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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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ビューティフルアンドロイド
 「何でもないから、大丈夫だから」

そう言って一騎は掴まれた腕を振りほどくと総士の横をすり抜けた。
待て、と焦り気味の総士の声が後ろから聞こえても一切耳を貸さずただひたすらに通路を
彼の行くであろう方向とは逆方向へと歩き続ける。
やがて目前に迫ってきた曲がり角を曲がると一騎は突然走りだした。
追いつかれないように全速力で、行く先を悟られまいと次々に左右へと進路を変え、通路を一気に走り抜ける。
何事かと声をかけてくる大人達には目もくれずに息が切れるまで足を動かしてふと顔を上げれば、
見慣れない色の床と壁に囲まれた場所に辿り着いたようだった。
一騎は適当に一番近くの部屋まで走ると、いちかばちかでIDの照合を行った。
運良く認識コードが確認されるとドアロックが解除される。間もなくシュッと風を切ってドアが開かれた。

開かれたドアの先には薄暗い照明が青白く照らす空間が広がっており、よく目をこらせば本棚のような物が整然と並んでいる。
この照明といい、どうやら永年保存の書類のために作られた書庫らしいと一騎は思った。
ならば都合が良い、そうそうここには人が来ないはずだと考えを巡らすと一騎は室内へ入り、すぐさま内側からロックをかける。
そのまま壁伝いにずるずると床にへたり込むと、立てた両膝の間に顔を埋めてしまった。

そうして一騎は先ほど終了したフェストゥムとの戦闘について思いを巡らせる。
別に、今までと変わったところなどなかったと、わずかに残っている記憶を繋ぎ合わせる。
いつものように出撃命令が下り、マークエルフに搭乗して戦闘区域へと急いだ。
すでに出撃していたファフナーによってヴェルシールド内に追い込まれたフェストゥムを視認すると、一騎はそれらに銃口を向けた。
もちろん、何発撃とうとも敵は微動だにしないことはこれまでの経験上わかりきっている。
こちらへ敵の注意を引きつければそれでいい。目的は損傷したファフナーを戦線から一旦離脱させることだった。
ライフルの連射によって一騎の狙い通りエルフへとフェストゥムは凄まじい攻撃を仕掛け始めた。
それでいい。
一騎はにやりと笑みを浮かべると、ライフルを投げ捨てた。
さらなる接近をするために敵の同化可能領域でと踏み込もうと、展開された防壁に体当たりして突っ込んだ。
何度も経験した「被同化状態」の感覚を全身に受けながら、右手に握りしめたマインを敵の体内目掛けて深く押し込む。
そして、ぐにゃりと何とも表現しがたい感触がしたかと思うと、爆弾が炸裂した。
ひゅ、と一騎は息を飲む。
大きく開いた敵の傷口からコアがこの世のものとは思えない美しい輝きを放ってその姿を覗かせている。
ほぼ毎回のように同じ攻撃方法でフェストゥムを倒す一騎だったが、いつまでたってもこの瞬間だけは慣れないと思う。
そんなことを思ったわずか数秒の間に、攻撃を緩めない敵の触手がエルフの右上腕部と胸部を一気に貫いた。

「っあぁああっ…」

凄まじい激痛に目の前が暗転しかける。
しかし一騎はその瞬間にもう片方の左手に握りしめたマインを敵のコア深くに突き刺した。
一秒も経たないうちに内部で爆発が起こり、コアの破片が傷口から溢れ出してくる。
やった。
瞬きをするのも忘れてその光景を見つめていた一騎だったが、
その時ジークフリードシステムの総士からの声が聞こえたかと思った瞬間、エルフの全ての動作が封じられた。

「一騎っ…」

総士の叫び声で我に返った一騎はどうやら後方からもう一体の敵の触手がエルフに絡みついたのだろうと考えを巡らす。
その間にも敵の攻撃は休むことなく続き、腹部や両脚も触手に貫かれたのだろう、耐えがたい激痛が襲いかかり、
やがてそれらは全て麻痺してしまった。
まだ、やれる。
一騎は冷静に装備していたマインの残数を弾き出すと、わずかに出来た隙を見計らって奇跡的に無事な左手にそのひとつを握りしめる。
そして敵の胸の奥深くに沈めようと腕を引いた瞬間、

《あなたは》

まただ、と一騎は思う。
圧倒的に数で攻撃を仕掛けてくる時には聞こえもしないのに、残り一体になると必ずこの声が聞こえてくるのだ。
食うか食われるかのところで殴り合いをすることに快感すら感じている自分に、
そんな平和的なフリをした嘘が通用するものかと一騎は嘲り笑う。
一つになりたいのならこの殴り合いにお前が勝てばいい、そうすればお前の好きにさせてやるよ、と一騎は心の中で呟いた。
もちろん、負けるつもりなど毛頭なかったのだが。

