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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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らぶらぼ6
じゃんけんぽん!!

「・・・あ」

みんなグーを出した中で自分だけチョキ。

「じゃあ、一騎くん水くみに行ってきてね」

真矢は、満面の笑みで一騎にバケツを手渡した。


時間は夜の9時、アルヴィスの面々は海に来ていた。
何をかくそう、今日は毎年恒例の花火大会の日である。
なぜか七夕のちょっと前に開催されるこの一大イベントは、娯楽の少ない竜宮島の子供にとっては
年に数回開催されるお祭りと同様に心とっても踊るイベントとなっている。
そのための積立金がある程の花火大会、今年も女子は昼間からいそいそと花火を選びに行っていた。
が、例年なら午後7時に始まるはずのこの花火、今年は2時間も遅れてからのスタートとなった。
それもそのはず、さぁこれから準備をするかと思った矢先になんとも都合悪くフェストゥムが襲来したのである。
しかし人間というのはなんともゲンキンなもので、もの凄くイラついた面々は見事な連携プレーで
あっと言う間にフェストゥムを葬り去った。
だが、そんな努力も虚しく2時間遅れのスタートと相成り、
しょっぱなの水くみじゃんけんで気持ちいいほどすっぱり負けたのが一騎だった。

夏だからと、日が長いだろうと高をくくっていた自分が大誤算だったことに今更気付く。
いくら夏といえど、夜の9時にもなれば暗いのだ。

一騎は手渡されたバケツを持って大きな溜息を吐く。

崩れ落ちそうな気持ちを抱えて波打ち際であるだろう方角に向かった。


















夢ならば平気なのだ、自分でも驚くくらいに。
どんなに暗くて黒い海を泳いでいても、視点が自分のちょっと後ろから眺めているから、
自分がどこにいてどこに向かっていて、どこに行けないと解って、暗い闇に引き返すのも。
でも、

「真っ暗すぎる」

実際の海は空も砂浜も海も波も全部真っ暗で、まるで境界線なんて概念なんか最初から無かったかのように
ただの黒い世界が広がっている。
視界が遮られると逆に鋭敏さを増す聴覚が、寄せては返す波の音だけやけに大きく不気味に捉え始める。

「う」

怖い、あと何歩足を踏み出したら冷たい海水が足に触れ始めるのか。
波が見えないだけでこんなに怖いなんて。
一騎は波が来るか来ないかの所までしか行けず、さっきから一向に水がくめずにいた。

「だめだだめだ、俺負けたんだし」

男の子なんだし、とかちょっと抜けた思考で意を決すると、えいっと大きく一歩踏み出した。

「ひゃぁ・・・あ」

一瞬、膝まで海水に浸かってしまう。
ちょうどその時大きな波が打ち寄せたのだ。
真っ暗な世界で聴覚と触覚だけに訴えかけられたその衝撃に一騎は膝の力が抜け、波の引いた砂浜にへたりこんでしまった。

「・・・一騎?」

ふと背後から声がする。
真っ黒い世界に丸い光がぽわぽわと浮かんでいる。
振り返ると、懐中電灯の光だったのかと、だんだんその光がこちらへ近付いてくる。

「そ・・・し」

徐々に明瞭になる視界が捉えたのは総士の顔だった。

「どうした?大丈夫か?」

「あ、ごめ・・・だいじょ、ぶ」

慌てて立ち上がろうとしたが、膝にも腕にも力が入らずどうにも立てそうになかった。
気付かれちゃ、いけない。

「ちょっと転んじゃって・・・ほんと、へーきだから」

あっち行ってていいよ、と言おうとしたその言葉を一騎は言う事が出来なかった。

「ぁ・・・」

がっちりと肩に回された腕、首筋に感じる温もり。

「そー・・・し?」

座り込んでいた一騎の背後から、総士は一騎を抱き締めていた。

「無理・・・すんなって」

抱き締める総士の髪が頬にぎゅっと触れる。

「ずっと、震えてる」

それはっ、と必死に言い訳をしようとした一騎の口を総士の手が覆うと、怖かったんだよな?ごめん、
と背後でぽつり呟く声が聞こえた。
ずきん、と胸の奥が疼くような感覚。
その手と背中に感じる温もりになんだかとても一騎は安堵してしまって、気付けばぽろぽろと涙をこぼしてしまう。
総士は何も言わず、でも一騎の震えを少しでも和らげようと抱き締める腕だけちょっと強くした。


数分後、

「一騎くーん、水くんでくれた?」

あ、と真矢の声に急に我に返る。
バケツは両手で握り締めていたが、未だ中身は空っぽのままだ。
まずい。
と思ったその時、一騎の手からするりとバケツが抜ける。
見上げると、バケツを持った総士が波打ち際まで行って手早く水をくんで来る。

「ごめん、今行くから」

総士が真矢に声を掛けた。
ほら、と言った総士の元へ慌てて立ち上がって駆け寄る。
本当にごめん、と小さく呟くと総士は「何が?」と言ってふんわり笑った。
真っ暗だったのに、その笑顔だけはなぜだか凄く綺麗に見えたのが不思議だった。

「遅いよ一騎くん」

と帰るなり真矢に小言を言われたが、一騎は全然気にも留めなかった(悪いな、とは思った)
波打ち際からずっと繋いでいた手は、どうやら暗闇のせいでみんなには見えなかったようだ。

全身の震えはいつのまにかおさまっていた。
十数分前より、暗闇が苦手じゃなくなった自分が確かにここにいる。
さっきまで繋いでいた右手をぎゅ、と握りしめて「大丈夫」と自分に呪文を唱えると、
すでに盛り上がり始めている花火の輪へと一騎は入っていった。

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