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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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らぶらぼ7 end
いつものように総士の部屋でごろごろしていた一騎。
けれど今日は何かが違った。

絶対絶対聞いてやるんだ!!

と総士の仕事が終わるのをうずうず待っていた。
昨日、一騎にしては珍しく今までの出来事を頭の中で整理してみた。
そしたら何となく思った、いけるんじゃないかと。

そうこうしている内に総士の仕事がひと段落ついた様子。
一騎は思い切って総士に言った。

「そーしは俺のこと、どう思ってるの?」

「どう…って?」

案の定総士は訳がまったくわからないといった表情で、
でも今日の一騎は攻めまくる。

「すす、すきとか、キライ、とか」

すると総士は、ああ、そういう意味ねと言ってふわっと笑う。

「好きだよ」

その単語にうっかり死んでしまってもいいかと思った一騎だったが、まだまだ真意を聞いた訳ではないので頑張る。

「どんな風に?」

「…どんな?」

「たとえばさ、友達として…とかいろいろあるじゃん」

一騎がしどろもどろに答えると、総士は

「うーん、何て言ったらいいのかな、友達とは違う気がするんだけど…」

と口ごもった。

















「違うって、どんな風に?」

一騎はのびっと、総士の方を向いて尋ねる。

「友達ってさ、剣司とか衛とかもちろん一騎とか、そりゃみんな友達だと思うけど、一騎は…一騎だけちょっと違うんだ」

ちがうの?とちょっとの期待といっぱいの不安を抱えた一騎は首を傾げると、
なんて言うのかな…と総士も負けないくらいめいっぱい首を傾げて言う。

「一騎がエルフに乗っていると、まぁローンドックからかもしれないけど、他のファフナーよりも動きが気になってしまうんだ」

「それで、よくというか毎回ものすごく負傷するだろ?なるべく早くペインブロックを作動させようと思ってはいるけど、
一瞬でもあのすさまじい激痛が一騎に襲いかかっているのかと思うと、なんかもう無力感に打ちひしがれるというか」

「でもそれがエルフに乗っていなくても、いつのまにか一騎のことばっかり見てて」

なんか、ごめんな変なこと言って、と苦笑した総士にここぞとばかり一騎は言った。

「その時ってさ、どんな気持ち…する?」

「どんなって?」

なんでこう感情表現系の質問を質問返しするんだよ、と思いつつも一騎は続ける。

「どきどきしたり、する?」

「どきどきって…なんだ?」

え!?
そこですか…と一騎はかなりがっかりしたが、なんだかこれは万にひとつもない機会のような気がしたので結構思い切った。

「ここ…がさ」

と言って総士の左胸を制服の上からツンと押す。

「ぎゅーって締め付けられたり、する?」

…チクタクチクタク
やけに大きく秒針の音だけが部屋に響き渡る。
暫くの沈黙の後、一騎はおそるおそる総士を見上げた。

「する…かもしれない」

総士がぽつりと呟いた。
めずらしく俯き加減なので表情は見えないけれど。
聞き間違いじゃないよね?と一騎は心の中で確認してからひとつ深呼吸すると、俺も、と小さく言った。

「俺もそうなんだ」

ぱっと総士が顔を上げる。
一騎は顔を真っ赤にしながら言った。

「総士見てると、ぎゅーってなるんだ、総士のこと思うだけでぎゅーってなる」

一騎は総士の手をつかむと、自分の左胸に押しつけた。

「心臓がバクバクいってさ」

苦しいんだ、と一騎は呟いた。
押しつけた総士の手に自分の手を重ねる。
そっと指の間に自分の指を絡ませた。

「俺が苦しいの見てると、総士も苦しいんでしょ?」

だったらさ、と言って一騎は総士を見上げる。

「助けてよ」

「…どう、やって?」

この後に及んでまた?マークを飛ばす総士に、
そこまで言わせるなんてさ、と一騎は頬をふくらませるとそっと呟く。

「好き…って、言ってよ」

もちろん、友達って意味じゃなくてね、と念を押すと一騎はぎゅっと総士に抱きついた。
 

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らぶらぼ6
じゃんけんぽん!!

