蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.21 Thursday
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無題
2011.11.19 Saturday
「顔、見たいよ」
俯いていた一騎が突然、小さな声で呟いた。
一騎?と驚いた総士は声を掛けるも一向に顔を上げる気配はなく、反対に小刻みに肩が震え出す。
慌てて駆け寄ってその顔を覗き込めば、その赤い両目には涙がいまにも溢れそうな程に溜まっていた。
「一騎」
総士はもう一度呼びかけると一騎の身体を抱き締める。
片手で頭を自分の胸へと押し付けると、震えが止まるようにその身体をさすり始めた。
「帰ってくるって約束したから」
一騎は泣きじゃくりながら喋り出す。
「たとえ目が見えなくなっても、ちゃんと総士の姿は俺には見えてたんだ」
ずっとずっと待ってた、と言って一騎は一旦言葉を切ると、そっと総士の顔に手を伸ばす。
そしてその顔を確かめるように撫で、びく、と震えながら閉じた左目の上に指を被せる。
傷を優しくなぞると、その手を総士の制服へと下ろしぎゅ、と微かに震える手で掴んだ。
帰ってきてくれたのは嬉しいはずなのに、と再度口を開く。
「総士の声がして、触ればやっぱり総士だって、ちゃんと総士はここにいるって」
わかってるつもりなのに、と一騎は総士の胸に強く顔を押し付ける。
「そしたら、今度は総士が見たくて、このままいたら記憶の総士は薄れちゃいそうな気がして、
手で触って思い浮かべる記憶の輪郭じゃなくて、今ここにいる総士が見たくて」
だから。
それ以上一騎は喋ることが出来なかった。
いくら自分の願望を口にしたところで、それは叶わないからだ。
総士が帰ってくるまでの2年間、一騎は必死に治療を受けた。
激痛を伴う抗体の注射を毎日受け、1日の半分以上はベッドに縛り付けられる生活を送っていたが、
一向に症状は改善せず、それどころか緩やかに確実に進行していった。
原因は、未だファフナーで戦い続けていることにあるのは一騎自身理解していた。
しかし、ザインを除く他のファフナー全機が出撃したとしても襲来するフェストゥムには勝てない。
それ程までに島の戦力不足は続き、またそれがザインにどうしても頼りがちになる戦略を生み出していった。
そして総士が帰ってきたところでフェストゥムの攻撃が無くなる訳ではなく、
いまでも襲来が確認されれば(と言っても他のファフナーでは抑えられない時だけ)
一騎も戦闘に参加せざるを得なかった。
このままこの状況が続けば、そう遠くない未来に自分の身体が動かなくなるだろうというのが突き付けられた事実で。
島を守れるのなら本望だと思う心のどこかで、そうだとしたらその前に総士の姿を一目見たいと思う気持ちが、
日に日に大きく占領していくのを押さえつけるのが大変だった。
もう困らせたくない。
そう思っていたからこそ、絶対に言わずに心の中に閉じ込めたままその時を待とうと思っていた。
記憶の中にはまだ2年前の総士の姿が鮮やかに残っていて、それさえあれば大丈夫だと言い聞かせたつもりだった。
でも2年経ったある日、総士が帰ってきたと人伝に聞いてその気持ちが崩れ始めた。
治療のためにここ2年間ずっとアルヴィス内の一部屋をあてられて、そのベッドで戦闘時以外の大半は過ごしていたが、
そのひとりぼっちの時間に突如、ずっと会いたくて仕方なかった総士が現れたのだ。
最初は、今までの事やお互いの状態を確認する会話をしていただけだった。
記憶の中ではない直接耳に響く総士の声に安堵して、触れる顔の凹凸に記憶の中の顔を一致させて、また安心した。
それだけでいいと本当に思っていた。
それなのに。
もう自分に残された時間が少ないと改めて感じてしまった今、目の前にある顔をどうしてもこの目で見たくなってしまった。
叶わない願いだなんて2年間かけて自分が一番よく解っているはずなのに、気付けば言葉を発してしまっていた。
また、困らせた。
遅すぎる後悔の念に押しつぶされそうになって、抱き締められた胸に縋りついてしまった。
涙が止まらなかった。
「ごめん、忘れて」
総士の腕の中で一騎は小さく言った。
「忘れられるわけ、ないだろ」
抱き締められているせいで、総士の声が自分の身体の中に直接響くような感覚がする。
心なしか強まった腕の感触に、言いようのない安堵感が広がっていくのがわかる。
僕がずっとついているから、と総士が言葉を紡ぐ。
「一騎の目が見えるようになるまで、ずっと一緒にいるから」
もうちょっとの辛抱だから、と優しく頭を撫でられて、
