蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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パラダイスロスト2
2011.11.20 Sunday
scene:7
「自殺できるくらい自由だったなら」
誰もいない屋上でひとりつぶやいた。
手をかけたフェンスの向こう側には自由な世界が風にゆれていて、
それはとても眩しすぎて僕は堪えきれずに両目を閉じる。
今日一日を生き続ける程度の気力すらなくて明日が真っ暗になればいいなと思う僕には、
夢や希望なんて言葉はいつのまにか風化して葬られてしまったんだ。
明日も生きていくレールならとっくに用意されている。
でもそれに疲れてしまっても立ち止まる事も逸れる事も許されない。
自分らしく生きる事なんてたぶんきっとずっと知ることはないんだろう。
「考えないように、してたのに」
僕がアナタ達の希望を叶えるロボットなら、悲しいことにそれでも僕は叶えて愛情を得ようとしてしまうけれど、
他人の歪んだ自己実現の犠牲でしか存在意義を感じられなくなる前に、誰かに息の根を止めてほしかったのに。
「都合のいい条件付きの休息は、もっと酸素不足になるだけだ」
窒息死寸前で飼い殺されて、アナタ達の思い通りに実現して生きていく事にどうしようもない吐き気を覚えているのに、
アナタ達の思い通りに生きないと全身に強い電流が流れて動作を無力化される。
右手に持った剃刀を軽く左手に滑らせる。
溢れ出る血はどんなトランキライザーよりも強力だ。
「深刻なエラー発生」
そしてアナタ達は子供という名の所有物の暴走で命を落とす。
そうして一瞬の解放を味わった後、人生の指針もレールも歪んだ愛情も失った僕もすぐに消えてしまうだろう。
「それで、いいんだ、きっと」
ロボットにだって感情はあった、けれど、ロボットはマスターがいなきゃ動けないんだ。
「なにやってんだ?総士」
「ん、ちょっと考え事だ」
「こんなとこで、風邪でも引いたらどうするの?」
「大丈夫」
「総士の大丈夫はアテになんないから」
手を引いて施設内へと入ろうとするのを、強引に足を止め
ることで止めてしまった。
「本当にどうしたの?」
恋愛ごっこ、なのかな、一騎。
「もし、僕が」
ああ、やっぱり、
「…好きだよ、一騎」
言える訳なんてない。
握り返した手にまた嘘を吐いたと罪悪感が一杯で溢れそうになる涙は本当に罪悪感だけなんだろうか。
振り返るだろう顔を予想して、下を向いて呼吸を整える。
「もう少し、ここにいよう」
全く総士は、なんて言いながらお前はそれでもこの命令には絶対逆らえない。
抱き寄せた温もりにほっとする。
「一緒にいてあげるから、キスしてよ」
何も言わずにそっと触れる、そうすれば深く濃度を上げていくのは時間の問題。
立っているのが辛くなったのか首に手が回る、だから背中をしっかりと抱き止める。
一騎が過多で酸素不足に陥った脳はもうほとんど何も考えられなくて、
このまま心臓まで止めてくれたらいいのになんて叶わない願いに切なくて一騎の髪をぎゅっと握った。
「…なんか積極的?」
「いいだろ、たまには」
一瞬なのに、一瞬だからこそ、余計キラキラして見えるのかな。
暗く歪んで捻れた世界しか知らなかった僕には、一騎が与えてくれるものが、光だった。
「もう1回、しよう」
「どうしたの?総士ってば」
「したくないのか?」
「じゃあ、遠慮なく」
でも、僕にはやっぱり、眩しすぎる。
「一騎、僕の事、好きか?」
「好き…だけど、どうしたの急に?」
「再確認しただけだ」
「それより、続き、したいんだけど?」
イタズラっぽく見上げてくる目に優しく微笑み返せばほら、続きはすぐ始まる。
また酸素不足に陥りかける頭のどこかで、オマエが光を浴びる資格など無いのだと誰かが警鐘を鳴らす。
解ってるんだ、そんな事痛い程に。
でもずっと憧れ続けていた光に手を伸ばしたらちょっとだけ届いた、ただそれだけ。
甘受なんてするつもりは無い、属性が違うのだから。
でも拒絶も、出来そうに無い。
甘く毒々しい麻酔薬で神様なんて殺せばよかったんだ。
こんな感情、死ぬ時に邪魔になるだけなのに。
「そう…」
言い終わる前に一騎の唇をまた塞ぐ。
今日がオカシイんじゃなくて僕は生まれた時からいつもオカシイんだアイツラを殺す事ばっかり考えてる、
なんて言えないから。
「どこにも、行くな」
「総士を置いてどこに行けるっていうんだ」
ねぇ、一騎。
たとえばお前が僕の事を好き過ぎたとして、
アイツラに執着する僕に狂うほど嫉妬して本当に狂って、そしてそのまま殺してくれたらいいのにね。
「本当に?」
「本当だよ」
僕は、こんなにも遠くに来てしまったから、
もうたぶん本当は君からなんて見つけられないはずなのに。
「じゃあ」
「何?」
「今日はずっとこのままでいよう」
「いいの?」
「特に仕事はないんだ、今日は」
「そっか、俺も実はくっついてたい気分だったんだ」
「寒いのか?」
「バカ」
抱きしめる腕に力が入った。
「?」
「もう一回、キスしていい?総士」
火曜日、快晴、午後3時。
嘘を重ね続けてきたのに、許されたいだなんて。
scene:8
作戦の確認も終わり、各パイロット達がそれぞれ自分の機体のチェックをするために司令室を後にする頃、
総士は一騎に呼び止められた。
「どうした?一騎」
まだ窓の外を見たままの一騎の元へ歩いていくと、総士は同じように窓の外を見る。
「たとえば明日、俺が俺じゃなくなったとして、それでも総士は俺を必要としてくれるか?」
総士は笑う。
「僕が裏切るとでも?」
一騎は目線を変えずに言う。
「プロポーズ?」
総士は座っている一騎の耳もとで囁く。
「してもいいの?」
一騎は椅子から立ち上がる。