「・・・あ」

みんなグーを出した中で自分だけチョキ。

「じゃあ、一騎くん水くみに行ってきてね」

真矢は、満面の笑みで一騎にバケツを手渡した。


時間は夜の9時、アルヴィスの面々は海に来ていた。
何をかくそう、今日は毎年恒例の花火大会の日である。
なぜか七夕のちょっと前に開催されるこの一大イベントは、娯楽の少ない竜宮島の子供にとっては
年に数回開催されるお祭りと同様に心とっても踊るイベントとなっている。
そのための積立金がある程の花火大会、今年も女子は昼間からいそいそと花火を選びに行っていた。
が、例年なら午後7時に始まるはずのこの花火、今年は2時間も遅れてからのスタートとなった。
それもそのはず、さぁこれから準備をするかと思った矢先になんとも都合悪くフェストゥムが襲来したのである。
しかし人間というのはなんともゲンキンなもので、もの凄くイラついた面々は見事な連携プレーで
あっと言う間にフェストゥムを葬り去った。
だが、そんな努力も虚しく2時間遅れのスタートと相成り、
しょっぱなの水くみじゃんけんで気持ちいいほどすっぱり負けたのが一騎だった。

夏だからと、日が長いだろうと高をくくっていた自分が大誤算だったことに今更気付く。
いくら夏といえど、夜の9時にもなれば暗いのだ。

一騎は手渡されたバケツを持って大きな溜息を吐く。

崩れ落ちそうな気持ちを抱えて波打ち際であるだろう方角に向かった。


















夢ならば平気なのだ、自分でも驚くくらいに。
どんなに暗くて黒い海を泳いでいても、視点が自分のちょっと後ろから眺めているから、
自分がどこにいてどこに向かっていて、どこに行けないと解って、暗い闇に引き返すのも。
でも、

「真っ暗すぎる」

実際の海は空も砂浜も海も波も全部真っ暗で、まるで境界線なんて概念なんか最初から無かったかのように
ただの黒い世界が広がっている。
視界が遮られると逆に鋭敏さを増す聴覚が、寄せては返す波の音だけやけに大きく不気味に捉え始める。

「う」

怖い、あと何歩足を踏み出したら冷たい海水が足に触れ始めるのか。
波が見えないだけでこんなに怖いなんて。
一騎は波が来るか来ないかの所までしか行けず、さっきから一向に水がくめずにいた。

「だめだだめだ、俺負けたんだし」

男の子なんだし、とかちょっと抜けた思考で意を決すると、えいっと大きく一歩踏み出した。

「ひゃぁ・・・あ」

一瞬、膝まで海水に浸かってしまう。
ちょうどその時大きな波が打ち寄せたのだ。
真っ暗な世界で聴覚と触覚だけに訴えかけられたその衝撃に一騎は膝の力が抜け、波の引いた砂浜にへたりこんでしまった。

「・・・一騎?」

ふと背後から声がする。
真っ黒い世界に丸い光がぽわぽわと浮かんでいる。
振り返ると、懐中電灯の光だったのかと、だんだんその光がこちらへ近付いてくる。

「そ・・・し」

徐々に明瞭になる視界が捉えたのは総士の顔だった。

「どうした?大丈夫か?」

「あ、ごめ・・・だいじょ、ぶ」

慌てて立ち上がろうとしたが、膝にも腕にも力が入らずどうにも立てそうになかった。
気付かれちゃ、いけない。

「ちょっと転んじゃって・・・ほんと、へーきだから」

あっち行ってていいよ、と言おうとしたその言葉を一騎は言う事が出来なかった。

「ぁ・・・」

がっちりと肩に回された腕、首筋に感じる温もり。

「そー・・・し?」

座り込んでいた一騎の背後から、総士は一騎を抱き締めていた。

「無理・・・すんなって」

抱き締める総士の髪が頬にぎゅっと触れる。

「ずっと、震えてる」

それはっ、と必死に言い訳をしようとした一騎の口を総士の手が覆うと、怖かったんだよな?ごめん、
と背後でぽつり呟く声が聞こえた。
ずきん、と胸の奥が疼くような感覚。
その手と背中に感じる温もりになんだかとても一騎は安堵してしまって、気付けばぽろぽろと涙をこぼしてしまう。
総士は何も言わず、でも一騎の震えを少しでも和らげようと抱き締める腕だけちょっと強くした。


