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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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君と僕とあの夏の日と11
「一騎、気分は?」

総士が部屋に入ると、ちょうど一騎が目を覚ました所だった。
総士はベッドの側にしゃがむと力なく放り出された一騎の手を取る。
そのまま顔を覗き込めば、一騎は頼りなく表情を緩めて総士を見上げた。
ふと時計を見ればまだ夕方の6時で、過ぎた時間の短さとめまぐるしく起こった数々の出来事に、
総士はなんだか現実感を失ってしまいそうな気がして、思わず何度か瞬きを繰り返した。





総士が一騎の部屋に入って身動きの取れなかった一騎を見つけてから今まで3時間、
あの後、加害者である張本人の大学生は逃げるように家から出ていき、
追いかけたい気持ちは多々あったのだが、泣きながら震えの止まらない一騎を一人残しておくわけにもいかず、
総士はそのまま一騎を抱きしめ続けた。
しばらく経って一騎の身体の震えが収まってくると、総士は一騎の父親に事の経緯を伝えようとしたが、
「心配かけたくないから、言わないでほしい」と一騎に懇願されて押し掛けた携帯の通話ボタンから
そっと指を離す。
警察に言えば犯罪になるような行為に襲われていたというのに、と思うと総士はあの大学生が到底許せなくて、
何とか探し出して罪を償えと言いたい気持ちでいっぱいだったが、
「誰にも言わないで…俺なら、大丈夫だから」と必死に訴える一騎を前にすると何も言えなくなってしまった。
「わかった」と一言つぶやくと、安心したように一騎は少し笑って、そのまま意識を失った。
少しも大丈夫じゃなかったくせに、とぐったりした一騎の身体を抱きとめながら
総士は歯がゆい思いがこみ上げた。
そして一騎をベッドに横たえると総士は傷の手当をする、包帯を巻くついでにどうしても気になってしまって
「ごめん」と呟きながら一騎のシャツのボタンを外して上半身を露わにした。
おそるおそるその肌に目線を移したが、前日に総士が見た時から新しく増えた痣は見当たらなくて、
なんだか妙にほっとする。
身動きの取れない状況の中で一方的に暴力を振るわれたわけではなさそうだと、
それだけでも総士は救われる思いだった。
知っているつもりになって全く知ることの出来なかった幼なじみの身に起こっていた事。
長い間その心に刻み込まれた恐怖と絶望の記憶は薄れる事なんてあるのだろうか、と漠然と思ってしまう。
何か、支えてあげられる方法は見つけられるだろうかと不安な気持ちばかりが溢れそうになって、
総士は思わず俯いた。
そっと、外したボタンを元通りに掛け直す。

「ごめん」

総士はまた呟いて、その上に布団を掛けた。





「総士」

目を覚ました一騎が呟いて、総士はなるべく安心させるようにその手を両手で包みながら一騎を見る。

「来てくれて…ありがと」

「一騎」

「総士がいてくれて、ほんと…よかった」

そう言って一騎は総士の手を握り返した。

「あいつが出てってから、総士の声聞こえて、来てくれたんだって思ったけど、俺…」

「喋らなくて、いいから」

「俺、総士がいなかったら」

「一騎」

総士は一騎の声を無理矢理遮る。
今は、思い出さなくていいからと言葉にはしなかったが、
強くそう思って一騎の右目を覆う包帯にそっと触れると「痛くないか?」と小さく言った。

「ちょっと痛いけど、大丈夫」

と答えた一騎に優しく微笑みかける。
総士の笑顔につられて表情を緩めた一騎を見て総士は、うまく誤魔化せたかな、と心の中で安堵した。
自分がいちいち不安定になっていては駄目だと思う。
それ以上に目の前の一騎は、本当は崩れそうなくらい不安定なのではないかと思うから。
でも、一言発する毎に辛そうな表情を深くする一騎を見ていられなかった。

「今度からさ、家に泊まりに来ないか?」

総士は自分の気持ちを吹っ切るように一騎に話しかけた

一騎の父親は相変わらず家を空けることが多いし、加害者がいつまた戻って来るかもわからない、
それに何より、こんな状態の一騎を一人で家には置いておけないと思ったから総士は自分の家に呼ぼうとした。
幸い、総士の両親は二人とも外国に長期出張していて家には今のところ総士しかいなかった。

「でも…」

「わかんない所いっぱいあるんだろ、物理の他にも」

「ある…けど」

「ちゃんと、教えてやるから」

総士は優しく笑って、ぺち、と一騎のおでこを叩く。
すると一騎は困ったように総士を見て、それからふわりと笑った。

「じゃあ、よろしくお願いします」

「お返しに何してもらおうかなぁ」とふざけて言えば、
「夕食と朝食作るから、どうせ総士、ちゃんと食べてないんだろ?」と言われてしまって、
嬉しかったけれどなんだか一騎の方が保護者みたいな感じになってしまいそうだと総士は思った。

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