「10年早いよ」
そう言って笑った一騎は、総士の手をとって歩きだした。
scene:9
総士の乗るジークフリードシステムの起動モニターにUNKNOWNのランプが点灯し、
やがて機影が映し出される。
「マーク…ザイン?」
総士は見慣れない白の最新型ファフナーのコックピットにパイロットの照合をかける。
やがて、COMPLETEの文字とともに表示された名前に言葉を失った。
「一騎!」
少し遅れて発進してき白いファフナーへと総士は専用回線にアクセスをかける。
すると、向こうが回線を開いた。
「総士、俺に構うより他のファフナーの指揮を」
「しかし…」
「心配するなって、俺専用のファフナーなんだ。詳しい事は後で説明するから。
今は数だけやけに圧倒的なフェストゥムの壊滅、だろ?」
「了解」
総士がジークフリードシステムから各ファフナーへと指揮をとり、凄まじいスピードで攻撃をしかけていったのを
確認すると、一騎は前方へ視線を定める。
「俺の相手はお前だ」
一騎は右目で先攻部隊の遙か後方に位置する大型のフェストゥムに狙いを定めると、対象までの距離、大きさ、
破壊力を瞬時に計算し演算式を機体へと転送する。
即座に左右のアームが変化をし始める、そのフィードバックがコックピット内のあらゆる液晶に表示され10秒も
立たない内に発射準備が完了した。
「死ね」
一騎は言うと同時にリンクシステムに接続した両手を握る。
すると、左右のアームから莫大な熱量の高波動砲が黒い放電を有しながらフェストゥムに向かい発射され、
一瞬で大爆発を起こす。
「何だ?…今の」
先攻部隊の指揮をとり、壊滅状態に陥らせた総士は一瞬の出来事に目を疑った。
モニターに発進源の特定をさせると、明らかに後方に位置する一騎の白い機体で、巨大化していたアームが元の形に
変形していくのが視認出来る。
「あんなエネルギー量をどこから?レアメタルの高化学反応を誘発させたのか?いや、あんな…大型を2体も落とせる
量をアームだけに集中させたら、駆動系統で暴発が起こるはず」
「大量のフィードバックに耐えうるハイスペックシステム、ニューロリンクしかない」
「しかし、超人的な演算式の入力が必要不可欠…でも、出来るよな、一騎なら」
総士は唇を噛みしめた。
一騎になら難なく出来る操作だ、けど全システムがニューロリンクに頼っているのだとしたら、フィードバックによる
直接負荷はジークフリードシステムの比になんてならない。
それだけではない、高波動砲を始めとするあの機体の攻撃の原動力が不可解すぎる。
開発部が最近かかりっきりだった研究はこのファフナーのことだったのかと、しかし、一騎が自分から制作を頼んだの
だろうか。
「前方2km先に高熱源確認、照準は竜宮島中心部、対象ロックされています、到達まであと10秒、避けきれません」
突如響いた緊急回線に総士は思考が止まる。
前方から来る高熱源は先ほど壊滅させたフェストゥム群よりも遥かに威力が大きいと算定されていて、
アルヴィスのフィールドを展開させても中心部は護りきれない。
動けない総士のモニターの前に突如、一騎の乗る白い機体が現れた。
「総士、エネルギー到達測定可能範囲から即座ファフナー全機に離脱させて」
「一騎!お前…どうする気だ!」
「時間がない、早く」
「わかった」
一騎は迫り来る高エネルギーの攻撃線上にアームと背の4射を集中させる、そして冷静に対象の攻撃力を算
定すると、ニューロリンクシステムへと演算式を転送した。
到達まであと5秒、急速に変化を始める6射のフィードバックを全面の液晶で確認し、モードを迎撃+撃破に設定する。
「そんなもので竜宮島が壊せると思ったか?」
一騎は笑みを浮かべ、リンクシステムに接続された両手を力の限り握りしめた。
「一騎っ!」
既に離脱した機体を確認すると総士が叫んだ。
激突する黒と白の膨大な光線、拮抗する2つの光線だったが、次第に黒い光線の量が増して包みこんでいく。
そして完全にエネルギーを包含し、一瞬にしてそれは無力化され次の瞬間には消滅した。
「…っ!クソ、なに…これ」
脳に膨大な情報が流れ込む感覚、リンクシステムに接続している頭部と両手から絶え間なく大量の電気刺激が起こり、
一騎は身体感覚の殆どが奪われて意識が朦朧とする。
与えられる一方の情報の波を遮って帰還にプログラムを書き換えるとそのまま意識を失った。
「一騎、聞こえるか、応答しろ!」
突如島に帰還し始めた白い機体に総士は必死に呼びかける。しかし、機体から回線を開かれる様子は無く
そのまま格納庫へと着艦した。
総士はすぐにジークフリードシステムを降りると、リフトを使って一騎の機体へと上りコックピットのハッチを開けよ
うとする。が、REFUSEの文字が外側に浮かび上がり、その扉が開く気配は無い。
「マスターキーを差し込まないと開きませんよ」
そう言って研究員はキーを差し込むとハッチを開けた。
「過負荷による意識喪失ですね」
その先にはシートにぐったりと身を預けている一騎。その頭部と両手がリンクシステムに接続されているのを総士は見て
研究員に問いつめた。
「ニューロリンクシステムは危険だって…」
研究員は表情を変えずに言う。
「パイロットの了承済みです」
「パイロットの負担が大きすぎます!それに、一騎はもともと体が」
「彼が自ら望んだ事を、友人でしかない貴方が阻止なんて出来るのですか?」
「…っ、それは」
総士はコックピット内に入ると、システムを外部から強制的にスリープ状態にする。青白く浮かび上がる全体が、
不気味でたまらない。意識のない一騎を抱き上げると研究員に向かって言った。
研究員は一瞥する。
「それより、一騎君をメディカルルームに連れて行った方がいいのでは?」
一騎は眉根を寄せたままで目覚める気配はない。
「何が、起こってるんだ、一騎…!」
何が、起こってる?
