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君と僕とあの夏の日と19

病院を後にすると最寄の駅から電車に乗り、二人はいつもの駅で改札を出た。
空を見上げれば徐々に夕暮れから夜に変わる頃のようで、一騎は3週間前のことを思い出す。
あの時はやたら不気味に思えて、目の前の総士の背中を追いかけることしか考えなかった。
そして視線を繋がれた手に落とす。
今日は、手繋いでるから平気なのかな、なんて柄にもないことを思っていると総士の声がした。

「着いたぞ」

慌てて顔を上げると、そこには遊具の撤去作業が始まったらしい公園があった。
あの時は青いビニールシートばかりだったのに、今日はそれがほとんど剥がされている。
そして中にあった遊具はそのほとんどが解体されかけていた。

「やっぱり、もう結構なくなっちゃってるんだね」

一騎がぽつりと呟くと、総士はおもむろに歩き出す。
そして侵入禁止のロープを軽く乗り越えると、繋いだ手を引っ張った。
一騎も手を引かれるままに乗り越えて歩いて行くと、立ち止まった先には、なぜか3週間前と
同じで手が付けられてないままのブランコがあった。
総士はその一つの前まで歩いて行くと、そこに一騎を座らせる。
「何で俺だけ?」と尋ねた一騎に総士はふわりと笑みを浮かべた。

「一騎の方が高く漕げるのが、本当はずっと悔しかったんだ」

そう言って座る一騎の間に足を掛けると、ブランコに立った総士はゆっくりと漕ぎ始める。
ギィ、ギィ、と錆びた金属の擦れる音が響いて、風が頬に触れる。
次第に心地よい揺れを起こすブランコに、一騎は少しだけ笑みを溢した。

「でもさ、総士」

何だ?といつもよりずっと高い位置から聞こえる返事に、一騎は総士を見上げる。

「子供の頃の俺より、今の総士の方が高く漕げるに決まってんじゃん」

悪戯っぽく一騎が言うと、案の定総士からの返事はなくて。
意外と、一騎から見れば意外でもないが、総士はこういう所に持ち前の負けず嫌いを発揮
したりする。
それがまさかブランコだなんてちょっと驚きだったけれど、なんだか必死になって漕いで
る総士を見ては「かわいいな」なんて思ってしまう。絶対否定されるから言わないけれど。

「でもさ、漕いでるだけじゃわかんなかった風が、座ってるとこんなに解るもんなんだね」

ありがと、と言って総士の足にこつんと頭をぶつけると、「どういたしまして」と頭上から
声がする。
それはそうともうかなり高い位置までブランコは大きく揺れていて、一騎は「高すぎない?」
とおそるおそる総士に聞いた。

「僕だってたまには、一騎に勝ちたいんだ。だからさ、もうちょっとだけ」

見上げていた一騎に目を合わせて今度は総士が悪戯っ子のように笑う。
一騎は最初こそびっくりしたものの、すぐに逸らされて上を向いてしまった総士に向かって

「俺の方がなんだか、負けっぱなしな気がするんだけど」

と聞こえないように呟いた。

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