蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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君と僕とあの夏の日と8
2011.11.20 Sunday
「帰る場所なんてどこにもないから」
遠い過去の記憶が不意に呼び起こされて、総士ははっと息を飲んだ。
いつもと同じように遊んだ別れ際にぽつりと呟いた一騎の声はなんだか別人のようで。
聞き返したけれど曖昧な笑みにかき消されてしまって、
どうしようもなく別れの言葉を告げた事だけはやけにやっきりと覚えている。
あれから、一騎はちゃんと家に帰ったのだろうか。
後ろ姿を見つめながら酷く不安な気持ちに襲われて、
家まで送ろうかと何度も思ったが、結局そのまま自分も帰り道を進んだ。
次の日も、彼は公園に来た。
それが、昨日ちゃんと家に帰った何よりの証拠だと安心して、総士はいつものように笑いかけた。
不安は現実にはならなかったのだと、安堵感が込み上げた。
「総士」
呼ばれた声の方に顔を向けると、そこには帰り仕度を整えた一騎がドアの所に佇んでいる。
「いま帰ろうと思ったところだ」と言えば、ふ、と笑って彼はこちらへ歩いてくると向かいの席に座った。
「こんな時間まで何してたんだ?」
「休んでた分のノート写したり…してた」
ちょっとバツが悪そうに言った一騎を見て総士は笑う。
「終わったのか?」と聞けば、「写すだけなら」と小さく返事が返ってきた。
「わからない所があったら、教えてやるから」
苦笑しつつ総士が言うと、おずおずと顔を上げた一騎と目が合って総士はまた笑う。
ふい、と横を向いてしまった一騎に「どこがわからなかった?」と優しく尋ねれば、
「物理の…」としばらくしてから話し始めた。
「とりあえず下校時間が近いから、学校出てからでいいか?今日、時間ある?」
「って、お前、家帰んなきゃいけないよな」と総士が言って立ち上がると、
「大丈夫」と遮るように一騎は言った。
「でも、お父さん帰ってくるだろ?」
「いま、忙しいからたまにしか帰ってこないんだ」
「じゃあ、一人なのか?いつも」
「…そう、でもないんだけど」
一騎はうつむいたままぽつぽつと話す。
その様子に違和感を覚えた総士は、開いたシャツの隙間に覗く青痣に気付いて息を飲んだ。
一瞬、先日の上級生の仕業かと思ったが、あの日、一騎は右目以外に怪我はしていなかった筈だ。
その後接触があったのかとも思われたが、それは僚が手を尽くして阻止していたのを見ているから、
その可能性も無いに等しい。
じゃあ、一体誰が?
総士は拭いきれない不安を胸におそるおそる一騎に問いかけた。
「一騎、その痣」
「…」
「どうしたんだ?」
「…ぶつけた、だけだから」
いまだうつむいたままの一騎に総士は異常さを覚えて彼の前に静かにしゃがみ込む。
すると、一騎は総士に見えなくするかのように開いたシャツを引き寄せると顔を背けた。
「何でも…ないから」
絞り出すような声に総士は顔を歪めると、ゆっくりと一騎の頭の上に手を置いた。
一騎は一瞬、びく、と震えたが、すぐに目線だけこちらを向くと、「ごめん」を小さく呟く。
「何が、あった?」
「…」
「僕にも言えないような事なのか?」
なるべく穏やかさを保って総士は尋ねるも、一騎は黙ったまま何も答えない。
一瞬揺らいだ視線が何かを物語っているようだったが、総士にはそれが何なのかわからなかった。
ひとつ、大きく深呼吸をすると総士は再度口を開く。
「家、来るか?」
総士は優しく言うと、一騎の返事を待った。
しばらく時間が経ってから、小さく頭が上下に動いたのを見て、くしゃと髪をかき混ぜる。
その時、下校時刻を告げるアナウンスが廊下に響き渡った。
同時に他の教室から生徒が出てくる足音と、ドアの閉まる音が聞こえて、やがてまた静まり返る。
総士は一騎の頭に置いていた手を離すと、ぽんと肩を叩いた。
「僕らも行こう」
そう言っててを差し出すと、その上にそっと手が置かれる。
総士はぎゅ、と握り返して一騎を立たせると、生徒会室を後にした。
二人しかいない廊下は、沈みかけの夕陽で暗い赤色に染まっている。
ああ、あの日みたいだな、と総士はひとりやるせない思いに駆られながらそれを見つめた。
そして、目線だけ繋いだ手に戻す。
力無く繋いだ手からは、いつものような一騎の元気さは感じられなくて、
一歩後ろを歩く姿はなんだか手を離したら消えてしまいそうだと、不安な気持ちがこみ上げる。