戦局は激しさを増す一方で切り札となるような新型ファフナーの投入、総士は心の奥で疑問を抱かざるを得なかった。
「自殺できるくらい自由だったなら」
誰もいない屋上でひとりつぶやいた。
手をかけたフェンスの向こう側には自由な世界が風にゆれていて、
それはとても眩しすぎて僕は堪えきれずに両目を閉じる。
今日一日を生き続ける程度の気力すらなくて明日が真っ暗になればいいなと思う僕には、
夢や希望なんて言葉はいつのまにか風化して葬られてしまったんだ。
明日も生きていくレールならとっくに用意されている。
でもそれに疲れてしまっても立ち止まる事も逸れる事も許されない。
自分らしく生きる事なんてたぶんきっとずっと知ることはないんだろう。
「考えないように、してたのに」
僕がアナタ達の希望を叶えるロボットなら、悲しいことにそれでも僕は叶えて愛情を得ようとしてしまうけれど、
他人の歪んだ自己実現の犠牲でしか存在意義を感じられなくなる前に、誰かに息の根を止めてほしかったのに。
「都合のいい条件付きの休息は、もっと酸素不足になるだけだ」
窒息死寸前で飼い殺されて、アナタ達の思い通りに実現して生きていく事にどうしようもない吐き気を覚えているのに、
アナタ達の思い通りに生きないと全身に強い電流が流れて動作を無力化される。
右手に持った剃刀を軽く左手に滑らせる。
溢れ出る血はどんなトランキライザーよりも強力だ。
「深刻なエラー発生」
そしてアナタ達は子供という名の所有物の暴走で命を落とす。
そうして一瞬の解放を味わった後、人生の指針もレールも歪んだ愛情も失った僕もすぐに消えてしまうだろう。
「それで、いいんだ、きっと」
ロボットにだって感情はあった、けれど、ロボットはマスターがいなきゃ動けないんだ。
「なにやってんだ?総士」
「ん、ちょっと考え事だ」
「こんなとこで、風邪でも引いたらどうするの?」
「大丈夫」
「総士の大丈夫はアテになんないから」
手を引いて施設内へと入ろうとするのを、強引に足を止め
ることで止めてしまった。
「本当にどうしたの?」
恋愛ごっこ、なのかな、一騎。
「もし、僕が」
ああ、やっぱり、
「…好きだよ、一騎」
言える訳なんてない。
握り返した手にまた嘘を吐いたと罪悪感が一杯で溢れそうになる涙は本当に罪悪感だけなんだろうか。
振り返るだろう顔を予想して、下を向いて呼吸を整える。
「もう少し、ここにいよう」
全く総士は、なんて言いながらお前はそれでもこの命令には絶対逆らえない。
抱き寄せた温もりにほっとする。
「一緒にいてあげるから、キスしてよ」
何も言わずにそっと触れる、そうすれば深く濃度を上げていくのは時間の問題。
立っているのが辛くなったのか首に手が回る、だから背中をしっかりと抱き止める。
一騎が過多で酸素不足に陥った脳はもうほとんど何も考えられなくて、
このまま心臓まで止めてくれたらいいのになんて叶わない願いに切なくて一騎の髪をぎゅっと握った。
「…なんか積極的?」
「いいだろ、たまには」
一瞬なのに、一瞬だからこそ、余計キラキラして見えるのかな。
暗く歪んで捻れた世界しか知らなかった僕には、一騎が与えてくれるものが、光だった。
「もう1回、しよう」
「どうしたの?総士ってば」
「したくないのか?」
「じゃあ、遠慮なく」
でも、僕にはやっぱり、眩しすぎる。
「一騎、僕の事、好きか?」
「好き…だけど、どうしたの急に?」
「再確認しただけだ」
「それより、続き、したいんだけど?」
イタズラっぽく見上げてくる目に優しく微笑み返せばほら、続きはすぐ始まる。
また酸素不足に陥りかける頭のどこかで、オマエが光を浴びる資格など無いのだと誰かが警鐘を鳴らす。
解ってるんだ、そんな事痛い程に。
でもずっと憧れ続けていた光に手を伸ばしたらちょっとだけ届いた、ただそれだけ。
甘受なんてするつもりは無い、属性が違うのだから。
でも拒絶も、出来そうに無い。
甘く毒々しい麻酔薬で神様なんて殺せばよかったんだ。
こんな感情、死ぬ時に邪魔になるだけなのに。
「そう…」
言い終わる前に一騎の唇をまた塞ぐ。
今日がオカシイんじゃなくて僕は生まれた時からいつもオカシイんだアイツラを殺す事ばっかり考えてる、
なんて言えないから。
「どこにも、行くな」
「総士を置いてどこに行けるっていうんだ」
ねぇ、一騎。
たとえばお前が僕の事を好き過ぎたとして、
アイツラに執着する僕に狂うほど嫉妬して本当に狂って、そしてそのまま殺してくれたらいいのにね。
「本当に?」
「本当だよ」
僕は、こんなにも遠くに来てしまったから、
もうたぶん本当は君からなんて見つけられないはずなのに。
「じゃあ」
「何?」
「今日はずっとこのままでいよう」
「いいの?」
「特に仕事はないんだ、今日は」
「そっか、俺も実はくっついてたい気分だったんだ」
「寒いのか?」
「バカ」
抱きしめる腕に力が入った。
「?」
「もう一回、キスしていい?総士」
火曜日、快晴、午後3時。
嘘を重ね続けてきたのに、許されたいだなんて。
scene:8
作戦の確認も終わり、各パイロット達がそれぞれ自分の機体のチェックをするために司令室を後にする頃、
総士は一騎に呼び止められた。
「どうした?一騎」
まだ窓の外を見たままの一騎の元へ歩いていくと、総士は同じように窓の外を見る。
「たとえば明日、俺が俺じゃなくなったとして、それでも総士は俺を必要としてくれるか?」
総士は笑う。
「僕が裏切るとでも?」
一騎は目線を変えずに言う。
「プロポーズ?」
総士は座っている一騎の耳もとで囁く。
「してもいいの?」
一騎は椅子から立ち上がる。
「10年早いよ」
そう言って笑った一騎は、総士の手をとって歩きだした。
scene:9
総士の乗るジークフリードシステムの起動モニターにUNKNOWNのランプが点灯し、
やがて機影が映し出される。
「マーク…ザイン?」
総士は見慣れない白の最新型ファフナーのコックピットにパイロットの照合をかける。
やがて、COMPLETEの文字とともに表示された名前に言葉を失った。
「一騎!」
少し遅れて発進してき白いファフナーへと総士は専用回線にアクセスをかける。
すると、向こうが回線を開いた。
「総士、俺に構うより他のファフナーの指揮を」
「しかし…」
「心配するなって、俺専用のファフナーなんだ。詳しい事は後で説明するから。
今は数だけやけに圧倒的なフェストゥムの壊滅、だろ?」
「了解」
総士がジークフリードシステムから各ファフナーへと指揮をとり、凄まじいスピードで攻撃をしかけていったのを
確認すると、一騎は前方へ視線を定める。
「俺の相手はお前だ」
一騎は右目で先攻部隊の遙か後方に位置する大型のフェストゥムに狙いを定めると、対象までの距離、大きさ、
破壊力を瞬時に計算し演算式を機体へと転送する。
