蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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パラダイスロスト4
2011.11.20 Sunday
scene:14
一騎は次々と迫り来るフェストゥムの攻撃をかわしながらその懐にファフナーを割り込ませると、
渾身の力で変形させたアームを突き刺す。
なんともいえない鈍い感覚がリンクシステムを通じて伝わり、更に力を込めればぷつ、と
その命を確実に絶った音が聞こえるような気がした。
「何も、聞こえないよ」
俯いたまま呟く。
殺すことに躊躇していた自分、殺してしまった命に対してどうしようもない罪悪感に駆られていた自分、楽園の定義。
全てが現実感のない靄のかかったどこか遠くへ置き去りにしてきてしまったような、奇妙な感覚。
絶えず戦闘時に聞こえていた声さえ、もう聞こえているのかわからなかった。
「俺は、もうすぐ消えちゃうんだ、総士」
日に日に狭まっていく思考、気づかない訳ではなかった。心の中でどんどん何も感じない部分が大きくなる。
毎日、話すのが楽しかった、困らせてばっかりだったけど。困った顔とか、しょうがないなって笑う顔を見るのが好きで。
そんな顔をする総士が好きで、
真壁一騎が羨ましいと、そう思った。
「5分以内に倒したよ、総士」
あれから、戦闘中にジークフリードシステムからのクロッシングは拒絶したままだ。
向こうからこちらに強制的に接続もしてはこない。
「ケーキ、食べたいよ」
泣きそうな声で、一騎は言った。
scene:15
戦闘後、メディカルルームでチェックを受けていた一騎は抗体注射を持ってきた遠見に言った。
「注射、今日はいいです」
そう言ってベッドから起き上がる。遠見は慌てて注射器をサイドテーブルに置くと、一騎に尋ねた。
「何を言ってるの?横になりなさい」
一騎は俯いたまま、遠見の言うことを聞こうとしない。遠見は一騎の肩を掴むと、その顔を覗きこんだ。
「解っているとは思うけど、あなたはこれがなければ動けないのよ」
別に、このままずっと注射を受けずに逃げてしまおうとかそんな気持ちがあるわけではない。
ただ、総士に伝えなきゃいけない、と思っていた。
今日、注射を受けたらもう解らなくなってしまうかもしれない。
まだ俺が、俺でいられるうちにどうしても伝えたかったのだ。
「でも、ごめんなさい」
そう言って一騎は遠見の手を振り払うと立ち上がり駆け出す。
丁度、そこに一騎の様子を見にメディカルルームへと総士が入ってきた。
俯いていたままだったので思わずぶつかってしまう。
「ご、めん・・・総士」
そこへ遠見がほっとしたように声を出した。
「よかった皆城君、一騎君が注射をしたくないって今」
総士は受け止めた一騎を見る。
「一騎?」
一騎は俯いたまま呟いた。
「話が、あるんだ」
総士は一騎の頭にぽんと手を置く。
「それなら、注射を受けてからでいいだろう?時間はいっぱいあるんだ」
「ちがっ・・・総士、今じゃなきゃだめなんだ」。
「一騎、先生の言うことを聞こう?」
総士は一騎をなだめるようににっこりと微笑むと確認するように言った。
「いいね?」
その言葉に、一騎は力なく床にへたり込む。一騎は必死に溢れそうになる涙をこらえた。
俺じゃ、だめなのか、俺だから、だめなのか。
真壁一騎じゃ、ない、から。
それきり動かない一騎を総士は抱き上げると、ベッドへと連れて行き、静かに横たえた。
涙を流す一騎に怖くないよ、と囁いて総士はその髪を梳く手を止めない。
やがて首筋に宛てがわれた冷たい注射器の感触がして、刹那、痛みが走ったかと思うと
一騎の意識は深い闇へと沈んでいった。
scene:16
総士は足早にメディカルルームを出ると、アルヴィス内に宛てがわれた自分の部屋へと戻ろうとする。
何もかも、解んないよ。
両手が白くなるほどに強く握りしめていた。
「何も、聞きたくなかったんだ」
記憶の中の一騎の顔をした、記憶の中の一騎じゃない誰かなんて。
誰か、じゃない、兵器なのかもしれない。
何かを伝えたそうにしていたのを無理矢理遮った。
君が何なのか解らなくて、どうしてそんな君が僕に今言いたいことがあるのかも解らなくて、
