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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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Dear,my friend3
桜の花びらがどこからかひらひらと舞って、春風がふわりと目の前をすり抜ける。
見渡す限りの青い空と相変わらずそれに曖昧に境界線を引く海がキラキラと光って総士は思わず目を細めた。
この海辺の道にさしかかるといつも、総士は目に映る全ての景色に「帰ってきたんだ」と実感させられる。
そして隣を歩く一騎の手を握る、それがここ最近の総士の癖だった。

「一騎?」

いつものように手をそっと絡めようとして、そこにあるはずの一騎の手がないことに総士は驚いて名前を呼んだ。
でもいつまで経っても返ってくる声はない。
不思議に思って振り返ると、そこには海の向こうを見つめたまま立ち尽くす一騎の姿があった。











ぽろり、と一騎の頬を一筋の涙がつたう。
一瞬、声をかけてはいけないかのような錯覚に陥る。
その涙はあまりにも自然すぎて、おかしいけれど見とれてしまうくらいに普通に。
そしてそのまま止まることなく流れ続ける。

「一騎…?」

慌てて駆け寄った総士は一騎の肩に手を置くとその顔を覗き込む。
でも、その目に総士の姿が映ったような気配はない。
まるで、彼のその目がまだ赤かった頃のような、懐かしいけれど思い出したくはない記憶が蘇る。
見えていないはずの目に、青い空だけがただ映っていた。
その色もそれが空であることもわからなかったかもしれないのに。
はっ、と総士は我に返る。
そしてそのままぎゅっと一騎を抱き寄せた。
そっと耳元で囁きかける。

「僕がわかるか?…一騎」

言いながら一騎の髪をそっと撫でる。また、春風が吹く。まるでここだけ避けるみたいに。
総士はそっと辺りを見渡した、当たり前のように誰もいなくて少しだけほっとする。
今はこんなことを心配する時じゃないはずなのにと、湧き出た安堵の感情に心の中で苦笑する。

びく、と腕の中で一騎が動いた。

「一騎?」

そっとうつむいたままの一騎の顔を上げさせると、総士はその目を覗き込んだ。

「そー…し」

今度はその目に自分の姿がちゃんと映る。
それを確認して総士は一騎にふわりと微笑みかけた。

「大丈夫か?」

「だい…じょうぶ、だって」

口ごもった一騎の目がゆらゆらと揺れる。それは、今の状況が飲み込めていない証拠で。
もう少ししたらたぶん、突き飛ばすように腕の中から逃げてしまうんだろうな、なんて思うとちょっと悲しい気もする。

「僕と手を繋ぐのよりもドキドキするようなこと、あった?」

なんて気の利いたことはまだ言えない。
二年経っても不器用なのは変わらない、と皆にまで言われる意味がなんとなくわかったような気がする、少しだけ。

「なんでもない、から」

そんなことをぐるぐると考えているうちに一騎が口を開いた。
総士を見上げると、なんだかとてもぎこちなく笑う。

「そっか」

総士は言って、ぽん、と引き寄せた一騎の頭に頬を寄せた。
精一杯の考えた結果の答えがこの一言だけなんてのも恥ずかしかったけれど、
それよりもなんだか、ものすごく柄ではないけれど抱きしめたいなんて気分になってしまったから。
そしてなにより、いつのまにか一騎の手が総士のシャツを掴んでいたのを見てしまって、
「こんなとこで何するんだよ」と突き飛ばされなかったことがちょっと、いやかなり嬉しかったからだったのかもしれない。

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Dear,my friend2
「空の話をしたんだ」

総士は言って、空を見上げた。一騎も同じように頭上を見上げる。
雲ひとつない透き通るような青空がどこまでも広がって、まるで海と繋がってしまったかのようだった。
その溶けて混ざり合うような感覚に、一騎は懐かしさと、少しだけ寂しさを覚える。

