蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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END OF THE WORLD2
2011.11.20 Sunday
午前0時寸前にすべり込んだ宿は、さっきまでいた路地裏からさらに奥に入った所にある。
導かれるままに辿り着いたその門構えは総士達の年代の人間が普段足を踏み入れることのないような造りをしていて、
一騎はいつもどんな客を相手にしているのだろうと総士は漠然と思った。
そして、部屋に入ってから小一時間が経とうとしている。
もちろんベッドは一つしかないから二人ともそこにいるしかなかったのだが、横たわるのは一騎だけで、
総士は反対側の縁に腰を下ろしたまま、目を合わせることは一度もなかった。
「抱かない奴なんて、初めてだ」
「僕は…そんな」
突然口を開いた一騎に総士は口ごもる。
「ごめん、からかった」
くすくすと一騎は笑って、初めて総士の方を向いた。
「覚えてるよ、総士」
そう言って一騎は、また記憶の中と同じ笑顔で笑う。
その笑顔に思わず言葉に詰まった総士は、数秒置いてから「一騎」とだけ小さく言った。
「旅してんだ、相変わらず」
「居場所は見つかったの?」と、何気ない一騎の問いかけに総士はどう答えていいのかわからなくなる。
居場所が見つからないと旅に出たのは、それを告げたのは紛れもない事実で。
だけど現状はあの頃と比べてはるかに複雑になってしまい、いくら一騎といえど簡単に話す訳にはいかなくなってしまった。
総士は気づかれないように小さく息をはくと、「一騎はあれからどうしてたんだ?」と、無理矢理話をそらした。
「…一騎?」
急に黙りこくった一騎の顔を総士は覗き込む。
それは、苦しみのような悲しみのような、今まで総士が見たことのない表情で、思わず総士は息を飲んだ。
すると、一騎は表情を緩めて言葉を発した。
「何もなくなったよ、二年前」
「二年…前?」
曖昧な表現で自嘲するように笑った一騎の言葉の意味を計りかねて総士は繰り返したずねる。
一騎の手がシーツを握りしめるように見えた。
「そう、朝起きたら…みんな死んでた」
告げられた台詞に、総士は頭の中に嫌でも連想させられる事柄が浮かび上がる。
そうであって欲しくはないと縋るように祈りながら、そっと一騎に問いかけた。
「殺されたのか?」
すると一騎は総士をチラリと見て眉を下げる。
「あたり一面血だらけで、なんかドラマみたいだなって」
総士を見ている筈の両目が全く焦点を合わせていないような気がして、総士はやたらと口の中が乾くような、
変な緊張感に包まれていくのを感じる。
「警察は?」
「…動く筈ないし」
それは…と口が開きかけて、総士ははっと目を見張った。
生憎一騎はベッドに目線を落としたままにしているので、ぎこちない総士の仕草を知られることはなかったが、
総士は背中を嫌な汗が流れていくのを感じる。
それは…たぶん、アルヴィスだ。
と、総士はひとり一騎を見つめながら目を伏せた。
アルヴィスとは全世界に広がる自警組織で、主な仕事は地域ごとの治安を守ることだったが、
ここ数年でいえば、ある組織の壊滅のために活動している。
その組織とは、「フェストゥム」と呼ばれる過激派で、暴徒と化した構成員達が世界中で暴動を起こしては治安を悪化させていた。
治安悪化が激化する中、総士は15歳の時に自ら進んでアルヴィスに入った。
宇宙を放浪する中で様々な人々を見てきた総士は、何か自分にも出来ることはないかと、入隊を決心した。
丁度アルヴィスに入った二年前に、あくまで組織内の噂でしかなかったが、
アルヴィスの特殊部隊が帝都で暗殺を繰り返していると聞いたことがある。
そのターゲットはアルヴィスからフェストゥム側に移り、内部情報を漏洩しているとされる者達で、
たまたま回ってきた到底本物とは思えないリストに一騎の母親の名前が書かれていて酷く驚いた記憶があった。
それが実行されたのか否かはわからなかったが、その後特殊部隊の話は全く聞こえてこなかったので、
誰かの単なる暇つぶし程度には手の込んだ嘘だったのだろうと総士はひとり決め込んだ。
そもそも容疑だけで犯罪行為が発生しないのにも関わらず口封じのようなことをアルヴィスがやるとは到底思えなかった。
