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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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星に願いを1

「もうすぐだから、あと少しでゲートを突破するから、そうすれば俺達はここから逃げられる」

本来ならば敵の侵入を知らせるためのアラームがけたたましく鳴り響き、警告灯の点滅で辺りは一面赤く染まっていた。
分厚い鉄の扉が何重にも行く手を阻み、触れれば人間の皮膚など容易に切り刻むレーザーが縦横無尽に空間を駆け巡る。
目線の上には14と書かれたプレートがここには不釣合いなほどにキラキラと白く輝いている。
島の外からの侵入者を防ぐための最初の強固な砦、今は島の外へと繋がる最後の砦、それがこの第14ゲートだ。
このゲートのおかげで今まで何も知らずに幸せに暮らすことが出来た、けれどだからこそ、中からここを通り抜けるのも
またとても至難の業だった。

「何も知らずに、か」

何重にもかけられたセキュリティロックを解くためにパネルに走らせた指をふと止めて呟く。
大人達が必死に作り上げて守ってきたこの島が楽園だなどとはもう微塵も思えなくなった。
自ら閉じることを選んだ未来に、もとより明るい希望など存在はしなかったのではないかとさえ思う。
それを知っていたのか知らなかったのかなんて今はどうでもいい、ただ、ここから逃げ出せればそれでいい。
目の前を塞ぐ鋼鉄の扉を見上げては、閉塞感と絶望感がこみ上げて吐き気すら覚える。
それを振り切るようにぶんぶんと頭を振って、止めていた指を再度パネルに走らせる。

”第一階層 解除”

液晶にロック解除を知らせるメッセージが次々と浮かび始める。
脱出経路は何もここだけに限られてはいない、けれどこのゲートを突破することがとても重要な気がした。
全てが少しずつ、けれど確実に狂い始めている、それだけは嫌というほど解っている。
そうでなければ、と、背中で眠ったままの顔を少しだけ振り返る。その瞬間、

”最終階層、解除”

パネル全体が光り、目の前を塞いでいたはずの鋼鉄の扉が次々と開かれていく。
静かに全ての扉が開き終わると、その先には暗く灰色の雲が低くたちこめる空がどこまでも続いていた。
そのまま脱出艇に乗り込むと、そっとおぶっていた人物を床に横たえる。

「青い空が見えるところに連れてってやるからな、芹」

広登はそっと芹の耳元に囁いて、操縦席に乗り込んだ。
出力を全開にして、脱出艇は一面灰色に覆われた空へと飛び出した。




ほぼ同時刻、アルヴィス内。

「なぜ追いかけない!」

カノンは総士の制服の襟元を掴むとそのまま壁へと力ずくで叩きつけた。
ぎりぎりと拳を締め上げながら睨み付けるカノンに総士は表情ひとつ変えないまま。
ちらり、とガラス越しに隣の部屋を見やる。
そこには酸素マスクと数々の機器を体中に付けられた一騎が未だ深い眠りから覚めないでいた。
ひとつ小さくため息をついて、総士はやっと重い口を開く。

「強引に連れ戻したところで、どうなるっていうんだ」

「島の貴重な戦力がまたなくなるんだぞ!」

「連れ戻しても戦力にはならないことくらい解るだろう?」

わざと、総士は見下ろしたまま言った。彼女が本当はそんな事を思っていないことくらい解るからだ。
総士を締め上げていた拳に更に力が入る、そろそろ限界がきたようだ、と半ば落胆した気持ちで赤い瞳を見つめる。

「ならば不安因子は消すべきだ、私は出る!」

「許可しない」


「なぜ!?」

「人間を殺したいなら、せめて敵だけにしろ」

総士は言い放つと、カノンの手を軽々と振り払いその場をあとにする。
ダンッと、カノンは力いっぱい壁を叩くと総士とは逆方向に走り出した。



誰もが感じていた。全てが少しずつ、ゆっくりと確実に狂い始めている。

総士が竜宮島に帰還して2年の月日が流れた頃、最初の異変が起こった。
竜宮島が昨日位置していた座標に核爆弾が打ち込まれたのである。
幸い、島の移動速度が勝ったため実害は何も被らなかったのだが、その発射された基地が人類軍のものと判明した。
2年前にも放たれたことがあるからというわけでもないが、核自体にはそこまで抵抗があったわけではない。
問題は何らかの形で位置情報が人類軍へと流れ、そして竜宮島へと連日追撃が始まったことだった。
いつものように敵襲来のサイレンが鳴り響き、ファフナーパイロット達はファフナーを操り戦場へと出て行く。
敵を確実に撃破し、島の平和を守る、それは今までと変わりないことだったが、ひとつだけ違うことがあった。
敵のファフナーの中には、自分達と変わらない人間が乗っているということ。
撃破するということは、その中に乗っている人間も死ぬということで、
いくら島の平和のために仕方ないことだと自分に言い聞かせても、戦闘の度に人間を殺しているのは紛れもない事実だった。
毎日のように続く戦闘の中で、誰も敵について口に出すものはいなかった。
ただ、皆の表情が暗く沈んでいく。
それでもパイロットがファフナーに乗らなければ、島は核の炎に包まれて消えてなくなってしまう。
それだけはさせまいと、葛藤する気持ちを押し殺して戦場に向かう日々。

そんな中、一騎に異変が起こる。

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