即座に左右のアームが変化をし始める、そのフィードバックがコックピット内のあらゆる液晶に表示され10秒も
立たない内に発射準備が完了した。
「死ね」
一騎は言うと同時にリンクシステムに接続した両手を握る。
すると、左右のアームから莫大な熱量の高波動砲が黒い放電を有しながらフェストゥムに向かい発射され、
一瞬で大爆発を起こす。
「何だ?…今の」
先攻部隊の指揮をとり、壊滅状態に陥らせた総士は一瞬の出来事に目を疑った。
モニターに発進源の特定をさせると、明らかに後方に位置する一騎の白い機体で、巨大化していたアームが元の形に
変形していくのが視認出来る。
「あんなエネルギー量をどこから?レアメタルの高化学反応を誘発させたのか?いや、あんな…大型を2体も落とせる
量をアームだけに集中させたら、駆動系統で暴発が起こるはず」
「大量のフィードバックに耐えうるハイスペックシステム、ニューロリンクしかない」
「しかし、超人的な演算式の入力が必要不可欠…でも、出来るよな、一騎なら」
総士は唇を噛みしめた。
一騎になら難なく出来る操作だ、けど全システムがニューロリンクに頼っているのだとしたら、フィードバックによる
直接負荷はジークフリードシステムの比になんてならない。
それだけではない、高波動砲を始めとするあの機体の攻撃の原動力が不可解すぎる。
開発部が最近かかりっきりだった研究はこのファフナーのことだったのかと、しかし、一騎が自分から制作を頼んだの
だろうか。
「前方2km先に高熱源確認、照準は竜宮島中心部、対象ロックされています、到達まであと10秒、避けきれません」
突如響いた緊急回線に総士は思考が止まる。
前方から来る高熱源は先ほど壊滅させたフェストゥム群よりも遥かに威力が大きいと算定されていて、
アルヴィスのフィールドを展開させても中心部は護りきれない。
動けない総士のモニターの前に突如、一騎の乗る白い機体が現れた。
「総士、エネルギー到達測定可能範囲から即座ファフナー全機に離脱させて」
「一騎!お前…どうする気だ!」
「時間がない、早く」
「わかった」
一騎は迫り来る高エネルギーの攻撃線上にアームと背の4射を集中させる、そして冷静に対象の攻撃力を算
定すると、ニューロリンクシステムへと演算式を転送した。
到達まであと5秒、急速に変化を始める6射のフィードバックを全面の液晶で確認し、モードを迎撃+撃破に設定する。
「そんなもので竜宮島が壊せると思ったか?」
一騎は笑みを浮かべ、リンクシステムに接続された両手を力の限り握りしめた。
「一騎っ!」
既に離脱した機体を確認すると総士が叫んだ。
激突する黒と白の膨大な光線、拮抗する2つの光線だったが、次第に黒い光線の量が増して包みこんでいく。
そして完全にエネルギーを包含し、一瞬にしてそれは無力化され次の瞬間には消滅した。
「…っ!クソ、なに…これ」
脳に膨大な情報が流れ込む感覚、リンクシステムに接続している頭部と両手から絶え間なく大量の電気刺激が起こり、
一騎は身体感覚の殆どが奪われて意識が朦朧とする。
与えられる一方の情報の波を遮って帰還にプログラムを書き換えるとそのまま意識を失った。
「一騎、聞こえるか、応答しろ!」
突如島に帰還し始めた白い機体に総士は必死に呼びかける。しかし、機体から回線を開かれる様子は無く
そのまま格納庫へと着艦した。
総士はすぐにジークフリードシステムを降りると、リフトを使って一騎の機体へと上りコックピットのハッチを開けよ
うとする。が、REFUSEの文字が外側に浮かび上がり、その扉が開く気配は無い。
「マスターキーを差し込まないと開きませんよ」
そう言って研究員はキーを差し込むとハッチを開けた。
「過負荷による意識喪失ですね」
その先にはシートにぐったりと身を預けている一騎。その頭部と両手がリンクシステムに接続されているのを総士は見て
研究員に問いつめた。
「ニューロリンクシステムは危険だって…」
研究員は表情を変えずに言う。
「パイロットの了承済みです」
「パイロットの負担が大きすぎます!それに、一騎はもともと体が」
「彼が自ら望んだ事を、友人でしかない貴方が阻止なんて出来るのですか?」
「…っ、それは」
総士はコックピット内に入ると、システムを外部から強制的にスリープ状態にする。青白く浮かび上がる全体が、
不気味でたまらない。意識のない一騎を抱き上げると研究員に向かって言った。
研究員は一瞥する。
「それより、一騎君をメディカルルームに連れて行った方がいいのでは?」
一騎は眉根を寄せたままで目覚める気配はない。
「何が、起こってるんだ、一騎…!」
何が、起こってる?
戦局は激しさを増す一方で切り札となるような新型ファフナーの投入、総士は心の奥で疑問を抱かざるを得なかった。
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パラダイスロスト1
2011.11.20 Sunday
scene:1
「全部、わかんない」
マークエルフから呟くように聞こえた微かな声。それまで決して言葉を発することのなかった彼の
戦闘中に聞いた初めての声。
普段から口数の少ない彼はこんな、か細い声をしていたっけ、と総士はシステム内で思考を巡らす。
刹那、爆発音が聞こえる。
慌ててモニターの標準をその機体と対峙していた筈のフェストゥムに合わせる。
瞬殺ともいえる流れるような動作で襲来したフェストゥムを撃破すると、そのままマークエルフは動作を停止した。
「ねぇ、総士」
モニター越しに一騎は総士と眼を合わせる。システム接続の影響で暗く沈んだ仄赤い瞳がそこにある。
この瞳を見るのは、苦手だ、と本能的な拒絶反応をギリギリの理性で抑えて相手の顔をきっと見据えると、
その顔は今にも泣き出しそうな程に歪んでいた。
「こんなのが、ラクエン…なの?」
耳をつんざきそうな程の沈黙。
また、かと思う頭の隅でその定義が揺るがない絶対的なものであると信じ切れない自分がいる。
今はまだ答える必要なんて無いと、どうしてか必死に見えない誰かに確認をして口を開かない事に決めた。
「答えてよ、ねぇ」
閉ざされた楽園、閉じた世界、閉じ込めた過去、忘却、鍵などどこか遠くに捨ててしまった。
誰の罪か解らないのに、誰かが罰を受け続ける日々。
scene:2
「一騎、落ち着いたか?」
なるべく平静を装うような振りをして、ぎゅ、と両手を握りしめる。幼い頃からの儀式めいた強力な自己暗示。
また一つ、何でもないような顔をして嘘を吐く。それを重ねて大人になっていくのだと思い込む。
深呼吸をひとつ。そう、僕は何も悪くない。
そして総士はメディカルルームへと入ると一騎のいるベッドサイドへと顔を覗かせた。
「大人達が護りたいものって、何?」
未だ仄赤い両目が縋りつくように見上げてくるこの瞬間も苦手だ、と思う。
