蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.24 Sunday
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プラットホーム(高校生中学生パラレル)
2011.11.20 Sunday
「どこまで行くの?」
総士は差していた傘の中に少年を入れた。
少年は慌てて振り返ると驚きを隠せない眼差しをこちらに向ける。
傘、持ってないんでしょ、と優しく微笑むと、目の前の彼は気まずそうに俯いた。
丁度、その日は生徒会の活動の一環で、隣町の高校へと行くことになった。
毎年恒例の意見交換会だったのだが、一通り用意していった形式的な問答をしただけに終わり、
一時間もしない内に総士は学校の外へと出ていた。
思いの外早く終わったので、書類を一度学校に置いてから帰ろうと駅に向かう途中でぽつぽつと雨粒が空から落ちてくる。
見上げれば空には真っ黒な雲が低くたれこんで、10分もしないうちに土砂降りへと変わってしまった。
総士はため息を吐くと鞄の中から折りたたみ傘を取り出して差す。
小さいので土砂降りになってしまった今、余り本来の用途は成していなかったが、
頭だけでも濡れないよりかはマシだと思う。
周りの通行人が皆走り出す中、ぽつりと前を歩く人影に目が留まった。
制服姿の黒髪の少年。
でもその制服姿は隣町の中学のもので、総士もつい二年前まで着ていたものだった。
なぜここに?と総士は疑問に思ったが、もう一度彼の姿を見ると小走りに駆け寄る。
傘を差していないことから持っていないのは明らかだったが、
右手に持った松葉杖と足を引きずりながら歩く姿を見たからだった。
追いついて傘を差しだし、どこまで行くのかと尋ねる。
その制服姿からして自分と同じ方角へ帰るのだろうと思ってのことだった。
振り向いた少年は驚きの表情を隠せずにいて、まぁいきなりこんなことされたら普通は驚くよな、と総士は思う。
けれど一向に返ってこない返事に違和感を覚えて少年の顔を見ると、彼は総士の左手をいきなり掴んだ。
『ありがとうございます』
ゆっくり一文字一文字指でなぞられて、今度は総士の方が驚いて少年を見つめる。
すると彼は少し困ったように笑って、○○駅まで、と続けて手のひらをなぞった。
「君は、声が…?」
やっとの思いで総士が言うと、少年は寂しげに微笑む。
総士は気を取り直すと、とりあえず駅まで行こうと言って少年を傘に入れた。
松葉杖の少年に合わせてゆっくり駅まで歩き、帰りの電車を待つ。
通りにはあれだけ小走りの人々がいたというのに、ホームには総士と少年の二人だけだった。
ざあざあと雨粒が白く線路に跳ね返って、周りの音がかき消される。
隣には自分より頭ひとつ分背の低い少年。
総士は口を開いた。
「どうして、この雨の中ここまで?」
すると少年は背負っていたリュックのポケットからノートとペンを取り出して即座に文字を書いていく。
『お墓参りです』
誰の?と問いかけようとした総士の質問をわかっていたかのように少年は『母の』と付け足した。
総士は言葉に詰まった。
中学生ですでに母親を亡くすというのはどんな気持ちがするのだろうと掛ける言葉を選び損ねてしまったからだ。
「ごめん、ね。言いたくないことだったかもしれないよね」
と少し間をおいて総士は少年に言った。
しかし少年は首を横に振り、またノートにペンを走らせる
。
『事故に遭ったんです、俺たち、一年前に』
書かれた文字列が告げた事実に総士は驚きを隠せずに少年を見つめる。
きっとその時の後遺症か何かで、この少年は右足が不自由になり声も失ったのだろう。
親を亡くして自分の身体も思うように動かせなくなるなどまだ高校生の総士には想像もつかないような事だったが、
目の前の自分より年下の少年にその事実が起こっている事にただただ呆然としてしまった。
『今日は学校が早く終わったから、お墓参りに行こうと思って来たんですけど、まさか雨が降るとは思ってなくて』
本当にありがとうございます、と彼は書いてこちらを向くと微笑んだ。
その笑顔にはっとして総士は「折りたたみしか持ってなくてごめんね」と慌てて返す。
