蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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君と僕とあの夏の日と17
2011.11.20 Sunday
眠る一騎の強く握りしめられた両手の拳を見て、総士は顔を顰める。
青白く変色する程に力が込められたそれは、最近では皮膚に爪が食い込むのか血まで滲むようになった。
総士は一騎を起こさないように静かにベッドに近寄ると、そっと片手を取る。
やんわりと両手で包みながらいつものように少しずつ握りしめられた指を解いていこうとした時、
つぅ、と一筋赤い滴りが流れ落ちて、総士は目を見開いた。
「一騎」
そのまま声を掛けてみるが、いつもなら少しの物音ですら起きる一騎はぴくりとも動かない。
「一騎っ」
強く声を掛けながら肩を揺さぶれば、暫くして一騎はゆっくりと目を開けた。
総士は少しほっとすると「大丈夫か?」とゆっくり、確認するように尋ねる。
「…え?」
初めは状況がわからず何度も瞬きをしていた一騎は、自分の右手に重ねられた総士の手を見て
はっとしたような表情を浮かべては視線を彷徨わせた。
「とりあえず手当しよう」
総士は少しだけ重ねた手に力を込めると、優しく一騎に言った。
「救急箱取って来るから」と立ち上がって部屋を後にする。
ドアの所でちらりと一騎の方を振り返ったが、彼はずっと下を向いたままでどんな表情をしているのかは
わからなかったが、血の滲んだ両手を開いて見つめたままのようだった。
リビングに置きっぱなしになっていた救急箱を取ると総士はそのまま一騎の寝ている部屋に向かおうと
した足を止める。
まだ自分は彼を助けきれてはいないのだと、総士は唇を強く噛みしめた。
どうしたらいいのだろうと思うけれど、今は感情的な言葉をなるべく言わないように、混乱しているのは
一騎の方なのだから、と何度も自分に言い聞かせる。
ひとつ大きく深呼吸をして、総士はゆっくりとドアを開けた。
「手、見せて」
総士はベッドの横に座ると、あえて一騎の手を取らずに声だけ掛ける。
出て行った時のままだったのか、ずっと自分の手を見つめていたらしい一騎はその声にびくりと肩を震わ
せると、「大したこと…ないから」と消え入りそうな声で言った。
「このままじゃ、痛いだろ」
「ほんとに、大丈夫」
「一騎」
頑なに断る一騎に総士は少し強く言葉を遮るように言うと、一騎はまたびくりと震えて初めて総士の顔を
見る。
その余りにも怯えた表情に今度は総士がはっとして、「ごめん」と呟いて静かに手を取った。
「染みると思うけど、ちょっと我慢して」と断ってから総士は慣れた手つきで消毒液を吹き掛けていく。
開かれた手のひらには爪の形に抉れた傷が左右に4つずつあって、総士は自分の方が痛いような気持ちに
なってしまう。
大きなガーゼを切って傷口を覆うように当てると、固定するために包帯を巻いた。
目の手当でこういう扱いに慣れたからか、左右に包帯を巻くのも大して時間はかからなかったのだが、
その間、二人はずっと無言だった。
包帯留めで固定をしおえると、総士は一騎の手にまたゆるりと自分の手を重ねる。
そうして静かに口を開いた。
「夢、見るんだろ?」
「何の」とはあえて言わなかったが、言う必要も無かったし、言ったら更に一騎を追い詰めることにな
らないかと思う。
一騎も総士の意味する所は理解したようだったが、だからこそなのか、まだ無言のままだった。
「本当は気付いてたんだ」
「えっ?」
「その手も、あれからずっとお前が魘されてることも」
おそるおそる総士が告げると、一騎は総士の方を一瞬見てはすぐに顔を下に向けてしまう。
途端に握りしめそうになった拳を止めるように総士が手を重ねると、引き攣ったように息を飲む音が聞
こえた。
「すぐに忘れられるような、そんな簡単なものじゃないことはわかってるつもりなんだ、だけど、だか
ら、もしも苦しい時があったら、僕に話してくれないか?」
「…そのうち、忘れるから。だからこれ以上総士に」
「もう一騎一人に、苦しい思いをさせたくないんだ」
一騎の言葉を最後まで聞かずにあえて総士は遮ると、またゆるゆると顔を上げた一騎の目を見つめる。
不安なのか負い目を感じているのかわからないが、不自然に揺れる瞳が痛々しいと総士は思う。
「総士」と聞こえるか聞こえないかの小さな声で自分の名前を呟いた一騎に、総士は今この場に不釣り
合いだろうかと思いつつも微笑んだ。
