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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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END OF THE WORLD4
一騎は右足を庇いながら必死で狭く込み合った路地を早足で通り抜ける。
そろそろ夕刻になりつつある街は、夜市の開かれる金曜ということもあり、
数多くの露店がせわしなく準備に追われている。
そのせいでごった返す道は、普段なら鬱陶しくて堪らないものだが今の一騎にとっては有り難かった。
一騎は素早く後ろを振り返ると、そのまま横道に逸れてまた歩を進める。
なんとしてもこのまま操の元に帰らなければ、とただそれだけを強く思った。


今からほんの数十分前のこと。
一騎は操に頼まれた書類を依頼先に届けに、まだ明るい街へと出た。
目的地へはそう遠くはなく、頼まれた書類を依頼人へと渡すと一騎はそのまま帰ろうとしたが、
依頼人は「これを持っていってくれ」とだけ言うと、一騎の首にペンダントを掛ける。

「来主に渡してくれるだけでいい」

そう言った男は、誰がいるとも限らないから早く戻るんだ、と一騎に言ってドアを閉めた。
突然のことで呆気に取られていた一騎だったが、首に掛けられたペンダントを手に取る。
まるで青空のような綺麗な青色をした石がついているだけの簡素なものだったが、男の言いようからすると、
何か重要なものなのかもしれないと一騎は思う。
顔を上げて辺りに誰もいないことを確認すると、一騎はそのまま操の元へと真っ直ぐ向かった。
そうしていつものように裏道へと抜けようと思った時に異変を感じたのだ。

誰か、いる。

振り向くわけにもいかなかったが、誰かがというより数人が自分の後をつけているような感覚がする。
裏道を使えばここから数分で操の元に辿り着けたのだが、一騎はわざと遠回りになる大通りへと出た。
相手の目的は何なのかわからないが、とりあえず人混みに紛れて行方をくらまそうと思う。
一騎は準備に勤しむ露店の中をかいくぐって進んだ。
人混みによって後ろの気配は薄くなっていたような気がするが、
相手に先を読まれないように幾多にも方向を変えながら歩いていく。

「うわっ…!!」

急に目の前に現れた子供の乗る自転車に一騎は掠ってそのまま地面に倒れ込んだ。
慌てて顔を上げると、自転車もバランスを崩したのか地面に倒れている。

「ごめんっ、大丈夫?」

うずくまる子供に一騎は声を掛けるが何も返事は返ってこない。
まずいな、と思って子供に近寄ろうとしたその時だった。

「いくら急いでいるからって子供に怪我させるとはねぇ」

頭上から聞こえた声に一騎は顔を上げる。
するとそこには数人の男達が立ちはだかっていた。

「すみません」

自分の後をつけてきたのはこいつらか、と一騎は思いつつもとりあえずは謝罪の言葉を口にする。
まさか見逃してもらえるとは思ってもいないが、下手に口答えをしてしまっては状況を更に悪化させるだけだ。
一騎が俯いたままでいると、「ここじゃ何だから、ちょっとあっちの裏に来てくれるかな」
とまた頭上から声がした。
一騎は転がった杖を引き寄せて立ち上がると男達について路地裏へと歩いていく。
薄暗いその道に入った途端、杖を勢いよく引っ張られて一騎は地面に倒れてしまった。

「っ痛…」

一騎はギリと頭上の男達を睨みつける。
すると男達の一人が口を開いた。

「さっきお前が貰ったペンダントがあるだろう?それを私達に渡してくれないか」

そう言って男はしゃがみこむと、一騎の胸元に光るペンダントに手を伸ばそうとする。
渡してはいけない、となぜか頭の中に警鐘が鳴り響いた一騎はペンダントを服の中にしまうと、
その上から手で強く握りしめる。

「抵抗するだけ痛い目に遭うけど?」

男は楽しそうに笑って一騎の前髪を掴みあげる。
一騎が思わず顔を歪めたその時、

「その手を離してくれないか」

声が聞こえた。

「誰だ、お前?」

一騎の前にしゃがみ込んだ男が口を開く。

「アルヴィスだ」

よく通る声がその名を告げた瞬間、前髪を掴まれていた一騎はその手を離されてどさりと地面に倒れ込む。
声のした方に目線だけ向けると、そこには総士がいた。

「そう…し」

思わず呟いた一騎に総士は優しげに微笑みかけると、周りを囲んでいた男達に言う。

「無駄な抵抗は考えるな、逃げようと思ってももうアルヴィスが周囲を取り囲んでいる。
お前達、フェストゥムの人間だな?」

「俺達は別に、何もしてないじゃないか」

狼狽える男達に総士は言い放つ。

「今お前達が取り囲んだその少年はまだ16歳だ、未成年に対しての暴力はここでは暴行未遂罪に問われる。
抵抗すれば罪はもっと重くなるぞ」

総士が言い終わるやいなや待機していたアルヴィスの人間達が一斉に男達を取り押さえる。
「連れて行け」と総士が命令すると、一騎を囲んでいた男達はそのまま路地の外へと連行されていった。