別に彼が悪い訳じゃない、それは痛い程頭のどこかでは理解している筈なのに、違う頭のどこかでは、
永遠に答えの出ない問答など不必要だと、彼を問い詰めたい気持ちが爆発しそうなのを抑えている。
今日もうまく笑えるだろうか。
一騎君はまだ脳波が安定していないの、と遠見先生が言っていたことを総士は思い出す。
一騎をできるだけ不安定にさせないように総士はゆっくりと微笑みを作った。
「竜宮島の、平和だ」
言いながら一騎の右手を握る。接触と伴に何かを刷り込ませようとかそんな大層な事が出来るなんて思わない。
これは何となく癖でやってしまう。どこかで、彼に触れていたい気持ちがあるのかも解らない。
けれどその右手は予想に反して氷のように冷たかった。まるで死んでいるみたいだ、と思う。
「フェストゥムは敵だから、この島の平和を乱すから、だから殺す、殺して、殺しまくる」
赤い一騎の眼が総士を見た。だから赤は苦手なんだ。
すっと何か心の奥まで見通されるような感覚が気持ち悪い。
けれどそんな本当の事はどこかに葬り去る、そう、それでいい。
「それが俺の、役目なんでしょう?」
強い視線に思わず眼を逸らしそうになるのを堪えて総士は見つめ返す。
ここ最近毎回戦闘後に続くこの問いに、いい加減答えるのが辛くなってくるのは僅かに残る良心なのかもしれない。
でもたぶん0か1かだ、助けきる事など出来ないのだから最初から無視した方がいい。
その方が自分が楽だからだ。
「みんなで、護ってる」
「ねぇ、わかる?」
一騎は総士から眼を逸らすと天井を見上げた。
「殺す、感覚。人間じゃないけど、突き刺して、引き裂いて、殺す…感覚」
わかる筈ない、わかってはいけないのだと頭のどこかが警鐘を鳴らしているような気がする。
また、視線がぶつかる。
「命が消える瞬間てね、とっても、重いんだ」
「お前につらい役割を任せてしまっていることは」
「でもそれが俺の役割なんでしょう?そのために俺は生まれた」
「そんな訳では」
「言い訳なんて聞きあきた。ねぇ、世界を護ったりするのなんてもううんざりなんだ」
「明日この島を壊して、全部置き去りにして、役割なんて捨てちゃってさ…二人で逃げちゃおうよ、総士」
総士は眼を見張る。
一騎は悪戯っぽく眼を細めた。
「嘘だよ。司令官がこんな簡単に騙されるなんて心配だな」
一騎は握られていた右手を振り解く。
「疲れたからもうちょっと寝る。大丈夫、次の戦闘までには起きるから」
「一騎、本当は何か言いたいこと」
「無いよ」
「一騎」
「俺は兵器なんでしょう?それくらい、解んない程バカじゃないよ」
もう本当に寝るけどまだいるの、と言って一騎は眼を閉じた。
やっと、解放されたそんな気がしたけれど暫く総士は動けなかった。
「皆城君?一騎君は?」
ドアの開く音がした。遠見先生が戻ってきたようだ。急に現実に引き戻されるような感覚にぶるっと身震いをひとつ。
総士はドアの方を向くと、平静を装って答える。
「少し疲れがたまっていたようで、今ちょうど眠りについたところです」
「何か、変わったところはなかった?」
「いいえ、何も」
「そう、それならよかった」
総士はそう告げて足早にメディカルルームを後にした。無性に一人になりたくて仕方が無かった。
その2時間後、フェストゥムが再び襲来し戦闘が起こった。
一騎はいつもと変わらずにそれを撃破すると、何事も無かったかのようにモニター越しに微笑んだ。
scene:3
「食べてしまえば、ひとつになれるんだって、思ってた」
総士は呟いた。
「でも、そんなことしたら、もう話せないし、こうやって、抱きしめることも出来なくなるのに」
そう言って、総士は腕の中にいる一騎を抱きしめ直した。
単なる性欲処理、それがこの行為へのもっともらしい理由づけだった。
最初は、戦闘による興奮で身体が反応してしまう一騎を助けてやるのが目的だった筈。
いつからだろう、その身体に触れるだけで愛情が溢れそうになって、確認するかのようにもっと触れたい、
自分の手によってもっと快楽に溺れてほしいと思うようになったのは。
どこまでも一方的な感情。
最近になっていともたやすく快楽に堕ちるようになった身体に、たぶん自分への特別な感情は無い。
例えて言えば償いのようなものなのだ。
幼さにかまけてその存在を消去させようとしてしまった自分の、生きている限りの償い。
そうやって綺麗な言葉で飾りあげた自己満足の塊なのかもしれないけれど。
「気持ち良すぎて死ぬかと思った」
一騎が呟いた。
「なんか、明日も戦う気になってくるかも」
ほら、この気持ちなんて届かない。
「だって毎回、総士が気持ち良くしてくれるから」
そう言って一騎は総士の肩に顔を埋めた。
総士は呟く。
「神様は、優しくて、残酷だな」
「・・・なんか言った?」
「何でもないよ、ほら、もうおやすみ」
総士は一騎の頭を撫でると、その額にキスをした。
明日も戦闘が終わればこの肌に触れられる、でも本当に平和が訪れたらこの関係が終わってしまう不安に怯えている。
平和という楽園の定義が解らない一騎と不完全な楽園を望む自分、島にとっての不安定要素はどっちなんだと
総士は自嘲気味に笑った。
scene:4
メディカルルームに入ると、一騎は鼻に酸素吸入用のチューブを付けられてベッドに横たわっていた。
その姿にはまるで生気が感じられなくて一瞬、近付くのが怖くなる。
彼を取り囲む無機質な機械が規則正しく数値と波形を刻むのを確認すると、やっと死と彼を区別出来るような気がした。
総士はサイドの椅子に腰掛けると一騎がこちらに気がついた。
「気分は?一騎」
言いかけた途端、一騎は怯えたような表情になる。苦手な筈の赤い目。
表情だけでこんなにも印象が変わるのかとどこか他人事のように眺める自分がいる。
「・・・なん、で?」
「どうした?」
「苦しかったんだ・・・すごく」
総士は一騎の手をとると、その顔をのぞき込んだ。
「ごめん、な。すごい、苦しかったよな」
今日の戦闘は一言で言えば苦戦、だった。
長距離射撃型のファフナーで敵をある程度の距離から島まで近付けさせないという作戦を見事に覆されて、
結局残るは接近戦型の数機のファフナーに託された。
しかしエルフほど機動性と攻撃性の優れた機体は他には無く、他の機体はものの数分で戦闘不能に陥らされた。
一気に何体ものフェストゥムと対峙しなくてはならなかったエルフはこれまでにない程の俊敏な動きを見せていたが、
敵の攻撃をまともに何度もくらい、立っているのが信じられない程の状態にまでなった。
ペインブロックは損傷が激しすぎた中で機動性を確保するために使用しなかった。
勿論、中のパイロットは想像に絶する程の激痛だったに違いない。
実際、戦闘が終わったと同時にパイロットも意識を手放した。
一騎の両目から涙が溢れ出す。
