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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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願い事
開け放たれた窓からは梅雨特有の蒸し暑い空気を纏った風がゆるく室内へ吹き込んで、
総士は思わず顔を顰めると、ベッドの上にいる一騎に「暑くないか?」と聞いた。
ドアの方を向いていたらしい一騎はこちらへ顔を向けると、「そんなことないよ」と言って微笑む。
その赤く濁った両目にはもうこの世界の何一つはっきりと映し出すことはないんだろうなと思うと、
細められた目の先に輝く夏の星座を見ては、総士は少し寂しげに微笑み返した。
まだ午後7時を少し回っただけの明るさを残す空の下では、島の皆が切り出した笹の木を運んでいる所で、
そういえば七夕だったな、なんて今更のように総士はそれを見て思う。
願い事なんて、叶わない事が多すぎて何だか願う事自体、叶わないと思い知らされるような気がして、
もともと行事自体に関心の薄い総士だったが、あまりこの行事が好きではないという気持ちが大きかった。

「もうすぐ、七夕だよな」

不意に声が聞こえて振り返ると、一騎がこちらを向いて笑いかける。
そうだな、と当たり障りない答えを返しながら一騎の側まで近寄ると、一騎はまた口を開いた。

「総士は、願い事とかないのか?」

「え?」

「って、無さそうだよな、総士は」

そう言って笑いだした一騎を見て総士は口ごもる。
急に黙った総士に構うことなく一騎はごそごそと枕の下に手を入れると、一枚の細長い紙を取り出した。
遠見が持ってきたんだ、と言って総士の目の前にひらひらとその紙を差し出す。
色紙で作られたそれは願い事を書く短冊で、総士はそろりと手を出してその紙を受け取った。
聞けば、総士が帰ってくるまでの間もずっと遠見は一騎の所へ毎年短冊を届けに来ていて、
勿論親切心で目の見えない一騎のために代わりに願い事を書くと言っていたのだが、
一騎はずっと断り続けたらしい。
願い事はあるにしても、高校生にもなって同年代の女の子にそれを言うというのは
やっぱり恥ずかしいだろうなと総士も一騎に同情する。

「でもさ、無かったわけじゃないんだ、本当はずっと」

「一騎?」

急にシーツを握りしめた一騎に総士は声を掛ける。
すると、俯いた一騎が絞り出すように言葉を紡ぎ始めた。

「総士に帰ってきてほしいとかそんなことは願わなかったよ、それは願いじゃなくて約束だったから、
絶対、帰ってくるって信じてたから、絶対、願わなかった。だけど、本当はわかんなくて、信じてない
わけじゃなかったけど、わかんなくて、だから、あの約束を信じて待つ俺は間違いじゃないって思いた
かったから…」

「俺は、間違ってなんかないって…言ってくださいって、本当は…願ってた」

でも、もうそんなことはどうでもいいんだ、と言って一騎は顔を上げる。
その目から一筋、涙が流れ落ちて、思わず拭おうと総士が手を伸ばすと一騎は緩く首を振った。

「総士は、ちゃんと帰ってきてくれたから」

そう言って一騎は自分で涙を拭うと、ごめん、と言ってまた笑った。
そしてまた枕の下に手を伸ばすともう一枚、短冊を取り出した。

「二年分あったからさ、実は二枚あるんだ」

一騎はまたひらひらと短冊を揺らすと、まるで見えているかのようにそれを見つめる。

「ありがとうございました、って書こうかな」

柔らかな表情で言う一騎に総士がきょとんとした顔で見つめていると、一騎はこちらを向いて言う。

「願い、叶えてくれたしさ」

総士、帰ってきてくれたし、と言って一騎は総士の手を取るとそっと指を絡める。
総士も笑って一騎の頭を引き寄せると、自分の胸に優しく抱え込んだ。

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