嬉しさと離れたくない寂しさと不思議と広がる安心感に、一騎はまた涙を流した。
俯いていた一騎が突然、小さな声で呟いた。
一騎?と驚いた総士は声を掛けるも一向に顔を上げる気配はなく、反対に小刻みに肩が震え出す。
慌てて駆け寄ってその顔を覗き込めば、その赤い両目には涙がいまにも溢れそうな程に溜まっていた。
「一騎」
総士はもう一度呼びかけると一騎の身体を抱き締める。
片手で頭を自分の胸へと押し付けると、震えが止まるようにその身体をさすり始めた。
「帰ってくるって約束したから」
一騎は泣きじゃくりながら喋り出す。
「たとえ目が見えなくなっても、ちゃんと総士の姿は俺には見えてたんだ」
ずっとずっと待ってた、と言って一騎は一旦言葉を切ると、そっと総士の顔に手を伸ばす。
そしてその顔を確かめるように撫で、びく、と震えながら閉じた左目の上に指を被せる。
傷を優しくなぞると、その手を総士の制服へと下ろしぎゅ、と微かに震える手で掴んだ。
帰ってきてくれたのは嬉しいはずなのに、と再度口を開く。
「総士の声がして、触ればやっぱり総士だって、ちゃんと総士はここにいるって」
わかってるつもりなのに、と一騎は総士の胸に強く顔を押し付ける。
「そしたら、今度は総士が見たくて、このままいたら記憶の総士は薄れちゃいそうな気がして、
手で触って思い浮かべる記憶の輪郭じゃなくて、今ここにいる総士が見たくて」
だから。
それ以上一騎は喋ることが出来なかった。
いくら自分の願望を口にしたところで、それは叶わないからだ。
総士が帰ってくるまでの2年間、一騎は必死に治療を受けた。
激痛を伴う抗体の注射を毎日受け、1日の半分以上はベッドに縛り付けられる生活を送っていたが、
一向に症状は改善せず、それどころか緩やかに確実に進行していった。
原因は、未だファフナーで戦い続けていることにあるのは一騎自身理解していた。
しかし、ザインを除く他のファフナー全機が出撃したとしても襲来するフェストゥムには勝てない。
それ程までに島の戦力不足は続き、またそれがザインにどうしても頼りがちになる戦略を生み出していった。
そして総士が帰ってきたところでフェストゥムの攻撃が無くなる訳ではなく、
いまでも襲来が確認されれば(と言っても他のファフナーでは抑えられない時だけ)
一騎も戦闘に参加せざるを得なかった。
このままこの状況が続けば、そう遠くない未来に自分の身体が動かなくなるだろうというのが突き付けられた事実で。
島を守れるのなら本望だと思う心のどこかで、そうだとしたらその前に総士の姿を一目見たいと思う気持ちが、
日に日に大きく占領していくのを押さえつけるのが大変だった。
もう困らせたくない。
そう思っていたからこそ、絶対に言わずに心の中に閉じ込めたままその時を待とうと思っていた。
記憶の中にはまだ2年前の総士の姿が鮮やかに残っていて、それさえあれば大丈夫だと言い聞かせたつもりだった。
でも2年経ったある日、総士が帰ってきたと人伝に聞いてその気持ちが崩れ始めた。
治療のためにここ2年間ずっとアルヴィス内の一部屋をあてられて、そのベッドで戦闘時以外の大半は過ごしていたが、
そのひとりぼっちの時間に突如、ずっと会いたくて仕方なかった総士が現れたのだ。
最初は、今までの事やお互いの状態を確認する会話をしていただけだった。
記憶の中ではない直接耳に響く総士の声に安堵して、触れる顔の凹凸に記憶の中の顔を一致させて、また安心した。
それだけでいいと本当に思っていた。
それなのに。
もう自分に残された時間が少ないと改めて感じてしまった今、目の前にある顔をどうしてもこの目で見たくなってしまった。
叶わない願いだなんて2年間かけて自分が一番よく解っているはずなのに、気付けば言葉を発してしまっていた。
また、困らせた。
遅すぎる後悔の念に押しつぶされそうになって、抱き締められた胸に縋りついてしまった。
涙が止まらなかった。
「ごめん、忘れて」
総士の腕の中で一騎は小さく言った。
「忘れられるわけ、ないだろ」
抱き締められているせいで、総士の声が自分の身体の中に直接響くような感覚がする。
心なしか強まった腕の感触に、言いようのない安堵感が広がっていくのがわかる。
僕がずっとついているから、と総士が言葉を紡ぐ。
「一騎の目が見えるようになるまで、ずっと一緒にいるから」
もうちょっとの辛抱だから、と優しく頭を撫でられて、
嬉しさと離れたくない寂しさと不思議と広がる安心感に、一騎はまた涙を流した。
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