蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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君と僕とあの夏の日と3
2011.11.20 Sunday
忘れ去られたように不定期に点滅する街灯が並ぶ細い小道を歩いていく。
空はいよいよ本格的に青から黒へとグラデーションの様相を示していて、
時折吹く遠くからの海風が火照った肌に触れてひんやりとする。
シャッターの殆ど閉じている店、人通りなど勿論なく、ただ古びた看板が並んでいる。
車窓から何となく眺めていた無人駅が、実際に降り立つと
こんなにも寂しい町並みだったなんて想像もつかなかったとふと思う。
公園まではあと少しの筈だ。
いつも通る道と逆の方向から行くというのは、見た事のない景色が次々に現れて
普段なら好奇心溢れんばかりになるというのに、なぜか今日は違う。
総士が繋いでくれる手がなかったら、どこか知らない異次元の世界にでも連れていかれそうな気配が、
曲がり角や、電柱と塀の隙間にいっぱい潜んでいるような気がしてなんだかとても怖かった。
「もう少しだから」
気遣うような総士の声がして、急に現実世界に引き戻されたかのような感覚がする。
うん、と小さく返事をする代わりに、繋がれた手に少しだけ力を込めた。
日が完全に落ちて急に辺りは暗さが目立つようになり、
上着を脱いでいた総士の白いYシャツだけが白く浮かび上がる。
それをしっかり見つめると、その背が遠ざかってしまわないように一騎はひたすら総士を追いかけた。
「あ」
少し前を歩いていた総士が急に立ち止まる。
その凝視する先に一騎も視線を移すと、そこには青いビニールシートを被せられたいくつもの遊具がそこかしこにある。
昔よく遊んだジャングルジムやすべり台がすっぽりとシートで覆われていて、
切れ掛けの街灯の光と相まってなんだか気味の悪い青い怪物のように見えた。
「なくなるんだ、この公園」
総士がぽつりと呟いた。
入り口に立てかけられた工事用の看板には取り壊し工事の日程が記されていて、
その後の用途は5階建てのマンションになるとの事だった。
海に近いこの私鉄沿線の土地は、最近になって都心からのベッドタウン拡大に伴う宅地化が進み、
土地の所有者が古くからの家を壊して集合住宅にする動きが高まっている。
確かにこの周辺では小中学校も合併による閉鎖が相次ぎ、義務教育年齢以下の子供を持つ家庭は極端に少なくなっていた。
その煽りを受けての公園の取り壊しなのだろう。
仕方ないといえば仕方ないのだが、自分達に楽しい思い出として刻まれた場所が無くなるというのは、
なんだか心にぽっかりと穴が開いてしまうような、そんな寂しい気がした。
「ブランコ、行こう」
一騎は唯一シートのかけられていなかった一番奥のブランコに総士を促した。
青いシートに包まれた巨大な物体の間を抜けて辿り着けば、そこには昔と変わらず小さなブランコが設置されていた。
所々ペンキが剥げて中の金属が茶色い色をむき出しにしている。
どうやら、幼少時代に一度塗り直しされてからずっとそのままだったらしい。
一騎と総士は隣同士に並ぶブランコに腰掛けた。
「なんか、さみしいね」
一騎は下を向いたままぽつりと呟く。
少し勢いをつけて背伸びをした所から足を伸ばすと、キィと音を立てて一騎を乗せたブランコは空中に滑り出した。
小さい頃にまるで空を飛んでいるかのような気分になれたブランコは、今でもその感覚を少しだけ思い出させつつ、
でも飛べていた訳ではないんだとその気持ちよりも確かに現実を実感してしまう自分がいる。
遊具の原理なんて解らないからこそ遊べるのに、と成長したらしい自分に溜息をひとつ。
こうやって色んなものを無くして、どうやって大人になっていくんだろうと漠然と思ってしまう。
大人でもなく子供でもないような曖昧な自分の位置づけに、
たまに途方に暮れるような感覚に陥るのは高校生になってからが初めてだった。
「部活、楽しいか?」
急に総士が言った。
一騎はまだ小さく揺れていたブランコを地面に両足を付けて止める。
ざざっ、と小石が音を立てて微かに砂埃が上がった。
