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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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星に願いを 最終話(後編)
「こんな所にいたのか」

背後から聞き慣れた総士の声がして、一騎は振り返った。
いつもの表情、なんだか最近見慣れてしまった感じの。探しに探してやっと迷子を見つけた親のような。
思えば、迷惑をかけて心配させて、そんな事ばかりだったな、なんて思う。

「あと1年で、乗れなくなるんだ」

だけど口を開いて出てきた言葉は全然違うものだった。

「お前は、お前だから」

「ファフナーが俺を、俺にしてくれたんだ!」

思わず総士の言葉を遮るように叫んだ。
「ファフナーがなくても」と続けるつもりだったんじゃないかな、と思う。けれどそれは今一番欲しい言葉でもあるかわりに、今一番聞きたくない言葉でもあった。
どうしてなのかはわかるようでわからない。それが上手く言葉に出来たら、自分にとって総士はこれほど重要な存在ではなかったかもしれない。

「前にも、言ったことあったっけ?」

できるだけ普通な振りをして言った。総士があまりにも心配そうな顔をしていたからだ。

「フェストゥムの中身ってさ、キラキラしてすごい綺麗だって。フェストゥムだからなのかなって思ってた、ずっと。でもさ、そうじゃなかったんだ」

涙がこぼれ落ちそうになるのをぐっと堪えた。頭が混乱してきて、真っ白に塗り潰されていくような、とても変な感じがする。

「殺しすぎて麻痺してきたのかな?」

暉の顔が浮かんで、すぐに消えた。

「そうだとしたら、まだマシなのかもしれないけど」

一旦言葉を切って、小さく深呼吸をした。総士の表情を伺おうと思ったけれど、結局できなかった。

「人間も、同じなんだ」

たぶんきっと後ろめたい気持ちなんだろうな、とも思った。

「すごい、綺麗なんだ。キラキラしてて、見とれるくらいの」

一騎はぎゅっと拳を握りしめる。言ってはいけない事を言ってしまったかのような。罪悪感なんて他人行儀な言葉じゃ到底片付かない程のドロドロと渦巻く何かが身体中をゆったりと巡り始める。

「もっと見てみたいって、思い始めてるんだ」

全身から汗が噴き出す、歯がガチガチと音を立てそうになる。
総士にこの気持ちはわかるのだろうか。
何も聞かない総士の顔を見ることすらできない。

「もう俺は、俺じゃなくなり始めてる。もしかしたら、これが本当なのかもしれないけど。俺は、今ここにいる俺は、それを認めたくなんてない。乗らなければ、こんな感情は消えるんだと思う。でも、ファフナーに乗らない俺も俺じゃない」

何を言っているのか、自分でも全然わからない。

「けど、乗るほどに俺はどんどんいなくなる」

ぜえぜえと、一騎は肩を上下するほどに呼吸を乱した。いつのまにか堪えていたはずの涙が溢れてぐちゃぐちゃの泣き顔になっていた。
本当の気持ちなのかもわからない、けれど言葉にする精一杯の現状だった。

「だがまた乗るんだろう?一騎」

突然、総士が口を開いた。

「今敵が来たら、ザインに乗って出撃する、それがお前の答えなんだろう?」

俯いていた顔を上げた。初めて総士と目が合った。
そこにはいつもの総士がいて、それはなんだかうれしいようで少し悲しくなるような指揮官の顔だった。

「お前が聞きたいのは、俺自身の気持ちじゃないだろう?」

総士の目が少し揺らいだ。それだけで十分だった。

「そう…だね」

一騎は総士の目を見て言った。なんだか不思議な気持ちだった。
喉元まで出かかっていた言葉をぐっと飲み込んだ。この先もたぶん言うことはない。

その時、けたたましく敵の襲来を知らせるサイレンが鳴り響いた。

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春コミおつかれさまでした&今後のオフ予定

コピー本と既刊お手にとっていただきありがとうございました。
次回のオフは5月のオンリーを予定していたのですが、ちょっと仕事の関係で出られない可能性が大きいです。
もし出られないようなら次回発行予定だった麻木くん本の内容を短編の形でブログに上げていこうと思っています。

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星に願いを最終話(前編)
季節外れの灯籠が静かに水面を流れていく。
名前が刻まれているのは2つだけ、その先には何も書かれていない多くの灯籠が風に流されて沖へと向かっている。

「元気に、してるのかな…どこかで」

そっと呟いた。
もうここにはいない2人のことを思いながら。


この季節外れの灯籠流しは、ほんの数日前に決まった。
2人をちゃんと送り出してあげようと、そう言ったのは剣司だった。
去年の残りがあるからと、2つだけ灯籠を持ってきた剣司に真矢は首を横に振った。

「もっとたくさん…必要だから」

続きは、心の中だけに留めておいた。
何も言わず倉庫に戻っていった剣司には、たぶんその意味がわかったはずだ。

自分達が殺した人間の数が、いつからかもうわからなくなっていた。
それが良くない事なのだけは、かろうじてまだ認識できる。
けれどいつも心の半分以上が鉛のように重く沈んで、何もかもが上手く感じ取れないような気がする。
息苦しいような悲しいような、よくわからないけれど不快な気持ちだった。