「もう、一人だけで苦しまないでほしいんだ…僕も、いるから」
そう言って総士は一騎の手をしっかりと握りしめた。
青白く変色する程に力が込められたそれは、最近では皮膚に爪が食い込むのか血まで滲むようになった。
総士は一騎を起こさないように静かにベッドに近寄ると、そっと片手を取る。
やんわりと両手で包みながらいつものように少しずつ握りしめられた指を解いていこうとした時、
つぅ、と一筋赤い滴りが流れ落ちて、総士は目を見開いた。
「一騎」
そのまま声を掛けてみるが、いつもなら少しの物音ですら起きる一騎はぴくりとも動かない。
「一騎っ」
強く声を掛けながら肩を揺さぶれば、暫くして一騎はゆっくりと目を開けた。
総士は少しほっとすると「大丈夫か?」とゆっくり、確認するように尋ねる。
「…え?」
初めは状況がわからず何度も瞬きをしていた一騎は、自分の右手に重ねられた総士の手を見て
はっとしたような表情を浮かべては視線を彷徨わせた。
「とりあえず手当しよう」
総士は少しだけ重ねた手に力を込めると、優しく一騎に言った。
「救急箱取って来るから」と立ち上がって部屋を後にする。
ドアの所でちらりと一騎の方を振り返ったが、彼はずっと下を向いたままでどんな表情をしているのかは
わからなかったが、血の滲んだ両手を開いて見つめたままのようだった。
リビングに置きっぱなしになっていた救急箱を取ると総士はそのまま一騎の寝ている部屋に向かおうと
した足を止める。
まだ自分は彼を助けきれてはいないのだと、総士は唇を強く噛みしめた。
どうしたらいいのだろうと思うけれど、今は感情的な言葉をなるべく言わないように、混乱しているのは
一騎の方なのだから、と何度も自分に言い聞かせる。
ひとつ大きく深呼吸をして、総士はゆっくりとドアを開けた。
「手、見せて」
総士はベッドの横に座ると、あえて一騎の手を取らずに声だけ掛ける。
出て行った時のままだったのか、ずっと自分の手を見つめていたらしい一騎はその声にびくりと肩を震わ
せると、「大したこと…ないから」と消え入りそうな声で言った。
「このままじゃ、痛いだろ」
「ほんとに、大丈夫」
「一騎」
頑なに断る一騎に総士は少し強く言葉を遮るように言うと、一騎はまたびくりと震えて初めて総士の顔を
見る。
その余りにも怯えた表情に今度は総士がはっとして、「ごめん」と呟いて静かに手を取った。
「染みると思うけど、ちょっと我慢して」と断ってから総士は慣れた手つきで消毒液を吹き掛けていく。
開かれた手のひらには爪の形に抉れた傷が左右に4つずつあって、総士は自分の方が痛いような気持ちに
なってしまう。
大きなガーゼを切って傷口を覆うように当てると、固定するために包帯を巻いた。
目の手当でこういう扱いに慣れたからか、左右に包帯を巻くのも大して時間はかからなかったのだが、
その間、二人はずっと無言だった。
包帯留めで固定をしおえると、総士は一騎の手にまたゆるりと自分の手を重ねる。
そうして静かに口を開いた。
「夢、見るんだろ?」
「何の」とはあえて言わなかったが、言う必要も無かったし、言ったら更に一騎を追い詰めることにな
らないかと思う。
一騎も総士の意味する所は理解したようだったが、だからこそなのか、まだ無言のままだった。
「本当は気付いてたんだ」
「えっ?」
「その手も、あれからずっとお前が魘されてることも」
おそるおそる総士が告げると、一騎は総士の方を一瞬見てはすぐに顔を下に向けてしまう。
途端に握りしめそうになった拳を止めるように総士が手を重ねると、引き攣ったように息を飲む音が聞
こえた。
「すぐに忘れられるような、そんな簡単なものじゃないことはわかってるつもりなんだ、だけど、だか
ら、もしも苦しい時があったら、僕に話してくれないか?」
「…そのうち、忘れるから。だからこれ以上総士に」
「もう一騎一人に、苦しい思いをさせたくないんだ」
一騎の言葉を最後まで聞かずにあえて総士は遮ると、またゆるゆると顔を上げた一騎の目を見つめる。
不安なのか負い目を感じているのかわからないが、不自然に揺れる瞳が痛々しいと総士は思う。
「総士」と聞こえるか聞こえないかの小さな声で自分の名前を呟いた一騎に、総士は今この場に不釣り
合いだろうかと思いつつも微笑んだ。
「もう、一人だけで苦しまないでほしいんだ…僕も、いるから」
そう言って総士は一騎の手をしっかりと握りしめた。
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