どうして同じ顔をしているのかとか、本当は一騎なんじゃないかとか、
全部、解らなかった。
記憶の中の一騎じゃないなら、消えればいい。
そう思った。
消えないなら、君は、一騎だ、と消去法を選択した卑怯な僕。
消えてしまうなら、今の君は、僕を好きになんてならないで。
だって僕は、君の事を好きじゃないかもしれない。
その感情が、
それすら予めプログラムされたものじゃないって誰が言い切れる。
「泣かないでよ」
そんな顔されたら、ますます僕は君が誰だか解らなくなる。
scene:17
「これもダメか」
総士は何度目になるかわからないパスワードの入力の後、REFUSEと浮かび上がった文字列に、
今日何度目になるかわからない溜息を漏らした。
朝からずっと降り続く酷い雨。
今日は連日続いたフェストゥムの来襲が珍しく無かったので、総士はその大半を自室で過ごしていた。
10年前まで継続されていた対フェストゥム用人型兵器の製造計画、現在は凍結されている筈だがその計画と
経過は今でもどこかに保管されているであろうと、総士はアルヴィスシステムのあらゆる箇所にハッキングを試みた。
最終アクセス日時がちょうど10年前から更新されることのなかったファイルの存在は確認するに至ったのだが、
関係しそうなパスワードを弾き出していくつ入力しようともそれが開かれることは無かった。
計画を遂行していた部署は、真壁司令の前の司令の代までしか稼働していない。
真壁司令に変わってから、計画は非人道的すぎるとの見解からストップされ、解体された。
一騎という完成体が出来上がったからかもしれないが。
ちょうどそこへ緊急の連絡を知らせるコールが部屋に響く。
「真壁・・・司令」
着信は真壁司令からのものだった。
総士は慌てて画面を繋ぐ。
「はい」
「皆城君、そこに一騎はいないか?」
そういえば今日は一騎の部屋にも行っていなかった。
何か、あったのだろうか。
「いえ、何か」
真壁司令は真剣な顔で言った。
「一騎が、いないんだ」
「え?」
総士はすぐに画面をセンサーモードに切り替える。
一騎はアルヴィス内で行動範囲を制限されていたが、もしもの時を考えて左耳の裏にGPSセンサーを装着されていた。
施設内の重要機密に近づけないように、近づいたら警告が鳴るように設定されていた。
画面はGPSを察知して一騎の居場所を割り出していく。一騎の存在を示す緑色の光を探す。
自室と指令室、総士の部屋までの廊下には見当たらない。
勿論、施設内の重要機密付近でのセンサーの反応も示さない。
だとすればGPSの感知できない場所。
でも、アルヴィス内はたとえ高速で移動してもGPSは作動する筈だ。
「壊した・・・のか?」
総士の呟きに真壁司令はやはり反応しないか、と返す。
「プログラムの、暴走ですか?」
総士は、あってほしくない、そんな気持ちを抱えながら司令に尋ねる。
「エラーの発生確率は・・・0.1%を切っていたんだ、それが、今更」
じゃあ、一騎は。
あっけなく返ってきた答えに自分の中の何かが壊れていくようなそんな音がした、気がする。
でも今は、そんな感傷に浸っている場合ではない。
プログラムの暴走
それは、たぶん、フェストゥムの集合意識に呼応したという事だ。
それならば、フェストゥムに同化を試みるはず。マークザインを使って。
「マークザインを発進シークエンスに移行させないようロックをかけて、なるべく早くOSを書き換えてください」
総士は真壁司令に言う。
「僕は、確認に行ってきます」
総士は通信を切ると、自室を飛び出した。
scene:18
「何で、だよっ!!」
一騎はシステムに両手を差し込み接続を試みる。
しかし、初期起動すらかかっていないファフナーは一向に動く気配を見せなかった。
来る。
アイツらが。
一騎はメディカルルームで覚醒を待っていた時、不意に頭の中に直接意識が割り込んできた。
自分のものではない、誰かの。
止め、なきゃ。
一騎の中のある部分が、そう、警告を発した。
だから此処で、捕まるわけにはいかないんだ。
耳の後ろに装着された小型の機械を壊そうとした時、一瞬、総士の顔が浮かぶ。
爪を引っ掛けた所で手が止まった。
ごめん。
届くはずも無いのに一人呟いて、刹那、機械は粉々に砕け散った。
「おねがい・・・うごいて」
