蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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君と僕とあの夏の日と16
2011.11.20 Sunday
「風船なんて配ってるの今時珍しいよな」
スーパーの新装開店記念のイベントが行われていたのを横目に見て一騎は言った。
総士は風船?と思っても特に昔から気にしたことがなくて、言われた意味が実はいまいち
理解出来ていなかったのだが、そもそもこの沿線で小さいながらも何かを配るような
イベントが行われることは久しく無かったように記憶しているので、まぁそうなのかなと
とりあえず頷いてみる。
「小さい頃はさ、あれ貰うとすごい嬉しかったんだ」
と一騎は微笑ましそうに子供達が風船を貰って行く光景を見て言う。
まぁ今でも貰ったら嬉しくないわけでもないんだけど、と少し気恥ずかしそうに一騎は
付け加えた。
「貰いに行くか?」
何の気なしに尋ねると、「いいってば」とまた頬を赤くして一騎は反対したが、
ちらりと見た看板には期限は今日までという文字が書かれていて、丁度駅に行く道すがらでも
あったので、総士は一騎の腕を無理矢理引っ張ると、風船を配っている人の側に歩いて行った。
「どうぞ」
子供だけかと思ったら意外と普通に差し出されてしまった黄色い風船を目の前にすると、
自分から連れてきたくせに受け取るのが恥ずかしくなって困ったなと思って総士が躊躇った瞬間、
まるで見計らったかのように横から一騎が手を出して風船を受け取る。
「ありがとうございます」
と、さっきまであれだけ恥ずかしそうにしていたのに今ではにこりと微笑みまで浮かべて会釈を
する一騎になんだか呆れるような感心するような複雑な気持ちで総士は見つめると、今度は総士
の方が腕を取られてぐいぐいと引っ張られる。
夕方の人波をかき分けるように駅のホームへと歩くと、丁度そこへ来た電車に滑り込んだ。
なぜかあまり人の乗っていない車両だったのでまたも椅子にゆったりと二人で腰掛けると、
貰った風船の糸をくるくると指に巻きつけたり解いたりしながら一騎が口を開いた。
「昔さ、まだ母さんがいた頃なんだけど」
一旦言葉を切った一騎と、その紡がれた言葉に総士は思わず一騎の方を見やる。
すると一騎は「別に大した事じゃないんだけどさ」と困ったように笑ってまた口を開いた。
「今日みたいによく風船貰う機会があって、で、いつもは貰った途端に離さないように指にぐる
ぐる糸巻いて持ってたんだけど、なぜか一回だけそれをしなかった時があって、そしたらやっぱ
りふとした瞬間に持ってた手を離しちゃって、飛んでっちゃったんだよね」
そこまで言って一騎は総士をちらりと見ると、また思い出したような顔をして笑う。
「みるみるうちに空高く飛んでってさ、でもなんか、そこら中にある電柱の上にもしかしたら
引っかかってるんじゃないかって思えて、ずっと家に帰るまで電柱ばっかり見てて、そしたら
母さんが、また買ってあげるから諦めなさいって言うんだけど、確かに同じ黄色い風船でもさ、
その風船とあの飛んでった風船は違うんだって、なんかずっと駄々こねてた」
今思えば確かに色も形も同じなんだけど、なんかあの頃はそれが全然違うものに見えてたんだ、
と一騎は言って指に巻いた糸をくるくると解き始める。
「あ」と一騎が口を開けた瞬間、指に巻きついていたはずの糸がするりと抜けて風船が浮かび
上がる。
総士は慌ててその糸を掴むと、風船を一騎の側へ引き寄せた。
まぁ、電車の中だから飛んで行ったとしても天井までなのだけれど。
「ごめん」
そう言って一騎はまた大事そうに糸をくるくると指に巻き始める。
「ちゃんと持ってろって、代わり、ないんだから」
