蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
[PR]
2024.11.22 Friday
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
君と僕とあの夏の日と14
2011.11.20 Sunday
その日の夜は、どしゃ降りの雨になった。
一騎は窓越しに雲に覆われた夜空を見上げてはため息を吐く。
窓の外側を滴り落ちる雨粒に指を這わせては、今日じゃなければよかったのにと呟いた。
それもそのはず、今日は年に一回開催される花火大会の日だった。
近くの海岸で行われるそれは、付近の住民はおろか隣県からも見物客が訪れるほどには大きな花火大会で、
一騎達も小さい頃から毎年行っている。
漆黒の夜空に打ち上げられる大玉の花火はとても綺麗で、夏の始まりを告げるに相応しいものだった。
と、ぼんやり思っていると、ぽんと頭に軽い感触がして一騎は振り返る。
そこには、なんだか困ったような微笑をたたえた総士が立っていて、一騎も思わず困ったように笑った。
「来週に延期だって」
「…そっか」
「さっき濡れただろ、包帯取り替えるからこっち座って」
総士は言って、一騎をリビングのソファーに座らせる。
すでに用意されていた救急箱を見ては、なんかこれにお世話になるのも慣れたよなと
一騎はなんともいえない微妙な気持ちでまた見つめる。
その間にも手際良く総士は包帯をくるくると外して、とりあえず濡れていた髪にバスタオルを被せて拭き始めた。
「…ねぇ、総士」
「ん?」
被せられたバスタオルの中で呟いた自分の声は、なんだか余りにも情けない籠った音に聞こえて、
一騎ははっとして、やっぱなんでもない、とだけ返す。
ひとつひとつの呼吸音すら大げさに聞こえるような気がして居心地が悪い。
一騎が思わず両手をぎゅっと握りしめた瞬間、まるでそれを察知したかのようにタオルは取り除かれて、
代わりに開けた明るい視界の中に総士が映って、なんだかとても安心する。
「ごめんな」
そう言って、総士はそっと一騎の右目を覆うガーゼに手を伸ばす。
外すのが痛いかもしれないからと謝ったのだろうけれど、もうあと数日で抜糸になるだけの傷は殆ど塞がって、
痛みなんて感じる筈もないのに、ガーゼが外れる瞬間にはなぜか顔を顰めてしまった。
「ごめん」
もう一度総士は申し訳なさそうに言った。
痛くなんてなかったのに。
心配されたいだけなのかな、なんて一騎は思って顔を上げられずにいると、ひた、と左頬に手を添えられて、
消毒液を浸した冷たいガーゼが右目にそっと触れた。
縫合痕に沿って押しあてられるそれに、はっきりと見たことはないけれど自分の傷の大きさとか形を再確認
するような感覚がする。
やがてガーゼが外されると、次は化膿止めの軟膏が塗布される筈で、あの匂いと油っぽい軟膏特有の感触が
一騎は苦手で仕方なかった。
総士は何も言わずに、人差し指につけた薬をそっと一騎の右目に塗り始める。
くすぐったくて気持ち悪くて、目を普通に閉じていることがなんだかとても難しい。
「くすぐったいよ」
思わず口にすると、総士は苦笑いをしたような雰囲気で、もう終わるからとだけ告げた。
言い終わらない内に新しいガーゼが目を覆って、テープでしっかりと固定される。
ふと、手が止まった気がして一騎は総士を見ると、
「ちゃんと治りそうだな」
と言って総士はふんわり笑った。
一騎は思わず右目のガーゼに触れるとまた総士を見つめた。
「…あ」
言いかけようと口を開いて、でも止めてしまった。
どうした?と総士は首を傾げていたが、一騎は俯いてしまう。
「痛むのか?」
心配そうな声色で聞いてくる総士に、一騎はぶんぶんと首を振る。
最初は戸惑うばかりだった片目だけの視界にもいつしか慣れてきて、それが普通になって、
ずっと前からこんな風に世界が見えていた総士との期間限定の共通点だとはわかっていたつもりなのに、
それがなくなるというのが、急に怖いように思えてきてしまったのだ。
総士がそんなことを望まないのは痛いほどわかっているつもりだけれど、このままいられるなら、
このままでもいいんじゃないかと、そんな風に思えてしまう自分がいるのを否定は出来なかった。
すると、目の前にいた筈の総士がいつのまにか立ちあがって一騎の横に座る。
そして一騎の肩に腕を回すと、ぎゅと力を込めて引き寄せた。
「来週、一緒に練習見に行こう、ずっと行ってなかっただろ?」
一騎がそろりと見上げると、総士はまた優しく笑う。
「大丈夫だから」
