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もうひとつの一騎BD記念
「誕生日おめでとう、一騎」

操は一騎の後ろ姿に向けて言うと、一騎は立ち止まってゆっくりとこちらを振り返る。
「操?」と視線をさまよわせる彼に歩み寄ると、操はその手を取った。
思わずびくりと震えた一騎に操はくすりと笑うとまた口を開く。

「何か、おかしなこと言った?」

「…そうじゃ、ないけど」

「びっくりした?」

返答につまる一騎を見て操はまた笑うと、「はじめてだよね」と言う。
焦点が今一つ合わない一騎の目に自分の目線を合わせると心なしか一騎の瞼が揺れる気がする。

「一騎の誕生日」

もちろん一騎にとっては17回目なのだけれど、操がここに来てからはこれが初めてだった。
「あ」と言いたげに口を開いたままの一騎に操はまた問いかける。

「教えてくれても、よかったのに」

一騎がもともとこういうことに無頓着なのは何となく感じていたけれど、
他の皆が当然のように知っていることを自分だけ知らないという事実が、
なんだか操には面白くなかった。

「僕だって嬉しいんだよ、一騎が生まれてきてくれたことが」

その心の中の大部分を占めている存在にだけ祝福されればいいなんて思えない。
けれどその存在を消すことも自分には叶わないから、
なんとなく精一杯の抵抗のつもりで「自分も」なんて言葉を告げてみる。
心の中を見透かされたような気持ちになったのか、案の定一騎は視線をより一層さまよわせている。
違うんだって、と操はため息をつきつつまた口を開いた。

「困らせたいわけじゃないんだって」

そう言って操は一騎の手を両手で包み込む。
思いの外ひんやりとしていた指先に操は驚きつつも、ぎゅと少しだけ両手に力を込めた。

「誕生日なんだからさ、おめでとうって言うの普通でしょ?」

だからさ、おめでとう。
改めて操は一騎に告げると、やっと一騎は表情を緩めて小さく「ありがとう」と呟いた。

「なーんか、やっぱり強敵だなぁ」

「え?」

「ここにいなくたって、こんなに一騎のこと束縛しておけるなんてさ」

「操?」

「皆城総士」

「なんで、総士?」

「うらやましいなぁって、思っただけ」

「総士のこと、そんな気になるのか?」

「いや、どっちかっていうと、一騎なんだけど」

「…俺?」

「あーもうさ、だからなんか色々、一騎のことが気になるの」

「操?」

「あーだからそうやって首とか傾げないで、ほんとに」

「って言われても」

「困った顔しないでってば」

「え?」

「もーほんとさ、だめだ」

「何が?」

「全部」

「は?」

「ある意味、皆城総士って尊敬に値するべき存在なのかも」

「何言ってんの、操」

「ん、一騎にはたぶん、きっとわかんないかも」

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