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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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君と僕とあの夏の日と4
翌日、一騎は学校を休んでいた。
右目の傷が案外深かったからか、朝起きようとした時に酷い目眩がして、熱を測ったら38度もあり、
父親に無理矢理ベッドへ押し込まれてしまった。
それから果たして何時間経ったのか。
片目なのもあって時計を見ることすら面倒でぼーっと寝たり起きたりを繰り返していたのだが、
さすがに結構日が傾いてきたのかな、とぼんやり見つめた窓の先の景色に思う。
初夏の到来を告げる入道雲はもくもくと高さを競い合って、見ているだけで外の暑さが伝わってきそうだ。
その白い雲に反射している日差しの色で、なんだか午後っぽいなと判断してみたりする。
学校に行っていれば瞬く間に過ぎ去る時間が、今日に限って1秒が5秒くらいに延びてしまったかのような感覚。
一騎は発熱のためクーラーの設定温度が高めな室内で、別に寒くもないのに
中途半端に掛けていたタオルケットをぐいと肩まですっぽり被る。
誰も居ない日中の家はなんだかいつもよりずっと暗く広く感じられて、
唯一動き続けるクーラーの音がやけに規則的に大きく響いて、耳鳴りのようでうるさくて仕方なかった。

「痛ったぁ・・・」

朝からずっと寝ているだけで特に他にすることなんてなく、
自然と傷を気にしてしまってそれがかえって痛さを増しているような感覚がする。
ドクン、ドクンという鼓動に合わせるかのように右目に痛みが走って嫌気が差してくる。
なんだか格好悪い気がして鎮痛剤を貰うのを止めてしまったけれど、
やっぱり貰っておけばよかったななんて今更ながらに少し後悔してしまう。
机の上に積み上がっているやたら貰った化膿止めのチューブの山を見て、はぁ、と溜息を吐くと、
そっと今朝真新しい包帯で巻かれたばっかりの右目に触れた。
昨日と変わらない感触に少し安堵して、でもこみ上げてくる不安の気持ちの方がずっと大きい。

「治るって、言ってたけど」

正直、怖かった。
茫然自失のような状態ではあったけれど、尋常じゃない出血量だったとそれだけは記憶している。
複雑な縫合処置だったらしく麻酔注射を何本も打ったし、時間もそれなりにかかっていた気がする。
通常より治るまでに時間がかかるという医者が告げた事実が、なんだか心許なくて。
打ち込んでいた部活に出られない日々も不安な気持ちに拍車を掛けた。
家に1人だけ、という心細さがその気持ちを助長させているのかもしれないけれど。
規則的で無機質な機械音しか聞こえない中では、恐怖心は増大していくばかりだ。
だめだなぁ、と自分を叱責しつつも、拭えないマイナスの感情の対処に一騎は心底困っていた。

その時、玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に宅急便かな?と一瞬無視を決めこもうかと思ったけれど、なんかそれ腐りすぎだな、
と一騎はのろのろ起き上がって玄関に向かった。

「そーし?」

ドアを開けると、そこには学校帰りの総士が息を切らして立っていて、

「なんか、気になって来ちゃった」

と言って彼は笑った。

「生徒会は大丈夫なのか?」

確かこの時期は夏休みに向けて校内の整理を毎日している筈だ、だから昨日もあんなに書類を持ち歩いてた訳で、
来てくれるのは嬉しいけど仕事大丈夫なのかな、と一騎は心配になった。

「今日は、何もなかったんだ」

総士はふわりと微笑んで、ベッドに横たわる一騎の髪に手を伸ばす。
そっと手を差し込むと、適量の髪を指の間に絡ませてゆっくりと梳いては離すのを繰り返す。
かすかに触れる指がくすぐったいけれど、幾度も軽く髪を引っ張られるこの感じがたまらなく安心して大好きだ、と思う。
髪をすべる指の感触が気持ち良くて、さっきまで頭の中を埋め尽くしていたマイナスの思考が
あっという間に消えて無くなってしまうような気がする。
何笑ってんだ?と言われて、知らず知らず自分が笑顔になっていたことに初めて気付いた。

「なんか、落ち着いたかも」

ぽつりと呟けば、どういたしまして、と総士は笑った。
でも髪を梳く手は止めてほしくなくて思わず総士を見上げれば、心配しなくていいよ、と彼は言って
髪をわしゃわしゃとかき混ぜられてしまった。
こんな風に相手の気持ちがわかる総士はなんだか宇宙人みたいに思えるけれど、
そんなすごい人間が幼なじみだなんて自分にとても嬉しくなったりする。
ふと見上げて目が合えば、柔らかく微笑み返してくれる、
そんな所がもうとてつもなくすごいんだ。

「元気になったか?」

総士が尋ねてきたので、うん、と言って笑った。
よく出来ました、なんて言いながら顔を覗き込んだ彼は、本当にお兄ちゃんみたいで、
でもその守られているような感覚は決して嫌じゃない。

「明日は、行くから」

「無理すんなって」

「行く」

「熱下がったら、な?」

「別に、あってもなくても変わんない」

「明日も来てやるから」

「え?」

びっくりして総士の方を見れば、やけにニコニコと笑ってる顔があって、
また気付かれてたかなぁ、とちょっとバツが悪くなる。
でも言える訳ないじゃないか、高校生にもなって1人が怖いだなんて、絶対。だから言わない。
口ごもってしまった一騎に、大人しく寝てろよ?と総士は言った。

「わかった・・・ってば」

呟けば、なぜ知っていたのか総士は「夜までいるから」と言ってぱちぱちとおでこを叩いてきた。
確かに今日は残業みたいで父親の帰りは遅いけど、そういう所が宇宙人ぽいんだ、と。

そういえば、いつからかあのクーラーの音が聞こえなくなったなと一騎は思った。

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