「一騎…くん?」

通路を横切る一騎が見えて、思わず真矢は呼び止める。
その声に気付いた一騎は足を留めると真矢の方を振り向く。

「急いでる?」

「いや、そんなことない…けど」

一騎を見るのはなんだか久しぶりだった。
あの日、ゼロファフナーがフェンリルを作動させて大爆発を起こした日から今まで、考えてみれば一度もその姿を見ていない。
それもそのはずで、あの跡、ザインの中で意識を失った一期はすぐにメディカルルームへと運ばれ、目を覚ましたのはつい昨日のことだった。

「3日後に、灯籠流しすることになったの、知ってる?」

一騎と一緒にベンチに腰を下ろした真矢は聞いた。

「そっか…2人の」

それだけ言って一騎は俯く。

「2人だけじゃなくて、もっと…たくさん。こんな事したって消えるわけじゃないことはわかってるよ」

「うn」

「でも、忘れたり…何も感じなくなったり…そんな事だけは絶対にしたくないから」

「うん」

「一騎くんも…」

「やっぱり遠見は、すごいよ」

「え?」

一騎は俯いていた顔を上げると、少しだけ笑った。

「遠見はここに、いるべきだと思うんだ」

「何…言ってるの?一騎くん」

一騎はゆっくりと立ち上がる。真矢は思わず制服の袖を掴んだ。

「一騎くんだってここにいるじゃない、今だって」

真矢の方を一騎は見ない。かわりに静かに口を開いた。

「確かに…俺は、いたよ。ここに」

そう言って掴んだままだった真矢の手を優しく外すと、一騎は歩き出す。
かける言葉が見つからないまま、ゆっくりと遠くなる後ろ姿を真矢は見つめることしかできなかった。

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星に願いを9
「どう…して」

ともすると意識が遠のきそうになるくらいのGを身体中に受けながら一騎は呟いた。
肋骨がギシギシと今にも砕け散りそうな音を上げる。締め付けられた心臓が悲鳴を上げる。

「こんなのは…もう、嫌だ」

ザインは急上昇を続ける。行く手に捉えるのは、灰色の巨大な機体。
その開口部から放たれる振動共鳴波の複雑な軌道を瞬時にかわしながら距離をつめていく。
一騎はその巨大な灰色の機体の一点を見つめる。
クロッシングをはかれないその空間にいる二人に思いを馳せる。

「お前の気持ちを受け止めていたら、こんなことには…ならなかったのか?」

一騎は呟いた。
脳裏に浮かぶのは、つい三日前の水中展望室でのこと。
強化ガラスにぺたりと頬をつけた瞭は、目を閉じたまま壁にもたれかかっていた。

「間違ってなんかないって」

一騎の存在に気付いたのか、瞭は静かに口を開く。

「間違ってなんかないって…言ってくれませんか」

消え入るような声で瞭は言った。

「僕は、間違ってるから、島には必要ないから、みんなと違うからそれは…敵なんですか」

「やり方がみんなと違うからそれで僕は責められる、たぶんそれは間違ってるってこと。けれど僕にはそれがわからない。間違ってなんかないんじゃないかって思う。でも自信がなくてぐらぐらする。誰かに、間違ってなんかないよって、言ってほしいんです」

瞭の閉じられた瞼から一筋涙が零れ落ちる。
一騎ははっと息を飲んだ。けれど、開いた口から言葉を発することは出来なかった。

「ごめんなさい、ただのわがままです…忘れてください」

そう言って瞭は俯いた。



「だからってお前の出した答えは、これなのか」

一騎はルガーランスを眼前に構える。

「島の…敵になることなのか」

そのままゼロファフナーに向かって突進すると、右前腕部に刀身を突き刺した。
そして刀身を先端から開こうとした瞬間、強制的にクロッシング状態に置かれる。

「一騎…先輩」

里奈だった。

「もう瞭は瞭じゃないんです。変わってしまった、いえ、私が変えてしまったのかもしれません。苦しんでたのを、知ってたのに」

突然開いたモニターに映った里奈の姿に一騎は絶句した。
腕の中に、血まみれの瞭を抱いたまま涙を流してこちらをじっと見ている。

「でも私はあの家に一人でいたくない。瞭と一緒がいいんです。わがまま言ってごめんなさい」

そう言って里奈は微笑んだ。
不意に目の前に画面が浮かぶ。
フェンリルだ、と一騎が理解した瞬間、ザインはゼロファフナーの右腕もろともその巨大な機体から切り離される。
レーザーパレットの逆噴射によって加速度をつけ、ものの数秒で数百メートルの距離をザインは吹き飛ばされた。

「だめだ」

一騎は力の限り叫ぶ。

「やめろ!戻ってこい!」

体勢を立て直したザインが反転した瞬間、凄まじい轟音が鳴り響いて辺りは一面、黒い煙に覆いつくされる。
ゼロファフナーのフェンリルが作動し、大爆発を起こしたのだ。

「…あ」

一騎は呆然と前を見つめる。

「どう…して」

掠れた声しか出なかった。喉がカラカラに渇いていた。
両頬を涙が伝っていくのがわかる。手も足もガクガクと震えだす。
一騎はコックピットの中で蹲った。

泣きたい訳ではなかった。悲しいのかもよくわからない。
何も考えたくなくて目を閉じると、そっと意識が遠のいていった。

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