数分後、

「一騎くーん、水くんでくれた?」

あ、と真矢の声に急に我に返る。
バケツは両手で握り締めていたが、未だ中身は空っぽのままだ。
まずい。
と思ったその時、一騎の手からするりとバケツが抜ける。
見上げると、バケツを持った総士が波打ち際まで行って手早く水をくんで来る。

「ごめん、今行くから」

総士が真矢に声を掛けた。
ほら、と言った総士の元へ慌てて立ち上がって駆け寄る。
本当にごめん、と小さく呟くと総士は「何が?」と言ってふんわり笑った。
真っ暗だったのに、その笑顔だけはなぜだか凄く綺麗に見えたのが不思議だった。

「遅いよ一騎くん」

と帰るなり真矢に小言を言われたが、一騎は全然気にも留めなかった(悪いな、とは思った)
波打ち際からずっと繋いでいた手は、どうやら暗闇のせいでみんなには見えなかったようだ。

全身の震えはいつのまにかおさまっていた。
十数分前より、暗闇が苦手じゃなくなった自分が確かにここにいる。
さっきまで繋いでいた右手をぎゅ、と握りしめて「大丈夫」と自分に呪文を唱えると、
すでに盛り上がり始めている花火の輪へと一騎は入っていった。

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らぶらぼ5
「一騎、お前最近、綺麗になったな」

と、席に着くなり父親が言ったので、俺は飲みかけていたお茶を盛大に吹き出してしまった。
結構かなり熱めに入れたお茶だったからそれはもう舌とか唇が痺れる程熱くて思わず涙目になった俺に、

お、いいぞその顔!そういう顔だ

と意味不明な事を口走る父親を見て「どこが?どんな?」なんて聞いてしまう自分も親にも増して意味不明だと思う。
でもしょうがない、腐っても親子なんだし。

「一騎ももう15歳だもんな、恋のひとつやふたつ・・・」

「ふっ、ふたつもなんてしてないよっ・・・!!」

と近所迷惑省みず叫んだ俺に、

さすがは俺の子だ、なんてピュアなんだ

と惚れ惚れにやけている父親は本当にどうかしていると思う。鼻の下がさっきからのびっぱなしだ。
一体何を想像してるんだ。ああ、アルヴィスでこんな顔してたらどうしよう・・・。
ってのは置いといて、父さんごめんなさい!

そんなピュアな子供はホモでした

なんて、言えるわけないじゃないか。
父さん、なんで俺を女の子に生んでくれなかったんですか?あ、ごめん母さんだ(!)

「前途多難すぎるよ」

一騎は父親などお構いなしにおっきな溜息を吐いた。
ずずっと湯呑みをすすれば、残りのお茶がなんだか冷たい。
お茶まで、俺に冷たいなんて。
と一騎は父親譲りの意味不明な思考回路で一生懸命恋愛について考えていた。


















「痛っ・・・!」

いつものように総士の部屋で休憩をしていると、机に向かっていた総士が小さく声を上げた。
何事かと慌てて一騎がベッドから飛び起きて総士の元に向かえば、彼は指先を押さえて苦い顔をしている。
その指先には血が滲んでいて、

「だ、だいじょぶ?」

と一騎が尋ねると総士は苦笑しながら、書類でつい切っちゃったんだ、と言った。
こういうのって意外と後まで痛くて困るんだよな、絆創膏貰って来なきゃと。

「じゃあ、俺、貰ってくるからっ」

一騎はメディカルルームに行こうとしたが、その腕を掴まれて後ろを振り返ると総士は、あとでいいから、と言う。
でも、総士が痛いまま仕事してるのに俺だけ何もしてないなんて。
あ、別にサボってる訳じゃないぞ!
ファフナーの新戦闘シミュレーションプログラムを待ってるの、俺は。

じゃあ、せめて、
と一騎は総士の血の滲む手をそっと取ると、一生懸命恥ずかしさをこらえて言ってみた。

「い、いたいのいたいの飛んでけっ・・・///」

・・・
・・・・
・・・・・(沈黙)