「大丈夫か?」

総士は倒れたままの一騎の元へ駆け寄る。
その顔はさっきまでの張りつめたような表情ではなくて、一騎はなんだか困惑してしまう。

「お前、怪我して…」

「大丈夫」

そう言って一騎は上半身を起こした。
が、すぐに背中と膝に総士の腕が回されるとそのまま抱き上げられてしまう。

「総士?」

「手当するから」

総士は一言告げてそのままぐんぐんと歩き出す。
大丈夫だから降ろせよ、と一騎が何度言っても総士は聞かなかった。
そうしていつのまにか見知らぬ建物についたかと思うと、総士はドアを開ける。

「僕の部屋だから」

そう言って総士は中に入ると一騎をベッドに横たえた。


一騎は自分でも気がついていなかったが、男達に杖を引っ張られて倒された時に両手と両足を
擦りむいていたようだった。
まぁあれだけごつごつした石畳の道じゃ仕方ないよな、と思いつつやたらと手際よく消毒しては
包帯を巻いていく総士をぼんやり見つめる。
時折、

「痛くないか?」

と聞いてくる総士になんだかまた昔の記憶が蘇って、うれしいような苦しいような感覚が押し寄せる。
一騎は「もう大丈夫」と言って総士に微笑んだ。

「総士は、アルヴィスにいるのか?」

急に先ほどの一連の出来事を思い出して一騎は総士に尋ねた。
すると総士は少し言葉に詰まったような素振りを見せつつも「ああ」とだけ答える。
「どうして?」とか「いつから?」とか色々聞きたいことはあったのだが、
なんだか沈んだような表情を浮かべている総士を目の前にすると、
何一つ口をついて出る言葉が無くなってしまう。

「そっか」

一騎はそれだけ呟いて、ベッドから起きあがった。
サイドに立てかけてあった杖を取ろうとすると、総士が取り上げてしまう。
不思議そうに一騎が見上げていると、総士は言った。

「送っていくよ」

「あ…」

「住所さえ言ってくれればわかるから」

「…でも」

「じゃあ、近くまでならいいだろ?そこまで送っていく」

言い淀んだ一騎の事情を察してか、総士はそう言うと、一騎の前にしゃがみこんだ。
「ほら」と言って手を後ろに差し出してくる。
別に、おぶってなんてくれなくても歩けるのに、と一騎は言いたかったが、
なんとなくそんな雰囲気ではないようn気がして静かにその背に身体を預ける。
立ち上がった総士の肩越しに見える景色は一騎のそれよりも若干高く、
総士にはこんな風に景色が見えてるんだと思うと何だか不思議な感覚がした。

「大通りに出て、三つ目の信号を右に曲がったとこ」

一騎はぼそりと総士に言うと、「わかった」と総士は振り向いて微笑む。
そういえば今は何時なんだろうと一騎は少し不安になった。
大通りで男達に絡まれた所を総士に助けられてから今まで、そんなに時間は経っていないような気もするが、
夕暮れ時だったはずの空はもう夜になっていて、一騎は操が心配しているんじゃないかと思う。
今更時間を気にしたところで戻せるわけでもないから、
とりあえず着くまでに何か心配されないような言い訳でも考えようと頭を巡らせた。

「あ、あそこ、あの角でいいから」

そうしている内に目的の路地がすぐ目の前に迫り、一騎は総士に声を掛ける。
案外、総士の住んでいる所からここまでは遠くなかったらしい。
一騎がそんな事を思っていると、ふいに名前を呼ばれた。

「一騎」

至近距離ではないその声に一騎は顔を上げるとそこには操が立っている。

「操」

思わず名前を呼べば、今度は総士の方が一騎に振り返った。
耳元で急に大声を出してしまったことに気づいて一騎は「一緒に住んでる人なんだ」と総士に告げる。
「そうか」とだけ返事が返ってきたが、一騎は別にその事に何も疑問は持たなかった。

「すみません、怪我をしていたので僕の家で手当をしていました」

総士は操の前まで来ると、そう言って頭を下げた。
そっと一騎を地面に下ろすと杖を手渡してやる。
「大丈夫か?」と操に尋ねられたので「うん」と一騎は返した。

「一騎が、お世話になりました」

操は総士に頭を下げると、「行くぞ」と言って一騎の背中を押す。
一騎は振り返って「本当に、ありがとう」と総士に言うと
操と一緒に路地を曲がった。

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