総士はそんな気持ちを振り払うかのように頭を振ると、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
遠い過去の記憶が不意に呼び起こされて、総士ははっと息を飲んだ。
いつもと同じように遊んだ別れ際にぽつりと呟いた一騎の声はなんだか別人のようで。
聞き返したけれど曖昧な笑みにかき消されてしまって、
どうしようもなく別れの言葉を告げた事だけはやけにやっきりと覚えている。
あれから、一騎はちゃんと家に帰ったのだろうか。
後ろ姿を見つめながら酷く不安な気持ちに襲われて、
家まで送ろうかと何度も思ったが、結局そのまま自分も帰り道を進んだ。
次の日も、彼は公園に来た。
それが、昨日ちゃんと家に帰った何よりの証拠だと安心して、総士はいつものように笑いかけた。
不安は現実にはならなかったのだと、安堵感が込み上げた。
「総士」
呼ばれた声の方に顔を向けると、そこには帰り仕度を整えた一騎がドアの所に佇んでいる。
「いま帰ろうと思ったところだ」と言えば、ふ、と笑って彼はこちらへ歩いてくると向かいの席に座った。
「こんな時間まで何してたんだ?」
「休んでた分のノート写したり…してた」
ちょっとバツが悪そうに言った一騎を見て総士は笑う。
「終わったのか?」と聞けば、「写すだけなら」と小さく返事が返ってきた。
「わからない所があったら、教えてやるから」
苦笑しつつ総士が言うと、おずおずと顔を上げた一騎と目が合って総士はまた笑う。
ふい、と横を向いてしまった一騎に「どこがわからなかった?」と優しく尋ねれば、
「物理の…」としばらくしてから話し始めた。
「とりあえず下校時間が近いから、学校出てからでいいか?今日、時間ある?」
「って、お前、家帰んなきゃいけないよな」と総士が言って立ち上がると、
「大丈夫」と遮るように一騎は言った。
「でも、お父さん帰ってくるだろ?」
「いま、忙しいからたまにしか帰ってこないんだ」
「じゃあ、一人なのか?いつも」
「…そう、でもないんだけど」
一騎はうつむいたままぽつぽつと話す。
その様子に違和感を覚えた総士は、開いたシャツの隙間に覗く青痣に気付いて息を飲んだ。
一瞬、先日の上級生の仕業かと思ったが、あの日、一騎は右目以外に怪我はしていなかった筈だ。
その後接触があったのかとも思われたが、それは僚が手を尽くして阻止していたのを見ているから、
その可能性も無いに等しい。
じゃあ、一体誰が?
総士は拭いきれない不安を胸におそるおそる一騎に問いかけた。
「一騎、その痣」
「…」
「どうしたんだ?」
「…ぶつけた、だけだから」
いまだうつむいたままの一騎に総士は異常さを覚えて彼の前に静かにしゃがみ込む。
すると、一騎は総士に見えなくするかのように開いたシャツを引き寄せると顔を背けた。
「何でも…ないから」
絞り出すような声に総士は顔を歪めると、ゆっくりと一騎の頭の上に手を置いた。
一騎は一瞬、びく、と震えたが、すぐに目線だけこちらを向くと、「ごめん」を小さく呟く。
「何が、あった?」
「…」
「僕にも言えないような事なのか?」
なるべく穏やかさを保って総士は尋ねるも、一騎は黙ったまま何も答えない。
一瞬揺らいだ視線が何かを物語っているようだったが、総士にはそれが何なのかわからなかった。
ひとつ、大きく深呼吸をすると総士は再度口を開く。
「家、来るか?」
総士は優しく言うと、一騎の返事を待った。
しばらく時間が経ってから、小さく頭が上下に動いたのを見て、くしゃと髪をかき混ぜる。
その時、下校時刻を告げるアナウンスが廊下に響き渡った。
同時に他の教室から生徒が出てくる足音と、ドアの閉まる音が聞こえて、やがてまた静まり返る。
総士は一騎の頭に置いていた手を離すと、ぽんと肩を叩いた。
「僕らも行こう」
そう言っててを差し出すと、その上にそっと手が置かれる。
総士はぎゅ、と握り返して一騎を立たせると、生徒会室を後にした。
二人しかいない廊下は、沈みかけの夕陽で暗い赤色に染まっている。
ああ、あの日みたいだな、と総士はひとりやるせない思いに駆られながらそれを見つめた。
そして、目線だけ繋いだ手に戻す。
力無く繋いだ手からは、いつものような一騎の元気さは感じられなくて、
一歩後ろを歩く姿はなんだか手を離したら消えてしまいそうだと、不安な気持ちがこみ上げる。
総士はそんな気持ちを振り払うかのように頭を振ると、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
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