「俺がいなくなったら・・・どうすんの?」
「ねぇ、代わりの兵器が・・・あるの?」
総士は親指でその涙を拭った。
代わりのパイロットなら、また大人達が探してくるだろう。
でも一騎程の人材はもう見つからないだろうとなんとなく感じる。それを失ったらどうするのだろう。
「一騎がいなくなったら、僕はどうしたらいいかわかんないよ」
つい本心を口にしてしまった事になぜか自己嫌悪感が込み上げてくる。だから僕は完璧には程遠いんだ。
総士の手に一騎の手が重なる。
「やっと見つけた居場所なんだ・・・ねぇ、お願い」
一騎は重ねた指の一本ずつに口づけをしていく。
「いくらでも、殺すから」
「俺を」
「・・・捨てないでよ、俺の身体が、動かなくなるまででいいから」
総士は一騎の頭を抱き込んだ。
「逃げようか?一騎」
「何・・・言って?」
「一騎を苦しめるものばっかりの此処から」
一騎は総士の顔を見上げると言った。苦手な赤い目に弱い光が反射する。
何を言ってしまったんだろう、という気持ちとやっと言えた、という気持ちが交錯して頭の中が掻き回されるような感覚。
でも返ってきた答えは想像をはるかに超えていた。
「お前の護りたかったものはこの島なんだろ?」
一騎の目からまた涙が溢れる。
「それと、俺なんて天秤にかけるな」
「一騎」
「俺は、人間じゃない、ただの兵器なんだ」
悲しい、漠然とそう思った。そして悲壮感しか漂わない現実から逃げられない事実に驚愕する。
自分に与えられた役割から外れてしまう事が、イコール死に結びついて恐ろしさが込み上げた。
総士は一騎の顔を自分の肩へと押しつける。
「兵器なんかじゃない、一騎は、僕の、友達だよ」
痛いよ、と言う一騎の声を無視して総士は抱きしめる力を強めた。
それしか、今の自分には出来そうになかった。
scene:5
一騎の戦い方は一言で言えば完璧だ。
それが殺戮だと感じさせない流れるような動作には、クロッシングしている自分が見とれてしまう程。
初回の戦闘時ですら、ファフナーに傷一つつけなかったその能力の高さに、総士は底知れない恐怖すら覚えた。
島の最大の戦力は、いつまで従順に戦力として機能してくれるのか。
彼に必要以上の知識を意図的に与えずに、ただ最高の兵器として育成する。
幼い頃からの唯一ともいえる友に、こんな残酷な未来しか用意されていないことに絶望すら感じた。
でも、彼を救える力はこの手にはない。
大人達の理想とする楽園は、彼の犠牲の上に成立するものなのだろう、
総士はいつからか諦めに似た感情を抱くようになっていった。
いつものようにフェストゥムを撃破した後、アルヴィスに帰還したマークエルフから一騎が降りてきた。
「一騎、もしかして右足」
「へーき」
一騎は明らかに右足を引きずって歩いている。
遠見先生が言っていた同化の症状が進んだのだと総士は愕然とした。
当初の推測では、一騎の同化現象はもっと緩やかに進行し、抗体を注射することでかなりくい止められるものだとされていた。
ここまで進行が早まったのは多分、その戦闘の仕方だろう。
フェストゥムのあらゆる攻撃を回避するために無意識下で最大限にまで高められた機動性、
その機動性を常時有するにはファフナーとの融合に近い一体化が必要不可欠。
それを毎日繰り返した結果、一騎の身体はその状態から離脱出来ず同化現象が進行したのだ。
「一騎、ファフナーとのリンク状態をもっと下げろ」
総士はたまらず呟いた。どうして大人達に背くような発言が自分の口から出てくるのか。
それより、目の前の彼が心配だった。友人だから?もしかしたら、喪失を極端に嫌う自分のエゴから。
「どうして?それじゃ攻撃をかわせなくなる」
一騎は首を傾げる。
従順な兵器、という形容がとても似合う反応に自分の中で相反する感情が生まれてくるのを感じる。
「お前だけが、その痛みに耐える必要なんて無い」
ねぇ、と一騎が見上げてくる。僕の嫌いな仄赤いその目。
「総士が痛いのは、俺が嫌だ」
「それじゃ、いつかお前に限界がくる」
一騎は笑った。
「大丈夫、俺は兵器だから」
総士は一騎の肩を掴んだ。
「僕に、痛みすらも分けてはくれないのか」
「・・・なんで、総士が泣くの?」
気づくと、総士の両目から涙がこぼれていた。
「ごめん」
「どっか、痛いのか?」
「一騎ほどじゃないから、大丈夫だよ」
そう言って、総士はうつむいた。
ふぅ、と息を吐いて一騎は言う。
「総士の大丈夫はアテにならないから、心配だ」
また一騎が笑った。無機質な赤い目にとんでもなく似合わないそれは紛れもなく自分だけに向けられたもので。
なんだかそれがとても辛くて、それより、右足が心配だから早くメディカルルームに行こう、
そう言って総士は一騎の腰に手を回した。
scene:6
「いちごのケーキが食べたい」
メディカルルームでいつものように抗体の注射を打つ合間、ベッドに横たわっていた一騎が言った。
総士は一騎の方を向くと、彼は口を開く。
「次の戦闘、5分で終わらしたら、島中のいちごのケーキ買ってきてよ」
「いちごだけでいいのか?」
「チョコは苦手なんだ」
そう言って一騎は天井を見上げた。
総士はベッドサイドの椅子に腰掛ける。
「わかった、買ってくるよ」
「約束な!総士、指切りしよ」
小指を絡ませながら、あ、でも5分過ぎたら針千本飲まなきゃいけないのか、と一騎は笑った。
「全部、わかんない」
マークエルフから呟くように聞こえた微かな声。それまで決して言葉を発することのなかった彼の
戦闘中に聞いた初めての声。
普段から口数の少ない彼はこんな、か細い声をしていたっけ、と総士はシステム内で思考を巡らす。
刹那、爆発音が聞こえる。
慌ててモニターの標準をその機体と対峙していた筈のフェストゥムに合わせる。
瞬殺ともいえる流れるような動作で襲来したフェストゥムを撃破すると、そのままマークエルフは動作を停止した。
「ねぇ、総士」
モニター越しに一騎は総士と眼を合わせる。システム接続の影響で暗く沈んだ仄赤い瞳がそこにある。
この瞳を見るのは、苦手だ、と本能的な拒絶反応をギリギリの理性で抑えて相手の顔をきっと見据えると、
その顔は今にも泣き出しそうな程に歪んでいた。
「こんなのが、ラクエン…なの?」
耳をつんざきそうな程の沈黙。
また、かと思う頭の隅でその定義が揺るがない絶対的なものであると信じ切れない自分がいる。
今はまだ答える必要なんて無いと、どうしてか必死に見えない誰かに確認をして口を開かない事に決めた。
「答えてよ、ねぇ」
閉ざされた楽園、閉じた世界、閉じ込めた過去、忘却、鍵などどこか遠くに捨ててしまった。
誰の罪か解らないのに、誰かが罰を受け続ける日々。
scene:2
「一騎、落ち着いたか?」
なるべく平静を装うような振りをして、ぎゅ、と両手を握りしめる。幼い頃からの儀式めいた強力な自己暗示。