「毎日毎日、僕の所に来てはずっと楽しそうに言ってたよ」

一騎が総士を見ると、総士は笑った。

「空がとっても綺麗だって」

一瞬その目が揺らいだのは、やっぱり寂しいと思っているんだろうか、総士も。
視線を戻したその先には、さっきと同じように空も海も境界線が解らないくらいに青く広がっている。

「また、会えるのかな」

ぽつりと、一騎はつぶやいた。
あそこに行けば、とは言わなかった。

「今はまだ、会えないよ」

総士の手が一騎の手の上に重なる。そのままぎゅ、と力を込めるのがわかる。
たとえあの向こうで空と海が繋がっていたとしても、たぶんそこに、彼はいない。

「今日の空も、綺麗だね」

誰にでもなく、一騎は言った。なんだか泣きたい気持ちになった。









「あれ、総士先輩と一騎先輩」

背後から声がして振り返ると、虫かごをいっぱいぶら下げた芹がいた。

「今日も、あれ…」

「ミヤマクワガタ、何度言えばわかるんですか、一騎先輩」

「ごめん」

別にいいですって、と笑って芹は総士と一騎の少し後ろに腰を下ろす。
聞けば、相変わらす芹はこの山にクワガタを採りに来ているらしい。
誰に見せるのかなんて野暮な事は聞かないけれど、毎日採ったクワガタ達はどこで飼っているのか。
ものすごく大きな虫かごが必要なんじゃないかな、などと一騎はとぼけた考えを巡らす。

「泣いてたんです」

突然、虫かごを見つめながら芹が口を開いた。

「とっても苦しんでた、ひとりで、ずっと」

そこまで言って芹は顔を上げた。一騎と目が合って、少しだけ微笑む。
そして空を見上げる。そのまま海の向こうへと視線を移す。
ちょうど、空と海が曖昧になるあの辺りを、芹は静かに見つめていた。

「空と海が繋がってなくてもまた会える、そんな気がするんです」

そう言って、芹は微笑んだ。
一騎は、芹が誰のことを言っているのかわかった気がした。
芹が作ったというフェストゥム達の墓標に目を移す。
彼女がコアの代替を務める前に作られた墓標の数は、その後増やされてはいない。

「今度会えたら、いっぱいクワガタ見せてあげようと思うんです」

「そっか」

「一騎カレーには、負けちゃうと思いますけど」

「そんなことないって」

「あんな笑顔見せてくれるのかなぁ、ってやっぱり思っちゃいますよ」

あんな笑顔、というのはたぶん全島民に操と史彦の対話を中継した時に操が見せた笑顔のことだ。
「一騎カレー」なんて単語が彼の口から出たことにも驚いたが、「おいしい」とあんな笑顔を見せた操に
フェストゥムもカレーは美味しいって思うのか、となんだかまたずっとぼけた感想を一騎は抱いていた。

「じゃあ、行きますね」

「ああ」

「あ、総士先輩は一騎カレー食べました?」

「ああ、こないだ」

「それだけ?」

「え?」

「もっとこう、美味しかったとか…」

眉をハの字にして口を尖らせる芹とびっくりしている総士の顔を交互に見て一騎はぷっとふき出した。
総士から感想なんてそんな器用な言葉が出るはずないじゃないか、と心の中で思ったりする。
けれど芹はそんな総士の一面を知らないので、「美味しいって、こないだちゃんと聞いたから」と一騎は告げた。
それを聞いてほっとしたのか、「じゃあ、今度はほんとに行きます」と芹は笑ってその場を後にした。

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Dear,my friend1
「お前、全然見ないで調味料取るんだな」

ぽつりと総士がつぶやいた。
あ、と一騎は心の中で思う。
ずっとこうしていて、別にそれをみんなも普通だと思っていたから気がつかなかった。
ちゃんと目は見えるのに、見ることをしないというのがいつのまにか癖になってしまったようだ。

