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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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らぶらぼ3
暗く低い雲が立ち込めた空からはひっきりなしに雷鳴が轟き、
数分前まで小降りだった雨はやがて土砂降りに変わった。
通り雨だろうと高を括った自分に溜息をひとつ。
今日の朝は忙しくて、つい天気予報を見ることをせずに家を出て来てしまった。

「遅刻、確実だよなぁ」

一騎は何度目になるかわからない溜息を吐いては時計を
見上げる。
今日の放課後は、アルヴィスにてマークエルフの戦闘シミュレーションを行う予定だ。
本当なら、今頃すでにアルヴィスに着いて総士の部屋に行き、

「お弁当、作ったんだけどなぁ」

手作り弁当を渡す予定だった。
3人分のお弁当を作っていたから、ついつい天気予報を疎かにしてしまった自分に心底嫌気が差してくる。

これじゃあ、怒られるのも確定だよ。

集合時刻まであと5分、一騎はいまだ学校の教室で泣きそうになりながら空を見つめていた。

















「やっぱりここにいたか」

ぼんやり恨めしそうに暗雲立ち込める空を見上げていた一騎だったが、
不意に背後から聞こえた声にびっくりして振り向いた。

「そ・・・し?」

教室の入り口には、総士が立っていた。

「あ、ご、ごめんっ!!今行こうと思って・・・」

まずいっ・・・!
雨に気を取られてたらぼけっと座りこんじゃってたよ。
どうしよ、とりあえず、

ガタンっ!!

と勢いよく席を立ってみたものの、慌てすぎたのがいけなかった。

「ほわ・・・ぁ!?」

急に視界が反転し、身体が平衡感覚を失う。
うわ、足ひっかけてコケるとかかっこわる・・・

「ぇ・・・え?」

数秒後にぶつかるであろう床の固い感触に身構えていた一騎だったが、いつまでたってもその衝突は訪れず、

「そそそ、そぉしぃっ!?」

「ったく、危なっかしいな、お前」

駆けつけた総士にしっかりと抱きとめられていた。
ぽふっと押し付けられた胸は、きっちり着込まれたアルヴィスの制服で、
なんだか微かにシャンプーの香りがしてすごく安心する。

・・・っといけないいけない、いけないぞ俺!

一騎は慌てて総士の胸に手をついて押し返す。

「ご、ごめんっ!だいじょ、ぶ、だから」

でも間近にあると思われる総士の顔を直視できる自信がないのでうつむいたまま。

「お前、気分、悪いのか?」

総士はうつむいた一騎の顎に手を掛けて上を向かせると心配そうな顔で見つめた。

だから顔近いんだってばっ・・・!!

一騎はばくばくしてる心臓と上がってしまう呼吸を抑えながら、「あ!」と思い出す。
ごそごそと机の横にかけてあったバッグを引き寄せると、中から赤チェックの巾着袋を取り出した。

「ここ、これ、作ったんだ」

一騎は真っ赤になりながら総士に巾着を持った手をぎゅ、と差し出す。
総士はそれを受け取る。

「これ?」

総士は首を傾げた。
一騎はぱくぱくと口を開け閉めしながら言った。

「お、お弁当・・・総士、ちゃんと食べて、ないだろ?」

その、味は保証しないけど、と呟いて一騎は恥ずかしさに耐えられずうつむいてしまう。
すると、ぽふ、と頭に手の感触。

「ありがとう」

おそるおそる見上げると、そこには優しく微笑む総士の顔。

うっわぁ、キレイだなぁ。

なんて見とれてる場合じゃなくて、俺。
ぼけっとしてたらまたぽふぽふ、と頭に感触。

「手作りなんて、久しぶりすぎて、うれしいな」

微笑む総士がぽつりと言った。

「もしかして、これ作ってて傘、忘れたとか?」

「う」

一騎はいたたまれなくなって目線をずらす。

「じゃあ今日の遅刻は僕の責任だな」

え?と一騎が総士を見ると総士はウィンクをしてみせた。

あ、ぇ・・・今の、何だよ。

一騎がぽかんと立ち尽くしていると、総士は「ほら早く、もう行くぞ」と言って一騎の背をぽんと叩く。
一騎は慌ててバッグを取ると、総士の後を追った。
下まで降りると総士は傘を開いて待っていた。
しかし、まさか一騎が傘を持っていないとは思わなかったらしく、
「ごめん1本しかないんだ、ちょっと濡れちゃうと思うけど」
と申し訳無さそうに笑ってくいくい、と手招きをする。
一騎が駆け足でその傘の中に入ると、総士は「こうしてくっついてたほうが濡れないから」と言って、
自分の腕を一騎の腕に絡ませた。
それはもうかなり恥ずかしくて一騎がまたうつむいていると、総士はぽつりと言った。

「毎日、こんなお弁当作ってもらえる真壁司令は幸せ者だな?」

「じゃ、じゃあ、総士にも毎日作ってやるよっ・・・///」

マズ・・・反射的に言っちゃった。
一騎がどきどきしているのなんてつゆ知らず総士は続ける。

「大変じゃ、ないか?」

「ただし、味の保証はしないかんなっ///」

くそぅ、そんな反則的な声で隣で言うなよっ。
一騎は顔を真っ赤にしながら総士の顔を見た。

ら、

「じゃ、幸せ者だな、僕も」

だなんて総士がにこにこ言ったものだから、それはもう鼻血が吹き出すかと思ったくらいびっくりして。
同時に、鼻血が吹き出そうなくらい思った、

しあわせかもしんない

と。

(でも俺が思う好きって気持ちとかとは、違うんだろうけど・・・ま、ちょっと前進かな?)

と、一騎は絡めた腕にぎゅうっと力を込めた。
アルヴィスまではあと少し、依然として止む気配を見せない土砂降りの雨。
一騎はほくほくしながらその道のりを歩いていた。

濡れた制服を乾かす総士の上半身に鼻血が吹き出すくらいどきどきしたのは、このちょっとあとの話。

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