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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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END OF THE WORLD3
「これ、今日の分」

そう言って一騎は操にお金の入った袋を渡すと、そのまま椅子に腰を下ろした。

「疲れたでしょ、寝ていいよ」

一騎が驚いて操の方に向き直ると、操は中身を確認しながら苦笑する。

「だって、この金額、相当ハードだったんじゃない?」

そういえば、と一騎は最後に渡された封筒の厚さがいつもの倍くらいあったかなと記憶を辿る。
急いでいたから大して確認も取らなかったけれど、何でこんなに…と一騎は少し戸惑ってしまった。

操に話すべきだろうか。

一騎は思わず視線を彼から逸らして考える。

操こと来主操は、二年前、一騎が行くあてもなく街をさまよいかけた時に拾ってくれた
命の恩人とでも言うべき男だった。
緩くウェーブのかかった茶色い髪に、一騎よりも頭ひとつ分身長の高い操は、
うずくまっていた一騎に優しく声をかけて手を差し伸べた。

「僕も、君と同じなんだ、多分」

そう言って寂しそうに微笑んだのがやけに印象的で、赤の他人なのになぜかその手を取ってしまった。

そして連れてこられたのがこのアパートで、表向きは風俗店として認可を取っている。
操ももちろん身体を売ってはいたが、ある時、全く自分のことを話さなかった操が電話で誰かと
話しているのを偶然聞いてしまった。
すぐに気付かれて謝ったが、別に咎められることもなく、ただ一言「誰にも言っちゃダメだよ」と
言われただけだった。
それからというもの、操は隠れて電話をすることもなくなって、その会話をずっと聞いていた一騎は、
どうやら操はアルヴィスの内情を探っている情報屋まがいの仕事をしているらしいと、
直接確認したわけではないものの、彼の本当の仕事を理解している。
特殊な事件に巻き込まれてしまい表立って援助を受けるわけにもいかなかった一騎は、
2年前から操と同じように身体を売って生活費としては余るほどの金額を稼いでいた。
暗黙のうちに操への情報を集める手伝いをするような形になっていたので、
自然と相手をする人間もそれなりの身分にある者が多く、
同業者よりは破格の金額を貰うことが多かったのである。

理由はもちろんある。
一騎ははっきりとではないが、両親を殺したのはアルヴィスではないかと勘づいていた。
操の手伝いをしていれば、そのうち、何か両親に繋がる情報が得られるのではないかと思った。

「会ったんだ」

一騎は俯いたままぼそりと口を開いた。

「え?」

「総士、戻ってきてた」

聞き返す操に一騎は思い切って総士の名前を口にした。

「総士が?」

「うん」

「…一騎を、抱いたの?」

まるで聞いてはいけないことのようにゆっくりと尋ねてきた操に一騎はふるふると首を横に振った。

「会いたかったって」

そこまで言って一騎は口をつぐむ。
「会いたかった」確かに総士はそう言った。
覚えていると言ったら誰が見て一目で解るように安堵感に包まれた表情をしていて、
なんだか嬉しいようで、でも特に言いたいわけでもないこの2年間を知られてしまったらどうしようと
困惑する気持ちがどんどん大きくなってしまう。
結局、話してしまって、案の定総士は自分のこと以上に心配しているような顔をしていたけれど。
その気持ちに甘えていられる時期なんてとっくに過ぎ去ってしまったのだと心のどこかが叫んでいて、
その背中に縋りつきたい気持ちを堪えるために、しなくていいことまで総士相手にしてしまったと
自己嫌悪の感情ばかり募ってくる。
思い出はそのまま、そこから遠く離れてしまった今となっては思い出すなんてことはしないほうが痛くないと、
なんだかそんな思いがこみ上げた。
別れ際に何か言われたような気がするけれど、形だけとはいえ幼なじみとこんな事をするだなんて
自分が信じられなくて、逃げるように宿を後にした。
うまく動かない右足がもどかしくて仕方なかった。

「…大丈夫?」

「え?」と顔を上げると、そこには心配そうな顔をした操が立っている。

「大丈夫じゃないって顔してる」

そう言うと、操は一騎の身体に手を回して強く引き寄せた。
数秒経って、抱きしめられたのかと一騎はぼうっとする頭で思う。

「わかんない」

一騎は操の服をぎゅっと握りしめた。
自分が何を思っているのか、どうしたいのか、何もかもわからないと思った。

「…泣いても、いいんだよ」

操の手がゆっくりと一騎の頭を撫でる。
そっと髪を梳く手の心地よさと握りしめた薄い布越しに操の体温が感じられて、
一騎は自然と両目に涙が溜まっていくのを堪えられなかった。
泣いたところで何も、何一つ変わらないのに、と思うとなぜか余計に涙がこぼれそうになる。

「何も、考えたくない」

一騎は呟いて、操の服にぎゅっと顔を押しつけた。

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