でも、暗殺は行われたのだと今ここで解ってしまった。
それも、被害者の遺族で自分の幼なじみの口からはっきりと事の経緯が語られた。
もちろん、一騎がこのことを知っているとは思えないが、昔からやたらと察しの良かった彼の事だから、
呼び止めた時にわざと他人の振りをしたのかもしれないと総士は思う。
ずっと会いたかった、でも、なぜ呼び止めてしまったのだろうと総士は数時間前の自分を少し恨めしく感じる。
そうしてどれくらいの沈黙が過ぎたのかわからないが、一騎が総士を見上げると口を開いた。
「それからずっと、こうやって生きてる」
右足を引きずるようにベッドの上を這って一騎は総士の側に寄ると、突然総士の手を取ってその指を口に含んだ。
指の形を確認するようにくるりと舌で器用に舐めると、わざと上目遣いで総士を見上げてくる。
「かず…き」
何の躊躇もなくこんな行為をしてみせる一騎に、総士は動揺を隠せなくてうまく言葉を紡げない。
すると一騎は総士の指から口を離してくすりと笑った。
「ごめん」
気持ち悪いよね、と自嘲気味に笑う一騎に総士は顔を歪める。
二年前、突然両親を殺されて何もなくして、当然法律上では就労は禁止されている年齢だから真っ当な仕事は出来ない。
でも、警察すら動かない事件なら一騎の存在すらもなかった事にされたのだろう、財産など残されたわけもなく、
それでも生きていくために身体を売って稼ぐのが手っとり早く、そうでもしなければのたれ死ぬのをただただ待つしかない。
絶望に囲まれた中での苦渋の選択をするしかなかった幼なじみのことを思うと、総士はどうしていいかわからなかった。
「今、どこにいるんだ?」
やっとのことで総士はそれだけ言った。
「ごめん、お客さんにそういうことは言えないんだ」
と、一騎はまた笑って答える。
「ちゃんと…」
「うん、ちゃんと暮らせてるよ。同僚の所に住まわせてもらってる」
そう言って一騎は安心させるように総士を見た。
その表情につかの間の安堵感がこみ上げた総士は「それなら…よかった」と小さく呟く。
すると、一騎はにこりと笑った。
「変わらないよな、昔から」
独り言のように呟いた一騎に総士は訳も分からずただ見つめていると、一騎は総士の手に自分の手を重ねて言った。
「総士、やっぱりお兄ちゃんみたいだ」
導かれるままに辿り着いたその門構えは総士達の年代の人間が普段足を踏み入れることのないような造りをしていて、
一騎はいつもどんな客を相手にしているのだろうと総士は漠然と思った。
そして、部屋に入ってから小一時間が経とうとしている。
もちろんベッドは一つしかないから二人ともそこにいるしかなかったのだが、横たわるのは一騎だけで、
総士は反対側の縁に腰を下ろしたまま、目を合わせることは一度もなかった。
「抱かない奴なんて、初めてだ」
「僕は…そんな」
突然口を開いた一騎に総士は口ごもる。
「ごめん、からかった」
くすくすと一騎は笑って、初めて総士の方を向いた。
「覚えてるよ、総士」
そう言って一騎は、また記憶の中と同じ笑顔で笑う。
その笑顔に思わず言葉に詰まった総士は、数秒置いてから「一騎」とだけ小さく言った。
「旅してんだ、相変わらず」
「居場所は見つかったの?」と、何気ない一騎の問いかけに総士はどう答えていいのかわからなくなる。
居場所が見つからないと旅に出たのは、それを告げたのは紛れもない事実で。
だけど現状はあの頃と比べてはるかに複雑になってしまい、いくら一騎といえど簡単に話す訳にはいかなくなってしまった。
総士は気づかれないように小さく息をはくと、「一騎はあれからどうしてたんだ?」と、無理矢理話をそらした。
「…一騎?」
急に黙りこくった一騎の顔を総士は覗き込む。
それは、苦しみのような悲しみのような、今まで総士が見たことのない表情で、思わず総士は息を飲んだ。
すると、一騎は表情を緩めて言葉を発した。
「何もなくなったよ、二年前」
「二年…前?」
曖昧な表現で自嘲するように笑った一騎の言葉の意味を計りかねて総士は繰り返したずねる。
一騎の手がシーツを握りしめるように見えた。
「そう、朝起きたら…みんな死んでた」
告げられた台詞に、総士は頭の中に嫌でも連想させられる事柄が浮かび上がる。
そうであって欲しくはないと縋るように祈りながら、そっと一騎に問いかけた。