また一つ、何でもないような顔をして嘘を吐く。それを重ねて大人になっていくのだと思い込む。
深呼吸をひとつ。そう、僕は何も悪くない。
そして総士はメディカルルームへと入ると一騎のいるベッドサイドへと顔を覗かせた。
「大人達が護りたいものって、何?」
未だ仄赤い両目が縋りつくように見上げてくるこの瞬間も苦手だ、と思う。
別に彼が悪い訳じゃない、それは痛い程頭のどこかでは理解している筈なのに、違う頭のどこかでは、
永遠に答えの出ない問答など不必要だと、彼を問い詰めたい気持ちが爆発しそうなのを抑えている。
今日もうまく笑えるだろうか。
一騎君はまだ脳波が安定していないの、と遠見先生が言っていたことを総士は思い出す。
一騎をできるだけ不安定にさせないように総士はゆっくりと微笑みを作った。
「竜宮島の、平和だ」
言いながら一騎の右手を握る。接触と伴に何かを刷り込ませようとかそんな大層な事が出来るなんて思わない。
これは何となく癖でやってしまう。どこかで、彼に触れていたい気持ちがあるのかも解らない。
けれどその右手は予想に反して氷のように冷たかった。まるで死んでいるみたいだ、と思う。
「フェストゥムは敵だから、この島の平和を乱すから、だから殺す、殺して、殺しまくる」
赤い一騎の眼が総士を見た。だから赤は苦手なんだ。
すっと何か心の奥まで見通されるような感覚が気持ち悪い。
けれどそんな本当の事はどこかに葬り去る、そう、それでいい。
「それが俺の、役目なんでしょう?」
強い視線に思わず眼を逸らしそうになるのを堪えて総士は見つめ返す。
ここ最近毎回戦闘後に続くこの問いに、いい加減答えるのが辛くなってくるのは僅かに残る良心なのかもしれない。
でもたぶん0か1かだ、助けきる事など出来ないのだから最初から無視した方がいい。
その方が自分が楽だからだ。
「みんなで、護ってる」
「ねぇ、わかる?」
一騎は総士から眼を逸らすと天井を見上げた。
「殺す、感覚。人間じゃないけど、突き刺して、引き裂いて、殺す…感覚」
わかる筈ない、わかってはいけないのだと頭のどこかが警鐘を鳴らしているような気がする。
また、視線がぶつかる。
「命が消える瞬間てね、とっても、重いんだ」
「お前につらい役割を任せてしまっていることは」
「でもそれが俺の役割なんでしょう?そのために俺は生まれた」
「そんな訳では」
「言い訳なんて聞きあきた。ねぇ、世界を護ったりするのなんてもううんざりなんだ」
「明日この島を壊して、全部置き去りにして、役割なんて捨てちゃってさ…二人で逃げちゃおうよ、総士」
総士は眼を見張る。
一騎は悪戯っぽく眼を細めた。
「嘘だよ。司令官がこんな簡単に騙されるなんて心配だな」
一騎は握られていた右手を振り解く。
「疲れたからもうちょっと寝る。大丈夫、次の戦闘までには起きるから」
「一騎、本当は何か言いたいこと」
「無いよ」
「一騎」
「俺は兵器なんでしょう?それくらい、解んない程バカじゃないよ」
もう本当に寝るけどまだいるの、と言って一騎は眼を閉じた。
やっと、解放されたそんな気がしたけれど暫く総士は動けなかった。
「皆城君?一騎君は?」
ドアの開く音がした。遠見先生が戻ってきたようだ。急に現実に引き戻されるような感覚にぶるっと身震いをひとつ。
総士はドアの方を向くと、平静を装って答える。
「少し疲れがたまっていたようで、今ちょうど眠りについたところです」
「何か、変わったところはなかった?」
「いいえ、何も」
「そう、それならよかった」
総士はそう告げて足早にメディカルルームを後にした。無性に一人になりたくて仕方が無かった。
その2時間後、フェストゥムが再び襲来し戦闘が起こった。
一騎はいつもと変わらずにそれを撃破すると、何事も無かったかのようにモニター越しに微笑んだ。
scene:3
「食べてしまえば、ひとつになれるんだって、思ってた」
総士は呟いた。
「でも、そんなことしたら、もう話せないし、こうやって、抱きしめることも出来なくなるのに」
そう言って、総士は腕の中にいる一騎を抱きしめ直した。
単なる性欲処理、それがこの行為へのもっともらしい理由づけだった。
最初は、戦闘による興奮で身体が反応してしまう一騎を助けてやるのが目的だった筈。
いつからだろう、その身体に触れるだけで愛情が溢れそうになって、確認するかのようにもっと触れたい、
自分の手によってもっと快楽に溺れてほしいと思うようになったのは。
どこまでも一方的な感情。
最近になっていともたやすく快楽に堕ちるようになった身体に、たぶん自分への特別な感情は無い。
例えて言えば償いのようなものなのだ。
幼さにかまけてその存在を消去させようとしてしまった自分の、生きている限りの償い。
そうやって綺麗な言葉で飾りあげた自己満足の塊なのかもしれないけれど。
「気持ち良すぎて死ぬかと思った」
一騎が呟いた。
「なんか、明日も戦う気になってくるかも」
ほら、この気持ちなんて届かない。
「だって毎回、総士が気持ち良くしてくれるから」
そう言って一騎は総士の肩に顔を埋めた。
総士は呟く。
「神様は、優しくて、残酷だな」
「・・・なんか言った?」
「何でもないよ、ほら、もうおやすみ」
総士は一騎の頭を撫でると、その額にキスをした。
明日も戦闘が終わればこの肌に触れられる、でも本当に平和が訪れたらこの関係が終わってしまう不安に怯えている。
平和という楽園の定義が解らない一騎と不完全な楽園を望む自分、島にとっての不安定要素はどっちなんだと
総士は自嘲気味に笑った。
scene:4
メディカルルームに入ると、一騎は鼻に酸素吸入用のチューブを付けられてベッドに横たわっていた。
その姿にはまるで生気が感じられなくて一瞬、近付くのが怖くなる。
彼を取り囲む無機質な機械が規則正しく数値と波形を刻むのを確認すると、やっと死と彼を区別出来るような気がした。
総士はサイドの椅子に腰掛けると一騎がこちらに気がついた。
「気分は?一騎」
言いかけた途端、一騎は怯えたような表情になる。苦手な筈の赤い目。
表情だけでこんなにも印象が変わるのかとどこか他人事のように眺める自分がいる。
「・・・なん、で?」
「どうした?」
「苦しかったんだ・・・すごく」
総士は一騎の手をとると、その顔をのぞき込んだ。
「ごめん、な。すごい、苦しかったよな」
今日の戦闘は一言で言えば苦戦、だった。
長距離射撃型のファフナーで敵をある程度の距離から島まで近付けさせないという作戦を見事に覆されて、
結局残るは接近戦型の数機のファフナーに託された。
しかしエルフほど機動性と攻撃性の優れた機体は他には無く、他の機体はものの数分で戦闘不能に陥らされた。
一気に何体ものフェストゥムと対峙しなくてはならなかったエルフはこれまでにない程の俊敏な動きを見せていたが、
