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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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「島を守る気持ちがなければ、戦う資格がないとでも思うのか?」

総士は、約束通りに海岸へと来た一騎を見るなりそう言った。
明からさまにびくりと肩を震わせて立ち止まった一騎を総士はじっと見つめる。
別にそんな事が言いたいわけではなかった。
自分でも発した言葉の意味が成り立つ訳がない事くらいは解る。

「誰にも言えない感情を胸に秘めたまま戦うことが辛い事くらい知っている」

総士はゆっくりと一騎に歩み寄る。
視線は一度も外さないまま。
無論、正当化してやるつもりなど、ない。

「身体中に快感を駆け巡らせながら無我夢中の内に破壊してしまったフェストゥム、
それが結果的に島の平和を守った」

近づくと、空の色が映り込んだ一騎の両目がそこにある。
狂喜乱舞するような戦闘が繰り返される空、その一方で昨日まで仲間だった人間が
一瞬の内に消えて跡形もなくなる空。
赤く沈んだ色の目で見る空と、澄んだ黒い目で見る空は違うんだろうな、と思う。
でも、だから何だというのだろう。

「その結果を喜んで、何が悪い。結果を出した者を讃えるのは極自然なことだろう。
結果さえあれば、過程など考慮に値しない、ましてやその中に在る者しか持ち得ない感情など、
誰も知る必要などない」

「知ったところで、何か変わるのか?」

少し目線より低い所にある一騎の顔を総士は上から覗き込んだ。
思った通りにその視線は横に逸らされて、それでも一騎は何も言葉を発しなかった。

「島という組織の構成員は島という組織に義務を負うべきだと、
その最たる働きである守るという行為を心の中で実感としては無いままに、
体現してしまうことに矛盾を感じるんだろう」

「そして、義務を認識出来ないために、組織の構成員としての帰属意識が薄れ、
その存在も希薄に感じているんだろう」

なぁ、一騎、と言って総士は初めて一騎に触れる。
とはいっても肩に手を置いただけだったのだが、
一騎は困惑しきった表情を浮かべながらまたびくりと身体を震わせた。

「全てが全て、100%同意の下に世界は動いていると思うか?」

「同意じゃない行為の正当性に値しない事実を自ら暴露して秩序を乱すことに
全体としてのメリットなど何もない」

「あるのはただ、それをした個人の理解されたいという傲慢な欲求だけだ」

強くなってきた海風に吹かれて一騎の長い前髪が舞い上がり、俯き加減だった顔の輪郭を露わにする。
それに怯えるように更に俯こうとするのを止めるかのように肩に置いた手に力を込めると、
またびくりと震えてその目線が総士をゆっくりと下から捉えた。

「目の前の敵を倒したら、理由はどうであれ結果的に島を守った事になる」

「今はその単純な構図が、みんなが生き残るための最上で最良の手段なんだ」

「それだけ、なんだ。何も難しい事なんかじゃない、それしか今は、ないんだ」

強い海風が、今度は総士の髪を乱して、そして顔を覆うように隠す。
また一つ、嘘を吐いた。
見上げてくる黒い両目に、自分の奥が透けて見えてしまいそうな感覚がして、
見えるのが片目だけで良かったと総士は思う。
もしこの左目が見えていたなら、一騎は今何か言葉を発したかもしれない。
生きている限り永遠に彼に後ろめたさを与え続けるであろうこの目でつけた重い枷に、
最近は特によく助けられるような気がする。

総士は目を閉じると、ひとつ小さく深呼吸をする。

一騎に、自分の事情など話すつもりはない。
たとえ話したところで事態は何一つ好転しない、誰一人守る事も出来ない。
そんな事を悠長に考えていられる時間を、敵は与えてなどくれない。

「今は、今までの日常じゃない、非日常の緊急事態だ」

「でも、パイロットが戦って死ねばいいとは思わないよ、これは僕の本心だ」

はっとしたように見つめ返す一騎の目を見つめては、総士は少しだけ表情を緩める。
それすらも嘘なのかもしれないと、同じように少しだけ安堵の表情を見せた一騎をまた見ては、
自嘲気味な感情が総士の中に沸き上がる。
一騎の口が何かを言おうと形作っては、そのまま音を発することなく閉ざされる。

素直に思った事を口に出来ないのが、不器用すぎる自分達の共通点のひとつでもあって、
相手を見てはもどかしいと感じるけれど、それ以上に素直に行動出来ない自分に嫌気が差して、
そして相手に同情して、過剰に謙虚な振りをしては、単に臆病すぎるのを隠しているつもりになっている。

吐き気がするほど自己嫌悪に陥りながらも自己を正当化し続けるあたりが、救いようのないくらい似ている。

鏡に映った自分の分身のように似ていると思うなら、
鏡に映った自分に向かって言ったほうがまだマシだとまた自己嫌悪に陥りながらも、
肩に触れた手から言葉に出来ない何かが相手に流れ込めばいいのに、
なんてまるで似つかないファンタジーのような事すら思ってしまう。

でも、ひとつだけ、一騎にはこの先ずっと理解させてはいけないと思う感情がある。

もしかしたら、もう気づいているのかもしれないとも思う。

それを確かめるために、わざわざ話がしたかったのではないかと。
でも、その片鱗でも見せられるのが怖かったのは自分で、無理矢理遮ってしまった。

そうでもしなければ、もし、一騎が自分と同じ感情を持ち得た事が解ってしまったら。

予め用意されていたこちら側にいる自分が、想像する事しか出来なかった向こう側を、
想像する事が出来てしまうからありもしないような比較に苦しんでいた向こう側を、
見る事すらも可能になってしまうような。

もしかしたら救われるんじゃないかと、望みたくもないような望みを持ってしまうからだ。


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