そう言って総士は、一騎のおでこにこつんと自分のおでこをぶつけた。
そしてちょっとだけ、腕の力を強くする。
まだ事あるごとに悟られないように小刻みに震える身体に、気付いていない訳ではなかった。
一騎は窓越しに雲に覆われた夜空を見上げてはため息を吐く。
窓の外側を滴り落ちる雨粒に指を這わせては、今日じゃなければよかったのにと呟いた。
それもそのはず、今日は年に一回開催される花火大会の日だった。
近くの海岸で行われるそれは、付近の住民はおろか隣県からも見物客が訪れるほどには大きな花火大会で、
一騎達も小さい頃から毎年行っている。
漆黒の夜空に打ち上げられる大玉の花火はとても綺麗で、夏の始まりを告げるに相応しいものだった。
と、ぼんやり思っていると、ぽんと頭に軽い感触がして一騎は振り返る。
そこには、なんだか困ったような微笑をたたえた総士が立っていて、一騎も思わず困ったように笑った。
「来週に延期だって」
「…そっか」
「さっき濡れただろ、包帯取り替えるからこっち座って」
総士は言って、一騎をリビングのソファーに座らせる。
すでに用意されていた救急箱を見ては、なんかこれにお世話になるのも慣れたよなと
一騎はなんともいえない微妙な気持ちでまた見つめる。
その間にも手際良く総士は包帯をくるくると外して、とりあえず濡れていた髪にバスタオルを被せて拭き始めた。
「…ねぇ、総士」
「ん?」
被せられたバスタオルの中で呟いた自分の声は、なんだか余りにも情けない籠った音に聞こえて、
一騎ははっとして、やっぱなんでもない、とだけ返す。
ひとつひとつの呼吸音すら大げさに聞こえるような気がして居心地が悪い。
一騎が思わず両手をぎゅっと握りしめた瞬間、まるでそれを察知したかのようにタオルは取り除かれて、
代わりに開けた明るい視界の中に総士が映って、なんだかとても安心する。
「ごめんな」
そう言って、総士はそっと一騎の右目を覆うガーゼに手を伸ばす。
外すのが痛いかもしれないからと謝ったのだろうけれど、もうあと数日で抜糸になるだけの傷は殆ど塞がって、
痛みなんて感じる筈もないのに、ガーゼが外れる瞬間にはなぜか顔を顰めてしまった。
「ごめん」
もう一度総士は申し訳なさそうに言った。
痛くなんてなかったのに。
心配されたいだけなのかな、なんて一騎は思って顔を上げられずにいると、ひた、と左頬に手を添えられて、
消毒液を浸した冷たいガーゼが右目にそっと触れた。
縫合痕に沿って押しあてられるそれに、はっきりと見たことはないけれど自分の傷の大きさとか形を再確認
するような感覚がする。
やがてガーゼが外されると、次は化膿止めの軟膏が塗布される筈で、あの匂いと油っぽい軟膏特有の感触が
一騎は苦手で仕方なかった。
総士は何も言わずに、人差し指につけた薬をそっと一騎の右目に塗り始める。
くすぐったくて気持ち悪くて、目を普通に閉じていることがなんだかとても難しい。
「くすぐったいよ」
思わず口にすると、総士は苦笑いをしたような雰囲気で、もう終わるからとだけ告げた。
言い終わらない内に新しいガーゼが目を覆って、テープでしっかりと固定される。
ふと、手が止まった気がして一騎は総士を見ると、
「ちゃんと治りそうだな」
と言って総士はふんわり笑った。
一騎は思わず右目のガーゼに触れるとまた総士を見つめた。
「…あ」
言いかけようと口を開いて、でも止めてしまった。
どうした?と総士は首を傾げていたが、一騎は俯いてしまう。
「痛むのか?」
心配そうな声色で聞いてくる総士に、一騎はぶんぶんと首を振る。
最初は戸惑うばかりだった片目だけの視界にもいつしか慣れてきて、それが普通になって、
ずっと前からこんな風に世界が見えていた総士との期間限定の共通点だとはわかっていたつもりなのに、
それがなくなるというのが、急に怖いように思えてきてしまったのだ。
総士がそんなことを望まないのは痛いほどわかっているつもりだけれど、このままいられるなら、
このままでもいいんじゃないかと、そんな風に思えてしまう自分がいるのを否定は出来なかった。
すると、目の前にいた筈の総士がいつのまにか立ちあがって一騎の横に座る。
そして一騎の肩に腕を回すと、ぎゅと力を込めて引き寄せた。
「来週、一緒に練習見に行こう、ずっと行ってなかっただろ?」
一騎がそろりと見上げると、総士はまた優しく笑う。
「大丈夫だから」
そう言って総士は、一騎のおでこにこつんと自分のおでこをぶつけた。
そしてちょっとだけ、腕の力を強くする。
まだ事あるごとに悟られないように小刻みに震える身体に、気付いていない訳ではなかった。
PR
COMMENT