まずい。
ちょう恥ずかしい。

でも意を決して顔を上げるとそこには案の定?マークをいつぞやの一騎以上に飛ばしてる総士の顔が。

お前ちょっとは空気読めよ!と先刻もっとも空気読めてない台詞をかました一騎はもじもじしながら総士を見つめた。

「・・・何だ、それ?」

第一声がソレですか・・・(がっくし)

一騎はもの凄く落胆しながら、子供の時こうすると痛くなくなるって、してもらわなかったか?と返した。

「ペインブロックか?」

・・・。
うんまぁ、当たらずとも遠からずって・・・って!
いつも以上に真面目な顔をして聞いてくる総士に一騎はなんだかもう自分がとてつもなく
大きな間違いをおかしてしまったと半ば馬鹿馬鹿しくなってしまった。

「もういい、ごめん、何でもないからやっぱ絆創膏取ってくる」

と今度こそ本当にメディカルルームへと行こうとした一騎を

「ぇ?」

またも後ろからがっちりと掴む腕にびっくりして振り向いた。
痛くなくなったからいいよ、と総士は言う。
そして、

「お前の優秀なペインブロックのおかげだ、ありがとう」

だなんてまたすっごい綺麗な笑顔でそんな事口にするもんだから、
なんかちょっとそれずれてるよ総士とか思った気持ちなんてどこかへ吹き飛んでしまって、
つられて俺もにへらっと笑ってしまった。

「お前のそれは誰にでも効くのか?」

なんてついでに尋ねられたから、

「そ、総士だけに決まってるじゃんか・・・!!」

とついつい本音が出てしまって、ああしまった、しまったよ俺と思ったら、

「なんかうれしいな、それ」

とかって総士がにこっと笑うから、

「痛くなったら、いつでも言えよっ!」

なんて言っちゃったけど、あれをまた言うなんて顔から火が出て死んでしまいそうだと思う。
だめだだめだ、死んだら総士に会えないじゃないか(!)
フェストゥムなんかにやられてる場合じゃないぞ、俺。
あいつらもキラキラして結構綺麗だと思うけど、至近距離で見た綺麗さは圧倒的に総士のが上だ
(遠くから見るとあいつらは金色で派手だから、遠くだとあいつらもまぁまぁ綺麗だ)

あ、でも俺は綺麗だからって抱き締められると安心するからって(のろけじゃないぞ!)
総士を壊そうなんて絶対絶対に思ってなんかないかんな!
でも総士に壊されるなら大歓迎だ!
・・・?
・・・・俺ってもしかしてMなのかも。
まぁいっか(たぶんよくない)

なんて考えながら格納庫に向かっている俺の鼻の下はゆるっと伸びっぱなしで、
ああやっぱり腐っても親子なんだなぁとぼんやり思う。

幸せそうだねぇ、一騎くん

とすれ違う人に結構言われた。
俺ってそんなに顔に出やすいのかな?

そうそう、その日のシミュレーションは初めてのプログラムなのに最高値を叩き出してしまった。
愛の力ってのは偉大だと思った。

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らぶらぼ4
「総士、休憩しよ?」

一騎はにっこり微笑むと、両手に持っていたアイスキャンディーの一つを差し出した。



















「お前なぁ、さっきから何回休憩してると思ってるんだ?」

総士はあからさまにイラっとした目をこちらへ向けている。
これは怒ってるよねぇ、と一騎は内心ものすごくびびりながらも、んーと、1時間前?
などと必死にとぼけてみせた。

「確かに1時間前だ、けどな、お前それから何分ここにいたと思ってる?
出てったのたった10分前だぞ?で、10分経ったらまた休憩って、
大体、そんなものアルヴィスには売ってないだろう?お前サボって買ったのか?」

まずい、完璧に怒ってるよ、まずい。
総士からは明らかに目に見えるように怒ってますオーラが漂っている、
というかなんだか攻撃されているような気分だ。
でもそれは誤解だ、と勇気を振り絞る。

「違うってば!!これ、整備のおじさんに貰ったの」

一騎は首をぶんぶん振って否定した。
総士はチラとこちらを見やると盛大に溜息を吐く。

「あのなぁ、知らない人から物貰っちゃいけないって何度言ったら・・・」

ぶつぶつと総士が小言をたれる。
ここまで完璧に否定され続けるとなんだか涙もろくなってしまうのが一騎の弱点といえば弱点で、
今回も例にもれずその両目には涙がたんまりと溜まり始めていた。

「ちょ、おい・・・泣くなって」

今日暑いだろ、これ食べなさい。

ぼけっと格納庫を歩いてたらいきなり目の前にアイスキャンディーが2つ。

あ、ありがとうございます!