「見ても、いいんだけどさ」

一騎もぽつりとつぶやく。
思い出したくないわけではないけれど、目が見えなかった時のことをうまく言葉に出来ない自分がいる。
もしかしたら、総士はこのことについて負い目を感じたりしないだろうか。
なんてことを考えるくらいには、まだぎこちなさが残る時間しか過ぎていなかったのは事実で。
いつも戸惑って言葉に詰まってしまうことに、一騎はほんの少しだけ罪悪感めいたものを感じていた。

「でも、そのほうが料理上手そうに見えるよな」

「上手そう、じゃなくてほんとに美味しいんだってば」

それまで黙々とテーブルを拭いていた真矢がひょっこり顔を上げて、笑った。









「あれ、一騎カレー食べるの初めてだったの?皆城くん」

向かいのテーブルに座った真矢は心底びっくりした様子で頬杖をついた。
まぁ、それもそのはずというか、総士が帰ってきてからもう2ヶ月以上は経つのだから、
真矢がびっくりするのも仕方のないことだった。

「最初に来た時は何も頼まなかったし、ああ、でもこの前はコーヒーを頼んだ」

「はぁ、なんていうか、ブラック好きなのは変わんないんだね、それだけじゃないけど」

と、なんだか含みを持たせた表現で真矢がため息交じりに言う。
それとは反対に、一騎は顔を真っ赤にして俯いた。
急に思い出したからだ。総士がついさっき言った、「最初の時」を。

あれは、総士がこの島に帰ってきてまだ一週間も経たないうちだった。
どうやって二年もの間の空白を埋めようかと、ともすればお互い派手に空回りしそうな程ぎくしゃくしていて。
ちゃんと話そうと思っても、頭の中をぐるぐると映像ばかりが流れるだけでそれがうまく言葉にならない。
淡々と事実を話すには、余りにも乱高下した感情が今でも邪魔をするし、
もとより、そんな風に話せるような器用さを、一騎は持ち合わせていなかった。

そんな時にふと思いついたのが「楽園」だった。
この二年間、ずっと毎日のように通いつめては料理をしていた場所。
あそこに行けば、何か話すきっかけが見つかるかもしれないと。だから、総士を誘って二人で行った。
そして、ドアを閉めた瞬間だった。
一騎は総士に抱きしめられていた。
肩口に総士の長い髪が触れるのがわかる。耳に、総士の頬が触れる。
ほんの少しだけ、呼吸するのを忘れそうになる。
まるで羽交い絞めにされるかのように後ろから抱きしめられたまま、しばらく一騎は動くことが出来なかった。
静かに、総士が囁く。

「ここに来たかったんだ、お前と」

泣きそうな声だった。


「ちょっと一騎くん!湯気ものすごい出てるけど熱くない?大丈夫?」

真矢の声ではっと一騎は我に返る。目の前の鍋からは沸騰した湯気がもうもうと天井へと巻き上がっている。

「ねぇ、一騎くん無理してない?具合悪かったらいつでも言っていいんだから、ね?」

咄嗟に「違う」と言おうとしたのだけど、振り向いた真矢と目が合ったらなぜか言葉が出てこなくなって、
ただぶんぶんと大きく首を振った。
目が見えなかった頃からずっと、真矢はいつもこうして一騎のことを気にかける。
あの頃から比べればずっと減ったけれど、今でもたまに体調が悪くなるから真矢は心配なのだろう。

「皆城くんの前だからって、強がっちゃダメだよ!」

「大丈夫、僕がついてるから」

念を押すように言う真矢の向かいで、総士はふんわり笑った。
それは「僕がついてるから」具合なんて悪くならない、のか、それとも倒れても大丈夫、なのか。
一騎の頭の中で総士の言葉がぐるぐるとまわっては、なんだか恥ずかしくなってまた俯いてしまった。
「僕がついてるから」って、なんか、それは。
なんだかとっても、お互い繋がってます!って他人に見せびらかしてるようで。
無意識下で総士と二年間繋がり続けていたのは、今となっては周知の事実だけど。
本人からそれっぽい言葉にされるのは、やっぱりとっても恥ずかしいと、一騎は耳まで真っ赤になりながら思った。

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