一人でも濡れてしまうほど小さい傘に無理矢理二人で入って駅まで歩いてきたので、
頭以外は二人とも濡れてしまっていた。
先輩ぶって傘を差し出した割にこんな有様じゃかっこ悪いよな、と総士は恥ずかしくなる。
と、目の前にノートが差し出された。
『その制服、○○高校ですか?』
うん、二年なんだ、と言って総士は隣を見ると、じゃあ、と書き始めていたところだったので、
君と同じ中学だよ、と付け加えた。
『じゃあ…先輩、ですね?』
そのまま彼が続けて書いたので、そうだね、と総士は答えたが、
なんだか先輩と呼ばれ慣れていないせいかやけにむず痒いような感覚がする。
「君は何年?」
とそれを吹っ切るかのように総士が尋ねれば、指が三本差し出され、ああ三年なのかと総士は少年を見た。
「じゃあ、来年一緒だね」
と総士が笑うと少年もつられて笑う。
そういえば名前聞いてなかったなと思い尋ねると、『真壁一騎(まかべかずき)』と
書いたページを彼はぺらぺらとめくって示した。
そっか、名前言うことは多いから予めページ作ってあるのか、と総士は思う。
「僕は皆城総士、っていうんだ」
よろしくね、一騎くん、と言って手を差し出すと、彼はちょっとびっくりしたような顔をして、すぐに手を握り返した。
電車の到来を告げる駅員のアナウンスがして、その後、雨に濡れた電車がホームに入ってくる。
ホームとの段差に戸惑っていた彼を総士は助けて電車に乗り込んだ。
手にしたノートをぱらぱらとめくって感謝の言葉を探しているらしい彼に総士は「気にしないでいいから」と言うと、
彼の隣に腰を下ろす。
自分達以外誰も車両には乗っていなかったが、不思議と流れる沈黙に気まずさは感じなかった。
「着いたら駅でちょっと待ってて」
学校に置き傘があるから取ってくる、と言うと隣の彼は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
顔を上げると目が合い、なんとなくどちらともなく笑った。
来年がちょっと待ち遠しいな、と総士は思いながらコトコトと電車に揺られる。
連絡先、聞いたら変に思われるかな、と思いつつポケットの中の携帯電話を握りしめた。
総士は差していた傘の中に少年を入れた。
少年は慌てて振り返ると驚きを隠せない眼差しをこちらに向ける。
傘、持ってないんでしょ、と優しく微笑むと、目の前の彼は気まずそうに俯いた。
丁度、その日は生徒会の活動の一環で、隣町の高校へと行くことになった。
毎年恒例の意見交換会だったのだが、一通り用意していった形式的な問答をしただけに終わり、
一時間もしない内に総士は学校の外へと出ていた。
思いの外早く終わったので、書類を一度学校に置いてから帰ろうと駅に向かう途中でぽつぽつと雨粒が空から落ちてくる。
見上げれば空には真っ黒な雲が低くたれこんで、10分もしないうちに土砂降りへと変わってしまった。
総士はため息を吐くと鞄の中から折りたたみ傘を取り出して差す。
小さいので土砂降りになってしまった今、余り本来の用途は成していなかったが、
頭だけでも濡れないよりかはマシだと思う。
周りの通行人が皆走り出す中、ぽつりと前を歩く人影に目が留まった。
制服姿の黒髪の少年。
でもその制服姿は隣町の中学のもので、総士もつい二年前まで着ていたものだった。
なぜここに?と総士は疑問に思ったが、もう一度彼の姿を見ると小走りに駆け寄る。
傘を差していないことから持っていないのは明らかだったが、
右手に持った松葉杖と足を引きずりながら歩く姿を見たからだった。
追いついて傘を差しだし、どこまで行くのかと尋ねる。
その制服姿からして自分と同じ方角へ帰るのだろうと思ってのことだった。
振り向いた少年は驚きの表情を隠せずにいて、まぁいきなりこんなことされたら普通は驚くよな、と総士は思う。
けれど一向に返ってこない返事に違和感を覚えて少年の顔を見ると、彼は総士の左手をいきなり掴んだ。
『ありがとうございます』
ゆっくり一文字一文字指でなぞられて、今度は総士の方が驚いて少年を見つめる。
すると彼は少し困ったように笑って、○○駅まで、と続けて手のひらをなぞった。