総士が呟くと、そうだね、と言って一騎は風船を持っていない方の手で総士の手をそっと握った。
スーパーの新装開店記念のイベントが行われていたのを横目に見て一騎は言った。
総士は風船?と思っても特に昔から気にしたことがなくて、言われた意味が実はいまいち
理解出来ていなかったのだが、そもそもこの沿線で小さいながらも何かを配るような
イベントが行われることは久しく無かったように記憶しているので、まぁそうなのかなと
とりあえず頷いてみる。
「小さい頃はさ、あれ貰うとすごい嬉しかったんだ」
と一騎は微笑ましそうに子供達が風船を貰って行く光景を見て言う。
まぁ今でも貰ったら嬉しくないわけでもないんだけど、と少し気恥ずかしそうに一騎は
付け加えた。
「貰いに行くか?」
何の気なしに尋ねると、「いいってば」とまた頬を赤くして一騎は反対したが、
ちらりと見た看板には期限は今日までという文字が書かれていて、丁度駅に行く道すがらでも
あったので、総士は一騎の腕を無理矢理引っ張ると、風船を配っている人の側に歩いて行った。
「どうぞ」
子供だけかと思ったら意外と普通に差し出されてしまった黄色い風船を目の前にすると、
自分から連れてきたくせに受け取るのが恥ずかしくなって困ったなと思って総士が躊躇った瞬間、
まるで見計らったかのように横から一騎が手を出して風船を受け取る。
「ありがとうございます」
と、さっきまであれだけ恥ずかしそうにしていたのに今ではにこりと微笑みまで浮かべて会釈を
する一騎になんだか呆れるような感心するような複雑な気持ちで総士は見つめると、今度は総士
の方が腕を取られてぐいぐいと引っ張られる。
夕方の人波をかき分けるように駅のホームへと歩くと、丁度そこへ来た電車に滑り込んだ。
なぜかあまり人の乗っていない車両だったのでまたも椅子にゆったりと二人で腰掛けると、
貰った風船の糸をくるくると指に巻きつけたり解いたりしながら一騎が口を開いた。
「昔さ、まだ母さんがいた頃なんだけど」
一旦言葉を切った一騎と、その紡がれた言葉に総士は思わず一騎の方を見やる。
すると一騎は「別に大した事じゃないんだけどさ」と困ったように笑ってまた口を開いた。
「今日みたいによく風船貰う機会があって、で、いつもは貰った途端に離さないように指にぐる
ぐる糸巻いて持ってたんだけど、なぜか一回だけそれをしなかった時があって、そしたらやっぱ
りふとした瞬間に持ってた手を離しちゃって、飛んでっちゃったんだよね」
そこまで言って一騎は総士をちらりと見ると、また思い出したような顔をして笑う。
「みるみるうちに空高く飛んでってさ、でもなんか、そこら中にある電柱の上にもしかしたら
引っかかってるんじゃないかって思えて、ずっと家に帰るまで電柱ばっかり見てて、そしたら
母さんが、また買ってあげるから諦めなさいって言うんだけど、確かに同じ黄色い風船でもさ、
その風船とあの飛んでった風船は違うんだって、なんかずっと駄々こねてた」
今思えば確かに色も形も同じなんだけど、なんかあの頃はそれが全然違うものに見えてたんだ、
と一騎は言って指に巻いた糸をくるくると解き始める。
「あ」と一騎が口を開けた瞬間、指に巻きついていたはずの糸がするりと抜けて風船が浮かび
上がる。
総士は慌ててその糸を掴むと、風船を一騎の側へ引き寄せた。
まぁ、電車の中だから飛んで行ったとしても天井までなのだけれど。
「ごめん」
そう言って一騎はまた大事そうに糸をくるくると指に巻き始める。
「ちゃんと持ってろって、代わり、ないんだから」
総士が呟くと、そうだね、と言って一騎は風船を持っていない方の手で総士の手をそっと握った。
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