危険だ、と警告する自分が居る。
けれど、壊される前に。
目を閉じると一騎はすっ、と意識を霧散させた。
一騎は次々と迫り来るフェストゥムの攻撃をかわしながらその懐にファフナーを割り込ませると、
渾身の力で変形させたアームを突き刺す。
なんともいえない鈍い感覚がリンクシステムを通じて伝わり、更に力を込めればぷつ、と
その命を確実に絶った音が聞こえるような気がした。
「何も、聞こえないよ」
俯いたまま呟く。
殺すことに躊躇していた自分、殺してしまった命に対してどうしようもない罪悪感に駆られていた自分、楽園の定義。
全てが現実感のない靄のかかったどこか遠くへ置き去りにしてきてしまったような、奇妙な感覚。
絶えず戦闘時に聞こえていた声さえ、もう聞こえているのかわからなかった。
「俺は、もうすぐ消えちゃうんだ、総士」
日に日に狭まっていく思考、気づかない訳ではなかった。心の中でどんどん何も感じない部分が大きくなる。
毎日、話すのが楽しかった、困らせてばっかりだったけど。困った顔とか、しょうがないなって笑う顔を見るのが好きで。
そんな顔をする総士が好きで、
真壁一騎が羨ましいと、そう思った。
「5分以内に倒したよ、総士」
あれから、戦闘中にジークフリードシステムからのクロッシングは拒絶したままだ。
向こうからこちらに強制的に接続もしてはこない。
「ケーキ、食べたいよ」
泣きそうな声で、一騎は言った。
scene:15
戦闘後、メディカルルームでチェックを受けていた一騎は抗体注射を持ってきた遠見に言った。
「注射、今日はいいです」
そう言ってベッドから起き上がる。遠見は慌てて注射器をサイドテーブルに置くと、一騎に尋ねた。
「何を言ってるの?横になりなさい」
一騎は俯いたまま、遠見の言うことを聞こうとしない。遠見は一騎の肩を掴むと、その顔を覗きこんだ。
「解っているとは思うけど、あなたはこれがなければ動けないのよ」
別に、このままずっと注射を受けずに逃げてしまおうとかそんな気持ちがあるわけではない。
ただ、総士に伝えなきゃいけない、と思っていた。
今日、注射を受けたらもう解らなくなってしまうかもしれない。
まだ俺が、俺でいられるうちにどうしても伝えたかったのだ。
「でも、ごめんなさい」
そう言って一騎は遠見の手を振り払うと立ち上がり駆け出す。
丁度、そこに一騎の様子を見にメディカルルームへと総士が入ってきた。
俯いていたままだったので思わずぶつかってしまう。
「ご、めん・・・総士」
そこへ遠見がほっとしたように声を出した。
「よかった皆城君、一騎君が注射をしたくないって今」
総士は受け止めた一騎を見る。
「一騎?」
一騎は俯いたまま呟いた。
「話が、あるんだ」
総士は一騎の頭にぽんと手を置く。
「それなら、注射を受けてからでいいだろう?時間はいっぱいあるんだ」
「ちがっ・・・総士、今じゃなきゃだめなんだ」。
「一騎、先生の言うことを聞こう?」
総士は一騎をなだめるようににっこりと微笑むと確認するように言った。
「いいね?」
その言葉に、一騎は力なく床にへたり込む。一騎は必死に溢れそうになる涙をこらえた。
俺じゃ、だめなのか、俺だから、だめなのか。
真壁一騎じゃ、ない、から。
それきり動かない一騎を総士は抱き上げると、ベッドへと連れて行き、静かに横たえた。
涙を流す一騎に怖くないよ、と囁いて総士はその髪を梳く手を止めない。
やがて首筋に宛てがわれた冷たい注射器の感触がして、刹那、痛みが走ったかと思うと
一騎の意識は深い闇へと沈んでいった。
scene:16
総士は足早にメディカルルームを出ると、アルヴィス内に宛てがわれた自分の部屋へと戻ろうとする。
何もかも、解んないよ。
両手が白くなるほどに強く握りしめていた。
「何も、聞きたくなかったんだ」
記憶の中の一騎の顔をした、記憶の中の一騎じゃない誰かなんて。
誰か、じゃない、兵器なのかもしれない。
何かを伝えたそうにしていたのを無理矢理遮った。
君が何なのか解らなくて、どうしてそんな君が僕に今言いたいことがあるのかも解らなくて、
どうして同じ顔をしているのかとか、本当は一騎なんじゃないかとか、
全部、解らなかった。
記憶の中の一騎じゃないなら、消えればいい。
そう思った。
消えないなら、君は、一騎だ、と消去法を選択した卑怯な僕。