確かにクーラーの利いてない格納庫はうだるような暑さで、
そのささやかな贈り物はだるくて仕方なかった一騎にとってはありがたかった。
でも、なぜ2つ・・・
両手に持ったアイスキャンディーをしばし見つめた一騎はハッと気付いてお辞儀をすると、
エレベーター目指して一目散に駆けだした。

転ぶなよ。

と背後で苦笑する声があちこちから聞こえたが気にも留めなかった。
ま、実際コケもしなかった。たぶん愛の力だ(?)

それはさておき、ファフナーで戦うだけの自分と違って、
朝からぶっ続けで仕事をしている総士はきっと疲れているに違いない、
だからもう一つは総士にあげよう、絶対、喜んでくれる筈だ。
そう思って総士の部屋のドアを幸せいっぱいに開けた一騎だったが、現実はそうも甘くはなかったようだ。

と、痛感した。

「・・・そ、しは、たべもの、むだに・・・するのかよっ」

涙をぼろぼろこぼしながら言う一騎に気圧されて総士はその手からアイスキャンディーを取ると、
未だドアの前で泣きじゃくる一騎をばこっと部屋の中に入れた。

「僕が、悪かったから・・・とにかく座れ、一騎。休憩しよう」

そう言うと総士はベッドに座る一騎の横に座った。

ペロ、ペロペロ・・・ペロ、ペロリ。

な、なんか気まずいし!
と一騎は無言のまま食べ始めてしまった自分に激しく後悔した。
なんで泣いちゃうんだよ、俺。
これじゃ総士を困らせたいだけみたいじゃんか。
違う、違うんだって、俺、総士のためを思って・・・

ありがと、一騎、お前、気が利くな。

そ、そんなことないって、当たり前だよ、こんなの///

・・・とかって甘い会話を(!)
くそぅ、何がいけなかったんだ俺。

って、ちょ・・・ちょっと待って!!
隣の総士ってば、

「も、もう食べ終わったの?」

聞けば、ああ、って返事をしながら総士がこっちを向いたかと思うと、
総士の綺麗な(←妄想)指がこっち伸びてきて、


ひょ・・・!?


く、くちびるですか!?


総士の親指が一騎の唇をすっとなぞった。
一騎は一瞬の事に元から弱い頭がさらに弱って固まる。
しかも、

「いっぱいついてるぞ?口の周り」

と言ってその親指をペロっと舐めた。


な、ななな、なめ・・・なめ!?


弱りまくった頭はついに思考停止し、一騎は訳がわからなくなって残りのアイスを一気に口に入れてしまった。

途端に、眉間から脳天に突き上がる嫌って程冷たい感覚。

きーーーーーーーーー・・・ん

う、と一言発したきり、一騎は頭を押さえてうずくまってしまう。
いたい、つめたい、いや、いたい。

いたいよ、総士。

なんて言えないけど言いたい程痛くて一騎はうずくまったままぼろぼろと涙をこぼした。
次の瞬間、

「ほんとバカだな、お前」

という声が聞こえたかと思うと、頭を押さえていた腕ごとふわっと何かに包まれる感触。

あったかい。

なんてぽけっと思っていたら目の前には白と紫のコントラストで・・・

・・・?
・・・制服?

てことは、

そ、総士に抱きしめられちゃってるわけ?俺

わーーーっ!わーーーーっ!わああああああっ!!(心の中)

一騎はいてもたってもいられなくなってもぞもぞと総士の腕の中で動いた。
しかし総士は、

「ちょっと大人しくしてろって、すぐ治るから」

頭、痛いんだろ?一気に食べ過ぎなんだよお前、と言ってぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
別の意味で大人しくなんてしてられなかった一騎だったが、
これ以上総士の機嫌を損ねるのはとんでもなかったのでちょっと大人しく腕に収まってみた。

