蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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君と僕とあの夏の日と18
2011.11.20 Sunday
それから数日後、一騎は抜糸のために病院へ行った。
この数週間、傷の療養としてはあまりに色々な事が起こり過ぎて、一騎は本当に今日で通院が終わりに
なるのだろうかと内心疑う気持ちが少々あったのだが、包帯を外してから医師は「良好そうですね」と
言ってそのまま抜糸の準備をするよう看護師に伝えた。
準備が整うまでの間、医師は自分の両手に巻かれた包帯に目を留めているのを一騎は気付いて、
「片目に慣れなくて転んだんです」
と嘘を吐いて笑う。
「大変だったね、大丈夫?」となんだか嘘を吐いたのに見透かされてるんじゃないかと思えてしまうよ
うな返事が返ってきて、一騎は数秒遅れて「はい」と小さく頷いた。
その後、速やかに抜糸は済んだが、今度はずっと使っていなかった目を急に使うと疲れが溜まるからと、
すぐに運動など目を酷使するような事を避けるように医師は一騎に言った。
一騎は頷いて席を立つと、「ありがとうございました」と言って診察室を後にする。
なんだか、久しぶりすぎる両目での視界の広さと明るさに慣れなくて、一騎はしばらく立ち止まったま
ま何回も瞬きを繰り返した。
「終わったのか?」
後ろから声がして振り向くと、そこには総士の姿があって、今日は生徒会で遅くなると聞いていたから、
一騎はびっくりしたまま総士をじっと見つめてしまう。
そんな一騎の様子を見て総士は笑うと、「僚先輩がね、早く帰っていいって言うから」と言った。
「来て、くれたんだ」
一騎が思わず呟くと、総士は「いけなかったか?」と苦笑する。
「いや、うれしい」
そう言って一騎はにこりと微笑んだ。
笑っても片目が引き攣るような感覚が消えたことに、まだ何だか慣れなくてむず痒いような気持ちになる。
総士の側へ歩いていこうとした瞬間、窓からの日差しが目に入って一騎は思わず顔を顰めた。
「大丈夫か?」
と心配そうに声を掛けてくる総士に、「久しぶりだから眩しくて」と一騎は片目を押さえたまま力なく
笑う。
すると、一騎の目の前に総士の手が差し出された。
「危ないから、さ」
見上げた総士の顔はなんだかちょっと照れくさそうだったけれど、でも嬉しい気持ちの方が大きくて、
一騎は何も言わずにその手に自分の手を重ねた。
会計を済ませて外に出ると、太陽はかなり傾きかけていてもうすぐ夕暮れなんだな、と一騎は片目の瞼を
不自然に閉じながらぼんやり空を見る。
そのまま視線を落とせば繋がれた手があって、もう夏なのに不思議とそこから感じる総士の体温が不快
だとは思えない自分がいた。
いつだって総士の手は、なんだか安心する温度だよなぁと一騎は少し上にある総士の横顔を見つめて思う。
「どうした?」
あんまりにも見ていたからか視線に気付いた総士が声を掛ける。
「ううん、何でもない」と一騎は言って笑うと、つられて総士も笑った。
「何で笑ってんの」
「お前が笑うからだろ」
言ったと同時にぽん、と頭にのせられた手に一騎はまた嬉しくなって、「そうだね」と返す。
そのまま駅に向かう途中の道で、一騎は「あ!」と急に声を上げた。
「あの公園って、もう無くなったのかな?」
怪我をしたその日にたまたま行ったあの公園の取り壊し工事は、確かそろそろ始まっているんじゃないか
と一騎は思う。
別にすごく思い入れがある訳ではないのだけれど、なんとなくこのまま見ずに全部無くなってしまうのが
急に寂しくなって、一騎は「行ってみようよ」と総士に言った。
「そうだな」と頷いた総士が何を思っているかなんて解る訳は無いのだけれど、もしかしたら同じ気持ち
だったりするのかな、と一騎は総士の顔をちらりと見上げる。