「楽しいよ。まぁ怪我しちゃったから、そうでもないかも、だけど」
言いつつ一騎は部活動の様子に思いを馳せる。
入部してから今まで、確かに楽しいの一言だった。
練習をすればするほど上がる能力と技術、それを認められて試合に出させてもらえる喜び。
そして何といっても、試合でのチームへの信頼と連携、
そして繰り出す戦略的な攻撃と勝利が言葉では言い表せない程の快感だと一騎は思う。
今の自分はそこからちょっと遠ざかった所にいるのかと思うと、
悔しくて寂しくてなんだか背筋がぶるっと震えるような感じがする。
思わず隣の総士を見ると、そっか、でもきっとまた楽しくなるよ、と言って優しく笑った。だから、
「黙って落ち込むなよ?」
「え?」
意味が解らずに総士を見つめると、お前、黙ってぐるぐる考えすぎて、結局考える前より悪い事になるから、と言う。
笑顔を崩さず完璧に他人の考察をし抜いてる所とかがもう、
「叶わないや、総士には」
と言って苦笑すれば、笑うのも忘れるなよこの3週間と言ってその腕が伸びてきたかと思うと、ぱち、とおでこを叩かれた。
そういえば小さい頃もよく叩かれてたっけな、と微かな痛みとともに思い出まで蘇る。
あの頃もそうだったけど、今でもそうだな。
と、一騎はほんわかと安心した気持ちが自分の中に広がっていくのを感じた。
いつのまにかすっかり暗くなった空に冷たい海風が吹き付けてくる。
一騎は思わず肩を竦めた。
「そろそろ帰るぞ」
そう言って総士はブランコから立ち上がると、地面に置いていた鞄を持った。
一騎も続いて立ち上がると、また目の前に差し出された手。
ありがと、と呟いて自分の手を重ねれば、
「寒くなったらすぐ言えよ」
と重ねて心配されてしまい、恥ずかしがるのも今更だったので、うん、と小さく返事をして歩き始めた。
青いシートの塊の中を抜けていく。
3週間後にはこれすらも消えて何もなくなってしまうのかと思うと何となくやるせないようなもやもやとした気持ちが拭えない。
「早く、帰ろ」
数歩前の総士の背中に声を掛けると、そうだな、と優しい声が返ってくる。
ああ、やっぱり叶わないや。
そう思って一騎は目を細めると、繋いだ手にぎゅ、と力を込めて総士の後を追いかけた。
空はいよいよ本格的に青から黒へとグラデーションの様相を示していて、
時折吹く遠くからの海風が火照った肌に触れてひんやりとする。
シャッターの殆ど閉じている店、人通りなど勿論なく、ただ古びた看板が並んでいる。
車窓から何となく眺めていた無人駅が、実際に降り立つと
こんなにも寂しい町並みだったなんて想像もつかなかったとふと思う。
公園まではあと少しの筈だ。
いつも通る道と逆の方向から行くというのは、見た事のない景色が次々に現れて
普段なら好奇心溢れんばかりになるというのに、なぜか今日は違う。
総士が繋いでくれる手がなかったら、どこか知らない異次元の世界にでも連れていかれそうな気配が、
曲がり角や、電柱と塀の隙間にいっぱい潜んでいるような気がしてなんだかとても怖かった。
「もう少しだから」
気遣うような総士の声がして、急に現実世界に引き戻されたかのような感覚がする。
うん、と小さく返事をする代わりに、繋がれた手に少しだけ力を込めた。
日が完全に落ちて急に辺りは暗さが目立つようになり、
上着を脱いでいた総士の白いYシャツだけが白く浮かび上がる。
それをしっかり見つめると、その背が遠ざかってしまわないように一騎はひたすら総士を追いかけた。
「あ」
少し前を歩いていた総士が急に立ち止まる。
その凝視する先に一騎も視線を移すと、そこには青いビニールシートを被せられたいくつもの遊具がそこかしこにある。
昔よく遊んだジャングルジムやすべり台がすっぽりとシートで覆われていて、
切れ掛けの街灯の光と相まってなんだか気味の悪い青い怪物のように見えた。
「なくなるんだ、この公園」
総士がぽつりと呟いた。
入り口に立てかけられた工事用の看板には取り壊し工事の日程が記されていて、
その後の用途は5階建てのマンションになるとの事だった。
海に近いこの私鉄沿線の土地は、最近になって都心からのベッドタウン拡大に伴う宅地化が進み、