・・・どど、どきどきすんなよ俺。

必死に鼓動を落ち着けようとしても無理っぽい。
一騎はハチキレそうな鼓動と思いを抱えたままぎゅ、と目を瞑って待った。

ぽふぽふ。

「そろそろ、大丈夫か?」

総士が一騎の髪を優しく撫でる。
一騎は瞑っていた目を開けると、がばっと飛び起きた。

「ご、ごめんっ・・・!!」

一騎がなかなか顔を上げられずにいると、頭上でフと笑った声がする。
そろそろっと目だけ上を向かせると、総士が一騎を見てふわっと笑っていた。

「実は、ちょっと疲れが溜まってたんだ」

総士は苦笑すると続けた。
からん、とアイスの棒が捨てられたゴミ箱が音を立てる。

「だから、甘いもの食べて、ちょっと元気が出た」

今度こそ一騎が顔を上げると、総士は一騎を見てふっと笑う。

「ありがとな、一騎」

と言った時の笑顔がそれはもう一騎には眩しすぎてなんだか冷たさの余韻もあってか頭がくらくらしてくる。

「そんなこと、ないってば・・・///」

俺こそ、邪魔してごめん、と小さく呟いた。
すると、総士は言った。

「こういうのなら、大歓迎、かな?」

その笑顔がさっきよりもキラキラ眩しくて本当に頭がくらくらした一騎は、
じゃあ俺っ、もう行くから、と言い残して部屋を出た。

が、どうも刺激が強すぎたらしくその場にへたり込んでしまった。

「一騎くん、どうしたの・・・そのカッコ?」

偶然通りかかった真矢が一騎に声をかけた。

暑いからといって前を肌蹴させたままの上着、取れかかったスカーフにぼさぼさの髪の毛・・・

・・・あ(汗)

「こ、これはっ!そのっ、暑かった、からっ」

一騎はなんか変な方向に誤解されてそうな真矢に必死に説明した。

が、

「格納庫じゃあるまいし、アルヴィス内はクーラーきいてるよ一騎くん」

妙にニヤニヤした真矢はその場にしゃがむと一騎の耳にそっと囁いた。

「怖くなって逃げだしちゃった?」

と一騎の胸をつんと人差し指で突く。
違う、違うって、とぶんぶん首を振る一騎に、

「皆城くんの部屋の前でそんなカッコしちゃってさ(笑)」

と、トドメの一撃をお見舞いしてから立ち去った。

「バカ真矢」

一騎は真矢の消えた方向を見つめて呟いた。



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らぶらぼ3
暗く低い雲が立ち込めた空からはひっきりなしに雷鳴が轟き、
数分前まで小降りだった雨はやがて土砂降りに変わった。
通り雨だろうと高を括った自分に溜息をひとつ。
今日の朝は忙しくて、つい天気予報を見ることをせずに家を出て来てしまった。

「遅刻、確実だよなぁ」

一騎は何度目になるかわからない溜息を吐いては時計を
見上げる。
今日の放課後は、アルヴィスにてマークエルフの戦闘シミュレーションを行う予定だ。
本当なら、今頃すでにアルヴィスに着いて総士の部屋に行き、

「お弁当、作ったんだけどなぁ」

手作り弁当を渡す予定だった。
3人分のお弁当を作っていたから、ついつい天気予報を疎かにしてしまった自分に心底嫌気が差してくる。

これじゃあ、怒られるのも確定だよ。

集合時刻まであと5分、一騎はいまだ学校の教室で泣きそうになりながら空を見つめていた。

















「やっぱりここにいたか」

ぼんやり恨めしそうに暗雲立ち込める空を見上げていた一騎だったが、
不意に背後から聞こえた声にびっくりして振り向いた。

「そ・・・し?」

教室の入り口には、総士が立っていた。

「あ、ご、ごめんっ!!今行こうと思って・・・」

まずいっ・・・!
雨に気を取られてたらぼけっと座りこんじゃってたよ。
どうしよ、とりあえず、

ガタンっ!!

