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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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END OF THE WORLD10 end
ドアの向こうには黒いフードを頭から被った男が立っていた。
まだ外は微かに明るかったけれど、フードを被ってしまえばもともと顔が隠れるようになっているから、
自分より背が高いということだけくらいしか一騎にはわからない。
「誰?」と言いかけた途端、一騎はその男に抱き締められる。
その瞬間、フードから漏れた長い髪が一騎の頬に触れた。

「総…士?」

おそるおそる一騎が問いかけると、男は一旦一騎を離した。

「…一騎」

フードを外して現れたのは、まぎれもなく総士だった。

「どう…して?お前、無事だったのか?」

「話を、しよう」

「…?」

「お前が聞きたい事を全部、僕はこれから話す」

「もう、あんまりなくなっちゃったけど」

「それでも」

「一つなら、あるよ。すごく、本当にすごく聞きたいこと」

そう言って一騎は思わず下を向いた。聞きたくない現実が待っている可能性の方が大きいような気がした。
何も言わずに奥の部屋を指さす。次の瞬間には二人ともそちらの方向へと歩き出した。でも、無言のままだった。



「総士が悪いわけじゃ、ないから」

一騎は総士の話を遮って言った。
すごく知りたいと思っていた気持ちはまだあったけれど、今更両親の死の真相を聞いたところで
変わるものなど何一つないような気がしたからだ。
戻ってこないのは当たり前だし、あんなに憎いと思っていたアルヴィスも、今はもう無くなってしまった。
一騎の心の大半を占めるのは、そんな昔のことではなかった。

「ねぇ、操は?…操は、どこにいるの?」

そう言って一騎は顔を上げる。この部屋に来て初めて総士と目が合った。両手をぎゅっと握りしめる。
次にどんな言葉を総士が告げようとも、「大丈夫なんだ」と自分に言い聞かせるように。

「大丈夫」

総士は言って、ふわりと表情を緩めた。

「ちゃんと、生きてる」

「ほんと…に?」

「来主操は生きてるよ」

「じゃあ」

一騎は思わず身を乗り出した。

「けど、今は会えない」

「なんで?」

「今は会えないけれど、そう遠くないうちに絶対会えるからって」

「そんな…お前は」

「会ったよ、あの日に。一騎に伝えてくれって、そう言われたんだ」

総士は言い終わると同時に立ち上がると、ドアに向かって歩き始めた。

「じゃあ、僕は行くから」

「行くって、どこに?」

「どこだろう、決めてないけど」

そう言って総士はまた一騎に背を向ける。

「じゃあ、ここにいればいいだろ!」

「でも…」

「置いてかないでよ、俺を。もう一人は嫌だよ!」

ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら、一騎は思いきり叫んだ。
そのまま立ち上がると、杖も使わずに歩き出す。勿論右足にはうまく力が入らなくて、バランスが崩れる。

「危ないっ」

総士の声が聞こえたかと思うと、一騎はしっかりと総士の腕に抱きとめられていた。
一騎は思わず総士の身体に腕を回すと、顔をぎゅっと押し当てる。

「苦しいんじゃ、ないのか?」

僕と一緒にいたら、と戸惑うように総士が呟いた。
総士の胸に顔を埋めたまま、一騎はふるふると首を横に振る。
ちがう、と言いたかったのに、口からは嗚咽しか漏れず、また涙がぼろぼろとこぼれる。

「本当に?」

その声に答えるように一騎は総士に回した腕に更に力を込める。
すると、頬に総士の柔らかい髪の感触がして、頭にそっと、左手が添えられた。

「僕もずっと、一緒にいたいと…思ってたんだ」

でもずっと言えなかった、ごめん、と付け加えた総士の声が震えている。

「ずっといればいいよ、ここに」

一騎はそっと呟いた。
総士以上に震えている自分の声がなんだかひどく可笑しくて少しだけ笑った。

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