土地の所有者が古くからの家を壊して集合住宅にする動きが高まっている。
確かにこの周辺では小中学校も合併による閉鎖が相次ぎ、義務教育年齢以下の子供を持つ家庭は極端に少なくなっていた。
その煽りを受けての公園の取り壊しなのだろう。
仕方ないといえば仕方ないのだが、自分達に楽しい思い出として刻まれた場所が無くなるというのは、
なんだか心にぽっかりと穴が開いてしまうような、そんな寂しい気がした。
「ブランコ、行こう」
一騎は唯一シートのかけられていなかった一番奥のブランコに総士を促した。
青いシートに包まれた巨大な物体の間を抜けて辿り着けば、そこには昔と変わらず小さなブランコが設置されていた。
所々ペンキが剥げて中の金属が茶色い色をむき出しにしている。
どうやら、幼少時代に一度塗り直しされてからずっとそのままだったらしい。
一騎と総士は隣同士に並ぶブランコに腰掛けた。
「なんか、さみしいね」
一騎は下を向いたままぽつりと呟く。
少し勢いをつけて背伸びをした所から足を伸ばすと、キィと音を立てて一騎を乗せたブランコは空中に滑り出した。
小さい頃にまるで空を飛んでいるかのような気分になれたブランコは、今でもその感覚を少しだけ思い出させつつ、
でも飛べていた訳ではないんだとその気持ちよりも確かに現実を実感してしまう自分がいる。
遊具の原理なんて解らないからこそ遊べるのに、と成長したらしい自分に溜息をひとつ。
こうやって色んなものを無くして、どうやって大人になっていくんだろうと漠然と思ってしまう。
大人でもなく子供でもないような曖昧な自分の位置づけに、
たまに途方に暮れるような感覚に陥るのは高校生になってからが初めてだった。
「部活、楽しいか?」
急に総士が言った。
一騎はまだ小さく揺れていたブランコを地面に両足を付けて止める。
ざざっ、と小石が音を立てて微かに砂埃が上がった。
「楽しいよ。まぁ怪我しちゃったから、そうでもないかも、だけど」
言いつつ一騎は部活動の様子に思いを馳せる。
入部してから今まで、確かに楽しいの一言だった。
練習をすればするほど上がる能力と技術、それを認められて試合に出させてもらえる喜び。
そして何といっても、試合でのチームへの信頼と連携、
そして繰り出す戦略的な攻撃と勝利が言葉では言い表せない程の快感だと一騎は思う。
今の自分はそこからちょっと遠ざかった所にいるのかと思うと、
悔しくて寂しくてなんだか背筋がぶるっと震えるような感じがする。
思わず隣の総士を見ると、そっか、でもきっとまた楽しくなるよ、と言って優しく笑った。だから、
「黙って落ち込むなよ?」
「え?」
意味が解らずに総士を見つめると、お前、黙ってぐるぐる考えすぎて、結局考える前より悪い事になるから、と言う。
笑顔を崩さず完璧に他人の考察をし抜いてる所とかがもう、
「叶わないや、総士には」
と言って苦笑すれば、笑うのも忘れるなよこの3週間と言ってその腕が伸びてきたかと思うと、ぱち、とおでこを叩かれた。
そういえば小さい頃もよく叩かれてたっけな、と微かな痛みとともに思い出まで蘇る。
あの頃もそうだったけど、今でもそうだな。
と、一騎はほんわかと安心した気持ちが自分の中に広がっていくのを感じた。
いつのまにかすっかり暗くなった空に冷たい海風が吹き付けてくる。
一騎は思わず肩を竦めた。
「そろそろ帰るぞ」
そう言って総士はブランコから立ち上がると、地面に置いていた鞄を持った。
一騎も続いて立ち上がると、また目の前に差し出された手。
ありがと、と呟いて自分の手を重ねれば、
「寒くなったらすぐ言えよ」
と重ねて心配されてしまい、恥ずかしがるのも今更だったので、うん、と小さく返事をして歩き始めた。
青いシートの塊の中を抜けていく。
3週間後にはこれすらも消えて何もなくなってしまうのかと思うと何となくやるせないようなもやもやとした気持ちが拭えない。
「早く、帰ろ」
数歩前の総士の背中に声を掛けると、そうだな、と優しい声が返ってくる。
ああ、やっぱり叶わないや。
そう思って一騎は目を細めると、繋いだ手にぎゅ、と力を込めて総士の後を追いかけた。
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