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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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増歪
操は不敵な笑みを浮かべては一騎を見降ろした、一騎はじっと床を見つめたまま動かなかった。
いつだってそうだ、この関係は、この位置が言葉よりも如実に表していると思う。
皆が疑問一つ持たず打ち解ける中で自分一人だけ拭えなかった拒絶に近い感情。
それを巧みに利用したのは操で、それを打ち破る術を持たなかったのは一騎だ。
そしてそのまま月日は流れた、何もしなかったのは、何もする気が起らなかったからだ。
窓から差し込む午後の日差しが眩しいと思う。
まだそんなに早い時間なんだと少し驚きながらも、ただぼうっと白く浮かび上がる目の前に茫然とする。
落ちた視力の所為でうまく周囲が把握出来ないというよりも、見えたところで何一つ見たいとも思えない。
目の前に立つ男がその最たる象徴だ。
輪郭すら本来なら見えるはずもないのに、その口元が笑っているのが解ってしまうのが嫌だと思う。
一騎はぐっと拳を握りしめると、湧き上がる震えをやり過ごそうと歯を食いしばった。

「認めないのは構わないよ、僕には大して関係ない、けれど、苦しいのは一騎自身でしょう?」

操が口を開いた。
それが何を意味しているのかは痛い程解る、先ほど起こった戦闘の事だ。
操は優秀な指揮官だと思う、それは総士に匹敵するほどに。
けれど決定的に違うところがあると、一騎は思う。
口に出したことは無かったけれど、決して総士は選択しなかった事。
作戦の為ならばパイロットの命もかえりみず、まるで使い捨てるように命令を下す。
それは力の増大したフェストゥムに対抗するための有効な手段なのだと最初は言い聞かせた。
けれど、たぶん、それは一騎の思い違いだった。
現に先ほどの戦闘でファフナーが二機、フェストゥムとともに自爆した。
同じく前線に出て戦闘の真っ最中だった一騎は、最後の手段としてフェンリルを使用したのだと、そう思った。
それを選択するしかなかったパイロットの事を思って静かに涙を流した。
けれど現実はもっと残酷で。
フェンリルを強制起動させたのだと、操は言った。
ファフナーから降りた一騎をわざわざ呼び出して、そして口元に笑みを浮かべた。
自分が向かった所で二機とも無事に助け出せるとは到底思えない。
でも、いくら覚悟は出来ているといえ、自分が死ぬまでの僅かな時間を強制的に決められてしまうのは、
それはどんな気持ちがするのだろうと、一騎は死んだ二人のパイロットを思うと足が竦みそうな恐怖に襲われた。

「その身体で、強制的にクロッシングを切ることがどれだけ負担になるかは解ってるくせに」

現に、今だって立ってるのがやっとなんでしょう、と操は畳みかけるように一騎に話す。
それは、一騎の精一杯の抵抗のつもりだった。
操の操るジークフリードシステムとのクロッシングを強制的に解除してフェストゥムに対峙した。
今までの戦闘経験とマークザインの機体性能があれば、フェストゥム一体を相手にする事はそれ程難しくはない。
けれど、同化現象の進む一騎の身体でそれを行うことは、自殺行為に等しいと常日頃から聞かされている。
だから一騎も、なるべく感情は押し殺してクロッシングを続けていた。
それが、自分が生き残るためにも、島を守るためにも最良の手段だと思ったからだ。
でも、操の余りにも命の重さを感じさせないような指揮に疑問は募るばかりで、そしてクロッシングを解除した。
それをしないと目の前の敵を倒すという目的すら忘れてしまいそうなくらい頭が混乱したからだった。

「ねぇ一騎、聞いてる?」

「聞いてる」

「解らないわけじゃないなら、もうあんなことはやめなよ」

「どうして」

「何?」

「パイロットの命なんかどうでもいいなら、俺のことだってどうでもいいだろ」

「そうだね、でもさ」

そう言って操は一騎に歩み寄る。
一騎は思わず身体を引こうとしたが操が一足先にその腕をしっかりと捕まえた。

「一騎がいなくなったら、この島は誰が守るの?」

操はまた笑った、笑ったかどうかなんて正確には捉えきれない視力を補うかのように、空気がそう感じさせた。

「一騎だって、そう思ってるんでしょう?」

操はそのまま一気に一騎を引き寄せると腕の中に閉じ込める。
もがこうとした一騎にぎゅっと力を込めて両腕をしっかりと繋ぎ止めると耳元で静かに囁いた。

「だから君はまだ死ねない」

吐息が気持ち悪くて一騎はぶるっと身震いをする。
けれど囁かれた言葉は、なぜか呪文のように耳の奥に木霊して当分離れそうになかった。
生かされていると思いこみたいのに、生きたいと心の底から願う自分を見透かされたような気持ちがして、
逃げ出したいようなそんな気分になる。
そんな事を操が許すはずもないのは今までで解りきっている事だけれど、そう思っている事すら、目の前の男は
全て解っているのではないかと思えてしまう。
全部否定出来ない自分に嫌というほど自己嫌悪の感情が込み上げてくるのを感じながら、一騎はひたすら、
操が離れて行くのを待つしかなかった。

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