すると総士は一騎を見て、「転ぶなよ」とだけ言って繋いだ手に少しだけ力を込めた。
一騎は思わず口元を綻ばせると、「大丈夫だって」と呟いた。
この数週間、傷の療養としてはあまりに色々な事が起こり過ぎて、一騎は本当に今日で通院が終わりに
なるのだろうかと内心疑う気持ちが少々あったのだが、包帯を外してから医師は「良好そうですね」と
言ってそのまま抜糸の準備をするよう看護師に伝えた。
準備が整うまでの間、医師は自分の両手に巻かれた包帯に目を留めているのを一騎は気付いて、
「片目に慣れなくて転んだんです」
と嘘を吐いて笑う。
「大変だったね、大丈夫?」となんだか嘘を吐いたのに見透かされてるんじゃないかと思えてしまうよ
うな返事が返ってきて、一騎は数秒遅れて「はい」と小さく頷いた。
その後、速やかに抜糸は済んだが、今度はずっと使っていなかった目を急に使うと疲れが溜まるからと、
すぐに運動など目を酷使するような事を避けるように医師は一騎に言った。
一騎は頷いて席を立つと、「ありがとうございました」と言って診察室を後にする。
なんだか、久しぶりすぎる両目での視界の広さと明るさに慣れなくて、一騎はしばらく立ち止まったま
ま何回も瞬きを繰り返した。
「終わったのか?」
後ろから声がして振り向くと、そこには総士の姿があって、今日は生徒会で遅くなると聞いていたから、
一騎はびっくりしたまま総士をじっと見つめてしまう。
そんな一騎の様子を見て総士は笑うと、「僚先輩がね、早く帰っていいって言うから」と言った。
「来て、くれたんだ」
一騎が思わず呟くと、総士は「いけなかったか?」と苦笑する。
「いや、うれしい」
そう言って一騎はにこりと微笑んだ。
笑っても片目が引き攣るような感覚が消えたことに、まだ何だか慣れなくてむず痒いような気持ちになる。
総士の側へ歩いていこうとした瞬間、窓からの日差しが目に入って一騎は思わず顔を顰めた。
「大丈夫か?」
と心配そうに声を掛けてくる総士に、「久しぶりだから眩しくて」と一騎は片目を押さえたまま力なく
笑う。
すると、一騎の目の前に総士の手が差し出された。
「危ないから、さ」
見上げた総士の顔はなんだかちょっと照れくさそうだったけれど、でも嬉しい気持ちの方が大きくて、
一騎は何も言わずにその手に自分の手を重ねた。
会計を済ませて外に出ると、太陽はかなり傾きかけていてもうすぐ夕暮れなんだな、と一騎は片目の瞼を
不自然に閉じながらぼんやり空を見る。
そのまま視線を落とせば繋がれた手があって、もう夏なのに不思議とそこから感じる総士の体温が不快
だとは思えない自分がいた。
いつだって総士の手は、なんだか安心する温度だよなぁと一騎は少し上にある総士の横顔を見つめて思う。
「どうした?」
あんまりにも見ていたからか視線に気付いた総士が声を掛ける。
「ううん、何でもない」と一騎は言って笑うと、つられて総士も笑った。
「何で笑ってんの」
「お前が笑うからだろ」
言ったと同時にぽん、と頭にのせられた手に一騎はまた嬉しくなって、「そうだね」と返す。
そのまま駅に向かう途中の道で、一騎は「あ!」と急に声を上げた。
「あの公園って、もう無くなったのかな?」
怪我をしたその日にたまたま行ったあの公園の取り壊し工事は、確かそろそろ始まっているんじゃないか
と一騎は思う。
別にすごく思い入れがある訳ではないのだけれど、なんとなくこのまま見ずに全部無くなってしまうのが
急に寂しくなって、一騎は「行ってみようよ」と総士に言った。
「そうだな」と頷いた総士が何を思っているかなんて解る訳は無いのだけれど、もしかしたら同じ気持ち
だったりするのかな、と一騎は総士の顔をちらりと見上げる。
すると総士は一騎を見て、「転ぶなよ」とだけ言って繋いだ手に少しだけ力を込めた。
一騎は思わず口元を綻ばせると、「大丈夫だって」と呟いた。
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