と勢いよく席を立ってみたものの、慌てすぎたのがいけなかった。

「ほわ・・・ぁ!?」

急に視界が反転し、身体が平衡感覚を失う。
うわ、足ひっかけてコケるとかかっこわる・・・

「ぇ・・・え?」

数秒後にぶつかるであろう床の固い感触に身構えていた一騎だったが、いつまでたってもその衝突は訪れず、

「そそそ、そぉしぃっ!?」

「ったく、危なっかしいな、お前」

駆けつけた総士にしっかりと抱きとめられていた。
ぽふっと押し付けられた胸は、きっちり着込まれたアルヴィスの制服で、
なんだか微かにシャンプーの香りがしてすごく安心する。

・・・っといけないいけない、いけないぞ俺!

一騎は慌てて総士の胸に手をついて押し返す。

「ご、ごめんっ!だいじょ、ぶ、だから」

でも間近にあると思われる総士の顔を直視できる自信がないのでうつむいたまま。

「お前、気分、悪いのか?」

総士はうつむいた一騎の顎に手を掛けて上を向かせると心配そうな顔で見つめた。

だから顔近いんだってばっ・・・!!

一騎はばくばくしてる心臓と上がってしまう呼吸を抑えながら、「あ!」と思い出す。
ごそごそと机の横にかけてあったバッグを引き寄せると、中から赤チェックの巾着袋を取り出した。

「ここ、これ、作ったんだ」

一騎は真っ赤になりながら総士に巾着を持った手をぎゅ、と差し出す。
総士はそれを受け取る。

「これ?」

総士は首を傾げた。
一騎はぱくぱくと口を開け閉めしながら言った。

「お、お弁当・・・総士、ちゃんと食べて、ないだろ?」

その、味は保証しないけど、と呟いて一騎は恥ずかしさに耐えられずうつむいてしまう。
すると、ぽふ、と頭に手の感触。

「ありがとう」

おそるおそる見上げると、そこには優しく微笑む総士の顔。

うっわぁ、キレイだなぁ。

なんて見とれてる場合じゃなくて、俺。
ぼけっとしてたらまたぽふぽふ、と頭に感触。

「手作りなんて、久しぶりすぎて、うれしいな」

微笑む総士がぽつりと言った。

「もしかして、これ作ってて傘、忘れたとか?」

「う」

一騎はいたたまれなくなって目線をずらす。

「じゃあ今日の遅刻は僕の責任だな」

え?と一騎が総士を見ると総士はウィンクをしてみせた。

あ、ぇ・・・今の、何だよ。

一騎がぽかんと立ち尽くしていると、総士は「ほら早く、もう行くぞ」と言って一騎の背をぽんと叩く。
一騎は慌ててバッグを取ると、総士の後を追った。
下まで降りると総士は傘を開いて待っていた。
しかし、まさか一騎が傘を持っていないとは思わなかったらしく、
「ごめん1本しかないんだ、ちょっと濡れちゃうと思うけど」
と申し訳無さそうに笑ってくいくい、と手招きをする。
一騎が駆け足でその傘の中に入ると、総士は「こうしてくっついてたほうが濡れないから」と言って、
自分の腕を一騎の腕に絡ませた。
それはもうかなり恥ずかしくて一騎がまたうつむいていると、総士はぽつりと言った。

「毎日、こんなお弁当作ってもらえる真壁司令は幸せ者だな?」

「じゃ、じゃあ、総士にも毎日作ってやるよっ・・・///」

マズ・・・反射的に言っちゃった。
一騎がどきどきしているのなんてつゆ知らず総士は続ける。

「大変じゃ、ないか?」

「ただし、味の保証はしないかんなっ///」

くそぅ、そんな反則的な声で隣で言うなよっ。
一騎は顔を真っ赤にしながら総士の顔を見た。

ら、

「じゃ、幸せ者だな、僕も」

だなんて総士がにこにこ言ったものだから、それはもう鼻血が吹き出すかと思ったくらいびっくりして。
同時に、鼻血が吹き出そうなくらい思った、

しあわせかもしんない

と。

(でも俺が思う好きって気持ちとかとは、違うんだろうけど・・・ま、ちょっと前進かな?)

と、一騎は絡めた腕にぎゅうっと力を込めた。
アルヴィスまではあと少し、依然として止む気配を見せない土砂降りの雨。
一騎はほくほくしながらその道のりを歩いていた。

濡れた制服を乾かす総士の上半身に鼻血が吹き出すくらいどきどきしたのは、このちょっとあとの話。

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