を一騎の前に差し出す。
「わかってるんだったら、最初からそうすればいいのに」
それだけ言って一騎は封筒を取ると、「場所ならちゃんと取ってあるから」と言ってくるり
と向きを変えて歩き出した。
すぐ後ろで総士が付いてくる足音がする。
いつも使っている宿までは一騎の足で歩いてもここから3分程度だ。
一騎は左手に持つ封筒をちらりと見ては、こみ上げる涙が流れ落ちないように何度も瞬きを
した。
総士は目をやるとそのまま唇を噛みしめる。
そして、先ほどの出来ごとをもう何度反芻するかというふうにまた考えを巡らせる。
開け放たれた窓からは夕暮れの生ぬるい風が吹き込んで、纏めていなかった総士の長い髪を
ふわりと宙に舞いあがらせた。
いつもと同じ―総士が帝都に呼ばれた理由であるところの―任務をこなして部隊を引き揚げる
途中のことだった。
今では建物が原型すら留めていないその場所は、フェストゥム側との情報交換が秘密裏に行わ
れていると諜報部からの情報があり、総士達はその日一斉捜索に踏み切った。
出入り口を全て封鎖し、中にいる人間をまとめて連行しようとしていたが相手もこの場所が
危険であることは承知の上だったらしく、上層階で凄まじい爆発音がしたかと思うとその数分
後、建物はあっけなく上から潰れてしまい、重要参考人として連行しようとした人間もろとも
瓦礫の下に埋まってしまった。
結果から言えば総士達の任務はここ何回か続く失敗に終わり、とりあえず瓦礫の下に埋まった
死体を処理する作業に切り替えようと指示を出した時、壊れた建物の影から走り出る人影を
見つけた。
一般人かと最初は気にも留めずにいたが、考えてみればここは普段でも一般人が訪れることは
稀な場所であり、そもそも封鎖の前に一般人が建物の中や付近にいないことは確認済のはず。
総士は慌ててその走り去る人影に目を凝らしたが、すでに路地へと曲がってしまったところで、
何者なのかはついに解らなかった。
ただ、数秒見たその後ろ姿に見覚えがあった。
まさかとは思ったが任務を終えて部屋に戻ってもその事が気になって何も手に付かない。
アリバイのような事を問うのは後ろめたいにも程があったが、どうか違っていてほしいと総士
は祈るような気持ちで通話ボタンを押した。
吹き込み続ける風を遮るように、空いた片手で目の前の窓を閉める。
ぼんやりと街灯が夕暮れ空に浮かび上がって街がそろそろ別の顔を見せ始める時間だ、と総士
は思った。
一騎は杖をついて右足を庇いながらいくつもの路地をすり抜けて行く。
急がなければならない訳ではなかった。
というより、外に出る前の操に言われた言葉が頭を離れなくて、いつもはもどかしいと思う不
自由な右足の動きも全く気にはならなかった。
「今日も仕事かい?」と馴染みの老人に尋ねられて、一瞬戸惑っては「はい」と笑顔で答える。
たぶん、いや、確実に仕事になるんだろう、そうさせるのは自分だけれど。
一騎はふと立ち止まると、まだ操の感触の残る身体にそっと左手を這わす。
「ねぇ、一騎」
連絡を貰って待ち合わせ場所へ向かおうと部屋を出る瞬間、急に操に呼び止められた。
何か忘れ物でもしたかと一騎は思って「何?」と振り向くが、操の口から次に出た言葉は、
全く頭の中で繋ぎ合わせられるものではなくて、一騎は固まってしまう。
「復讐、したい?」
「…え?」
「復讐だよ」
「なに、言ってるの?…操」
やっとの思いで一騎がそれだけ返すと、操は近づいて突然一騎を強く抱きしめる。
しばらくそのままでいた操はそっと屈んで一騎の耳元に口を近づけると、「したくなったら、
いつでも言って」と今まで聞いた事のないような声色で言った。
「…操?」
「手伝ってあげる」
そう言って操は一騎の耳に舌を這わせて甘噛みを繰り返す。
突如与えられる快感に一騎は「ぁ…」と小さく声を上げて操の背に腕を回すと崩れ落ちない
ようにシャツを握りしめた。
「…ぁの…さ」
一向に止める気配のない操に一騎は口を開く。
すると、「ん?」とだけまるで吐息のような声で操は答えて、でも一騎の思惑通り耳から口
を離した。
「操は、ここに来る前…どこにいたんだ?」
一騎は操を見上げる。
でも操は一騎に視線を合わせることなく口を開いた。
「紅音さんは、とても優しくて、僕は心から尊敬してた」
「え?」
一騎が驚いて声を上げると、操はまだ視線を合わせることはなく、でも表情をふと緩める。
「僕は親なんて知らないんだけど、もしいたら、こんな感じなのかなって思った」
「ぁ…それって、その」
「…そう、フェストゥムにいたよ」
そう言って操は一騎の方を見ると微笑んだ。
けれど一騎はそれにどう返していいのかわからずただ見つめ返すばかりだった。
「操は…」
立ち止まって先ほどの出来事を思い出していた一騎はそれだけ呟くとまた歩き出そうとする。
でもそれは、不意に前方から聞こえた総士の声によって阻まれた。
「総、士」
一騎は慌てて時計を見たがまだ待ち合わせ時間には10分弱程余裕があった。
しかも待ち合わせ場所から遠くもないが近くもないこの場になぜ総士が来たのかわからなか
ったが、焦った様子は悟られまいと一旦俯いてから顔を上げる。
「来てくれないかもって…思ってた」
微笑むような戸惑うような表情を浮かべて総士が近づいてくる。
一騎は杖を握る右手に力を込めた。
「話をするなら、俺を買ってよ」
「一騎?」
「俺が聞きたくない話をしに来たんでしょ?」
わざと憮然とした顔で一騎は総士を見上げる。
総士は少し驚いたような表情をしたが、すぐに何の感情も見せないような顔になった。
「何か…言いなよ」
しばらく沈黙が続いて、耐えきれなくなって一騎が言うと、総士は「わかった」と言って
上着のポケットから分厚い封筒を一騎の前に差し出す。
「わかってるんだったら、最初からそうすればいいのに」
それだけ言って一騎は封筒を取ると、「場所ならちゃんと取ってあるから」と言ってくるり
と向きを変えて歩き出した。
すぐ後ろで総士が付いてくる足音がする。
いつも使っている宿までは一騎の足で歩いてもここから3分程度だ。
一騎は左手に持つ封筒をちらりと見ては、こみ上げる涙が流れ落ちないように何度も瞬きを
した。
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