「君は、声が…?」
やっとの思いで総士が言うと、少年は寂しげに微笑む。
総士は気を取り直すと、とりあえず駅まで行こうと言って少年を傘に入れた。
松葉杖の少年に合わせてゆっくり駅まで歩き、帰りの電車を待つ。
通りにはあれだけ小走りの人々がいたというのに、ホームには総士と少年の二人だけだった。
ざあざあと雨粒が白く線路に跳ね返って、周りの音がかき消される。
隣には自分より頭ひとつ分背の低い少年。
総士は口を開いた。
「どうして、この雨の中ここまで?」
すると少年は背負っていたリュックのポケットからノートとペンを取り出して即座に文字を書いていく。
『お墓参りです』
誰の?と問いかけようとした総士の質問をわかっていたかのように少年は『母の』と付け足した。
総士は言葉に詰まった。
中学生ですでに母親を亡くすというのはどんな気持ちがするのだろうと掛ける言葉を選び損ねてしまったからだ。
「ごめん、ね。言いたくないことだったかもしれないよね」
と少し間をおいて総士は少年に言った。
しかし少年は首を横に振り、またノートにペンを走らせる
。
『事故に遭ったんです、俺たち、一年前に』
書かれた文字列が告げた事実に総士は驚きを隠せずに少年を見つめる。
きっとその時の後遺症か何かで、この少年は右足が不自由になり声も失ったのだろう。
親を亡くして自分の身体も思うように動かせなくなるなどまだ高校生の総士には想像もつかないような事だったが、
目の前の自分より年下の少年にその事実が起こっている事にただただ呆然としてしまった。
『今日は学校が早く終わったから、お墓参りに行こうと思って来たんですけど、まさか雨が降るとは思ってなくて』
本当にありがとうございます、と彼は書いてこちらを向くと微笑んだ。
その笑顔にはっとして総士は「折りたたみしか持ってなくてごめんね」と慌てて返す。
一人でも濡れてしまうほど小さい傘に無理矢理二人で入って駅まで歩いてきたので、
頭以外は二人とも濡れてしまっていた。
先輩ぶって傘を差し出した割にこんな有様じゃかっこ悪いよな、と総士は恥ずかしくなる。
と、目の前にノートが差し出された。
『その制服、○○高校ですか?』
うん、二年なんだ、と言って総士は隣を見ると、じゃあ、と書き始めていたところだったので、
君と同じ中学だよ、と付け加えた。
『じゃあ…先輩、ですね?』
そのまま彼が続けて書いたので、そうだね、と総士は答えたが、
なんだか先輩と呼ばれ慣れていないせいかやけにむず痒いような感覚がする。
「君は何年?」
とそれを吹っ切るかのように総士が尋ねれば、指が三本差し出され、ああ三年なのかと総士は少年を見た。
「じゃあ、来年一緒だね」
と総士が笑うと少年もつられて笑う。
そういえば名前聞いてなかったなと思い尋ねると、『真壁一騎(まかべかずき)』と
書いたページを彼はぺらぺらとめくって示した。
そっか、名前言うことは多いから予めページ作ってあるのか、と総士は思う。
「僕は皆城総士、っていうんだ」
よろしくね、一騎くん、と言って手を差し出すと、彼はちょっとびっくりしたような顔をして、すぐに手を握り返した。
電車の到来を告げる駅員のアナウンスがして、その後、雨に濡れた電車がホームに入ってくる。
ホームとの段差に戸惑っていた彼を総士は助けて電車に乗り込んだ。
手にしたノートをぱらぱらとめくって感謝の言葉を探しているらしい彼に総士は「気にしないでいいから」と言うと、
彼の隣に腰を下ろす。
自分達以外誰も車両には乗っていなかったが、不思議と流れる沈黙に気まずさは感じなかった。
「着いたら駅でちょっと待ってて」
学校に置き傘があるから取ってくる、と言うと隣の彼は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
顔を上げると目が合い、なんとなくどちらともなく笑った。
来年がちょっと待ち遠しいな、と総士は思いながらコトコトと電車に揺られる。
連絡先、聞いたら変に思われるかな、と思いつつポケットの中の携帯電話を握りしめた。
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