「消えろよ」

お前の負けだ。
一騎は思い切り振り上げた左手を敵のコア目掛けて突き刺した。
確実に相手の命を絶ったと思われる感触がして、刹那、今日何度めかの爆発が起こる。
一騎はそれを茫然と、でもこれ以上ない達成感に酔いしれながら見つめた。不思議と身体の痛みは感じなかった。
遠くで総士が何かを必死に訴えかけているのが聞こえる気がする。
けれど一騎はそれがまるで聞こえていなかったかのようにエルフを自動操縦に切り替えると、そのまま意識を喪失させた。

そして、いつものごとく医務室で目覚めた後、先生が丁度留守にしていたのをいいことに素早く制服に着替えて廊下へと飛び出した。
程なくして、向こうから歩いてくる総士に呼び止められた。

「大丈夫か?」

毎回戦闘後には恒例の体調を気遣う言葉なのだろうと最初は思った。
けれどそれは違った。もう何ともないから、とぞんざいに答えた一騎に総士はそのことじゃなくて、と言いよどむ。

「何が?」

今度は一騎が聞き返せば、総士はためらいつつも口を開いた。
延々と語られた内容の大半は未だぼうっとする頭のせいかよく理解出来なかったが、
どうやらファフナーと自分との適合率が戦闘中に異常な数値を示したらしい。
それは、一般的に言えば被同化状態でフェストゥムの攻撃を受け、完全に相手と同化してしまった状態に等しいとのことだが、
一騎の個体反応が消滅したにもかかわらずフェストゥムは撃破された。
エルフこそ損傷は酷いものだったが、パイロットの一騎は意識を喪失させたものの無事だった。
前代未聞の事態に戦闘データの細かい分析や一騎の眠っている間に詳細な身体検査が行われたらしい。
それでも結局、一騎に同化の痕跡は見られず、とりあえずの間は今後も注意して戦闘を見守ろうという意見で一致した。

「本当に、何でもないのか?」

おそらく総士は純粋に自分の精神状態を気遣ってくれているからこそ、執拗に声を掛けてくるのだろうと思う。
けれど今は何も話したくない気持ちで一杯だった。

「何でもないから、大丈夫だから」

それだけ言って逃げるようにその場を立ち去った。
システム内からリンクすることで自分の思考などすでに知られているところなのかもしれないが、
一方的に見られているのならまだしも自分の口から話すなんてとてもじゃないが出来る状態ではない。
総士から離れてもすれ違う通路での話し声すら耳を塞ぎたくなる程で、一騎は一刻も早く誰もいない所へ行きたかった。
人と違うという事実をつきつけられることが怖くてすっと一人になることでそれを避けてきたのに。
少しでも他人とは違う距離感を保っていた相手に他のみんなと同じ事を口にしてほしくないなんて単なるエゴでしかないのだろうけど。

しばらくして扉の外からロックを解除しようと操作する音が壁伝いに聞こえてきた。
とうとう見つかったか、と一騎は諦めの気持ちを浮かべつつも面倒なので顔は膝の間に埋めたままでいた。
照合確認とロック解除の音が響き渡り、ドアが開く気配がする。

「やっぱりここにいたか」

聞き慣れた声が頭上から聞こえて思わず一騎は顔を上げると、そこにはちょっと困ったような顔をして立つ総士の姿があった。

「総士…」

一騎がぽつりと呟くと、総士はゆっくりこちらに近付いて一騎に向かい合うように静かにしゃがみ込む。

「僕が悪かった」

突然、総士が謝罪の言葉を口にしたので、一騎は驚いて大きく目を見開く。
それを見た総士は申し訳なさそうに少し微笑むと続けた。

「一騎を一人にさせたくなかったのに」

そう言って総士は一騎の手を取ると、どうせ思い出したくもないことばかり考えてしまったんだろう、と寂しげな表情を浮かべた。
一騎はその様子をあっけにとられて見つめていることしか出来なかったが、
重ねた手から伝わる少し低めの体温に嫌悪感を感じることはなかった。

「ありがとう」

総士は一騎の目をじっと見つめるとそっと呟いた。
僕だけじゃなくて島のみんなが一騎にありがとうって思ってるよ、と続ける。
その優しく包み込むような心地良い声音に今まで閉じ込めていた感情がせきを切って溢れ出してしまいそうで、
一騎は思わず下を向くと、ぎゅっと固く目を瞑った。
すると、ふわりと何かに包み込まれるような感じがして、やがて肩先から伝わる温もりに、
総士に抱き締められているのかと少し遅れた思考が追いついた。

「おつかれさま」

少しして頭上から総士の声が聞こえる。
直に触れる皮膚越しに伝わる声がなんだか妙にくすぐったい。
でも今まで心の中に巣食っていたどす黒い気持ちが少しずつ消えて行くような感じがして、
一騎はそっと目の前にある総士の制服を掴んだ。

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