消えてしまうなら、今の君は、僕を好きになんてならないで。
だって僕は、君の事を好きじゃないかもしれない。
その感情が、
それすら予めプログラムされたものじゃないって誰が言い切れる。
「泣かないでよ」
そんな顔されたら、ますます僕は君が誰だか解らなくなる。
scene:17
「これもダメか」
総士は何度目になるかわからないパスワードの入力の後、REFUSEと浮かび上がった文字列に、
今日何度目になるかわからない溜息を漏らした。
朝からずっと降り続く酷い雨。
今日は連日続いたフェストゥムの来襲が珍しく無かったので、総士はその大半を自室で過ごしていた。
10年前まで継続されていた対フェストゥム用人型兵器の製造計画、現在は凍結されている筈だがその計画と
経過は今でもどこかに保管されているであろうと、総士はアルヴィスシステムのあらゆる箇所にハッキングを試みた。
最終アクセス日時がちょうど10年前から更新されることのなかったファイルの存在は確認するに至ったのだが、
関係しそうなパスワードを弾き出していくつ入力しようともそれが開かれることは無かった。
計画を遂行していた部署は、真壁司令の前の司令の代までしか稼働していない。
真壁司令に変わってから、計画は非人道的すぎるとの見解からストップされ、解体された。
一騎という完成体が出来上がったからかもしれないが。
ちょうどそこへ緊急の連絡を知らせるコールが部屋に響く。
「真壁・・・司令」
着信は真壁司令からのものだった。
総士は慌てて画面を繋ぐ。
「はい」
「皆城君、そこに一騎はいないか?」
そういえば今日は一騎の部屋にも行っていなかった。
何か、あったのだろうか。
「いえ、何か」
真壁司令は真剣な顔で言った。
「一騎が、いないんだ」
「え?」
総士はすぐに画面をセンサーモードに切り替える。
一騎はアルヴィス内で行動範囲を制限されていたが、もしもの時を考えて左耳の裏にGPSセンサーを装着されていた。
施設内の重要機密に近づけないように、近づいたら警告が鳴るように設定されていた。
画面はGPSを察知して一騎の居場所を割り出していく。一騎の存在を示す緑色の光を探す。
自室と指令室、総士の部屋までの廊下には見当たらない。
勿論、施設内の重要機密付近でのセンサーの反応も示さない。
だとすればGPSの感知できない場所。
でも、アルヴィス内はたとえ高速で移動してもGPSは作動する筈だ。
「壊した・・・のか?」
総士の呟きに真壁司令はやはり反応しないか、と返す。
「プログラムの、暴走ですか?」
総士は、あってほしくない、そんな気持ちを抱えながら司令に尋ねる。
「エラーの発生確率は・・・0.1%を切っていたんだ、それが、今更」
じゃあ、一騎は。
あっけなく返ってきた答えに自分の中の何かが壊れていくようなそんな音がした、気がする。
でも今は、そんな感傷に浸っている場合ではない。
プログラムの暴走
それは、たぶん、フェストゥムの集合意識に呼応したという事だ。
それならば、フェストゥムに同化を試みるはず。マークザインを使って。
「マークザインを発進シークエンスに移行させないようロックをかけて、なるべく早くOSを書き換えてください」
総士は真壁司令に言う。
「僕は、確認に行ってきます」
総士は通信を切ると、自室を飛び出した。
scene:18
「何で、だよっ!!」
一騎はシステムに両手を差し込み接続を試みる。
しかし、初期起動すらかかっていないファフナーは一向に動く気配を見せなかった。
来る。
アイツらが。
一騎はメディカルルームで覚醒を待っていた時、不意に頭の中に直接意識が割り込んできた。
自分のものではない、誰かの。
止め、なきゃ。
一騎の中のある部分が、そう、警告を発した。
だから此処で、捕まるわけにはいかないんだ。
耳の後ろに装着された小型の機械を壊そうとした時、一瞬、総士の顔が浮かぶ。
爪を引っ掛けた所で手が止まった。
ごめん。
届くはずも無いのに一人呟いて、刹那、機械は粉々に砕け散った。
「おねがい・・・うごいて」
危険だ、と警告する自分が居る。
けれど、壊される前に。
目を閉じると一騎はすっ、と意識を霧散させた。
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