「殺されたのか?」
すると一騎は総士をチラリと見て眉を下げる。
「あたり一面血だらけで、なんかドラマみたいだなって」
総士を見ている筈の両目が全く焦点を合わせていないような気がして、総士はやたらと口の中が乾くような、
変な緊張感に包まれていくのを感じる。
「警察は?」
「…動く筈ないし」
それは…と口が開きかけて、総士ははっと目を見張った。
生憎一騎はベッドに目線を落としたままにしているので、ぎこちない総士の仕草を知られることはなかったが、
総士は背中を嫌な汗が流れていくのを感じる。
それは…たぶん、アルヴィスだ。
と、総士はひとり一騎を見つめながら目を伏せた。
アルヴィスとは全世界に広がる自警組織で、主な仕事は地域ごとの治安を守ることだったが、
ここ数年でいえば、ある組織の壊滅のために活動している。
その組織とは、「フェストゥム」と呼ばれる過激派で、暴徒と化した構成員達が世界中で暴動を起こしては治安を悪化させていた。
治安悪化が激化する中、総士は15歳の時に自ら進んでアルヴィスに入った。
宇宙を放浪する中で様々な人々を見てきた総士は、何か自分にも出来ることはないかと、入隊を決心した。
丁度アルヴィスに入った二年前に、あくまで組織内の噂でしかなかったが、
アルヴィスの特殊部隊が帝都で暗殺を繰り返していると聞いたことがある。
そのターゲットはアルヴィスからフェストゥム側に移り、内部情報を漏洩しているとされる者達で、
たまたま回ってきた到底本物とは思えないリストに一騎の母親の名前が書かれていて酷く驚いた記憶があった。
それが実行されたのか否かはわからなかったが、その後特殊部隊の話は全く聞こえてこなかったので、
誰かの単なる暇つぶし程度には手の込んだ嘘だったのだろうと総士はひとり決め込んだ。
そもそも容疑だけで犯罪行為が発生しないのにも関わらず口封じのようなことをアルヴィスがやるとは到底思えなかった。
でも、暗殺は行われたのだと今ここで解ってしまった。
それも、被害者の遺族で自分の幼なじみの口からはっきりと事の経緯が語られた。
もちろん、一騎がこのことを知っているとは思えないが、昔からやたらと察しの良かった彼の事だから、
呼び止めた時にわざと他人の振りをしたのかもしれないと総士は思う。
ずっと会いたかった、でも、なぜ呼び止めてしまったのだろうと総士は数時間前の自分を少し恨めしく感じる。
そうしてどれくらいの沈黙が過ぎたのかわからないが、一騎が総士を見上げると口を開いた。
「それからずっと、こうやって生きてる」
右足を引きずるようにベッドの上を這って一騎は総士の側に寄ると、突然総士の手を取ってその指を口に含んだ。
指の形を確認するようにくるりと舌で器用に舐めると、わざと上目遣いで総士を見上げてくる。
「かず…き」
何の躊躇もなくこんな行為をしてみせる一騎に、総士は動揺を隠せなくてうまく言葉を紡げない。
すると一騎は総士の指から口を離してくすりと笑った。
「ごめん」
気持ち悪いよね、と自嘲気味に笑う一騎に総士は顔を歪める。
二年前、突然両親を殺されて何もなくして、当然法律上では就労は禁止されている年齢だから真っ当な仕事は出来ない。
でも、警察すら動かない事件なら一騎の存在すらもなかった事にされたのだろう、財産など残されたわけもなく、
それでも生きていくために身体を売って稼ぐのが手っとり早く、そうでもしなければのたれ死ぬのをただただ待つしかない。
絶望に囲まれた中での苦渋の選択をするしかなかった幼なじみのことを思うと、総士はどうしていいかわからなかった。
「今、どこにいるんだ?」
やっとのことで総士はそれだけ言った。
「ごめん、お客さんにそういうことは言えないんだ」
と、一騎はまた笑って答える。
「ちゃんと…」
「うん、ちゃんと暮らせてるよ。同僚の所に住まわせてもらってる」
そう言って一騎は安心させるように総士を見た。
その表情につかの間の安堵感がこみ上げた総士は「それなら…よかった」と小さく呟く。
すると、一騎はにこりと笑った。
「変わらないよな、昔から」
独り言のように呟いた一騎に総士は訳も分からずただ見つめていると、一騎は総士の手に自分の手を重ねて言った。
「総士、やっぱりお兄ちゃんみたいだ」
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