敵の攻撃をまともに何度もくらい、立っているのが信じられない程の状態にまでなった。
ペインブロックは損傷が激しすぎた中で機動性を確保するために使用しなかった。
勿論、中のパイロットは想像に絶する程の激痛だったに違いない。
実際、戦闘が終わったと同時にパイロットも意識を手放した。
一騎の両目から涙が溢れ出す。
「俺がいなくなったら・・・どうすんの?」
「ねぇ、代わりの兵器が・・・あるの?」
総士は親指でその涙を拭った。
代わりのパイロットなら、また大人達が探してくるだろう。
でも一騎程の人材はもう見つからないだろうとなんとなく感じる。それを失ったらどうするのだろう。
「一騎がいなくなったら、僕はどうしたらいいかわかんないよ」
つい本心を口にしてしまった事になぜか自己嫌悪感が込み上げてくる。だから僕は完璧には程遠いんだ。
総士の手に一騎の手が重なる。
「やっと見つけた居場所なんだ・・・ねぇ、お願い」
一騎は重ねた指の一本ずつに口づけをしていく。
「いくらでも、殺すから」
「俺を」
「・・・捨てないでよ、俺の身体が、動かなくなるまででいいから」
総士は一騎の頭を抱き込んだ。
「逃げようか?一騎」
「何・・・言って?」
「一騎を苦しめるものばっかりの此処から」
一騎は総士の顔を見上げると言った。苦手な赤い目に弱い光が反射する。
何を言ってしまったんだろう、という気持ちとやっと言えた、という気持ちが交錯して頭の中が掻き回されるような感覚。
でも返ってきた答えは想像をはるかに超えていた。
「お前の護りたかったものはこの島なんだろ?」
一騎の目からまた涙が溢れる。
「それと、俺なんて天秤にかけるな」
「一騎」
「俺は、人間じゃない、ただの兵器なんだ」
悲しい、漠然とそう思った。そして悲壮感しか漂わない現実から逃げられない事実に驚愕する。
自分に与えられた役割から外れてしまう事が、イコール死に結びついて恐ろしさが込み上げた。
総士は一騎の顔を自分の肩へと押しつける。
「兵器なんかじゃない、一騎は、僕の、友達だよ」
痛いよ、と言う一騎の声を無視して総士は抱きしめる力を強めた。
それしか、今の自分には出来そうになかった。
scene:5
一騎の戦い方は一言で言えば完璧だ。
それが殺戮だと感じさせない流れるような動作には、クロッシングしている自分が見とれてしまう程。
初回の戦闘時ですら、ファフナーに傷一つつけなかったその能力の高さに、総士は底知れない恐怖すら覚えた。
島の最大の戦力は、いつまで従順に戦力として機能してくれるのか。
彼に必要以上の知識を意図的に与えずに、ただ最高の兵器として育成する。
幼い頃からの唯一ともいえる友に、こんな残酷な未来しか用意されていないことに絶望すら感じた。
でも、彼を救える力はこの手にはない。
大人達の理想とする楽園は、彼の犠牲の上に成立するものなのだろう、
総士はいつからか諦めに似た感情を抱くようになっていった。
いつものようにフェストゥムを撃破した後、アルヴィスに帰還したマークエルフから一騎が降りてきた。
「一騎、もしかして右足」
「へーき」
一騎は明らかに右足を引きずって歩いている。
遠見先生が言っていた同化の症状が進んだのだと総士は愕然とした。
当初の推測では、一騎の同化現象はもっと緩やかに進行し、抗体を注射することでかなりくい止められるものだとされていた。
ここまで進行が早まったのは多分、その戦闘の仕方だろう。
フェストゥムのあらゆる攻撃を回避するために無意識下で最大限にまで高められた機動性、
その機動性を常時有するにはファフナーとの融合に近い一体化が必要不可欠。
それを毎日繰り返した結果、一騎の身体はその状態から離脱出来ず同化現象が進行したのだ。
「一騎、ファフナーとのリンク状態をもっと下げろ」
総士はたまらず呟いた。どうして大人達に背くような発言が自分の口から出てくるのか。
それより、目の前の彼が心配だった。友人だから?もしかしたら、喪失を極端に嫌う自分のエゴから。
「どうして?それじゃ攻撃をかわせなくなる」
一騎は首を傾げる。
従順な兵器、という形容がとても似合う反応に自分の中で相反する感情が生まれてくるのを感じる。
「お前だけが、その痛みに耐える必要なんて無い」
ねぇ、と一騎が見上げてくる。僕の嫌いな仄赤いその目。
「総士が痛いのは、俺が嫌だ」
「それじゃ、いつかお前に限界がくる」
一騎は笑った。
「大丈夫、俺は兵器だから」
総士は一騎の肩を掴んだ。
「僕に、痛みすらも分けてはくれないのか」
「・・・なんで、総士が泣くの?」
気づくと、総士の両目から涙がこぼれていた。
「ごめん」
「どっか、痛いのか?」
「一騎ほどじゃないから、大丈夫だよ」
そう言って、総士はうつむいた。
ふぅ、と息を吐いて一騎は言う。
「総士の大丈夫はアテにならないから、心配だ」
また一騎が笑った。無機質な赤い目にとんでもなく似合わないそれは紛れもなく自分だけに向けられたもので。
なんだかそれがとても辛くて、それより、右足が心配だから早くメディカルルームに行こう、
そう言って総士は一騎の腰に手を回した。
scene:6
「いちごのケーキが食べたい」
メディカルルームでいつものように抗体の注射を打つ合間、ベッドに横たわっていた一騎が言った。
総士は一騎の方を向くと、彼は口を開く。
「次の戦闘、5分で終わらしたら、島中のいちごのケーキ買ってきてよ」
「いちごだけでいいのか?」
「チョコは苦手なんだ」
そう言って一騎は天井を見上げた。
総士はベッドサイドの椅子に腰掛ける。
「わかった、買ってくるよ」
「約束な!総士、指切りしよ」
小指を絡ませながら、あ、でも5分過ぎたら針千本飲まなきゃいけないのか、と一騎は笑った。
らぶらぼ7 end
2011.11.20 Sunday
いつものように総士の部屋でごろごろしていた一騎。
けれど今日は何かが違った。
絶対絶対聞いてやるんだ!!
と総士の仕事が終わるのをうずうず待っていた。
昨日、一騎にしては珍しく今までの出来事を頭の中で整理してみた。
そしたら何となく思った、いけるんじゃないかと。
そうこうしている内に総士の仕事がひと段落ついた様子。
一騎は思い切って総士に言った。
「そーしは俺のこと、どう思ってるの?」
「どう…って?」
案の定総士は訳がまったくわからないといった表情で、
でも今日の一騎は攻めまくる。
「すす、すきとか、キライ、とか」
すると総士は、ああ、そういう意味ねと言ってふわっと笑う。
「好きだよ」
その単語にうっかり死んでしまってもいいかと思った一騎だったが、まだまだ真意を聞いた訳ではないので頑張る。
「どんな風に?」
「…どんな?」
「たとえばさ、友達として…とかいろいろあるじゃん」
一騎がしどろもどろに答えると、総士は
「うーん、何て言ったらいいのかな、友達とは違う気がするんだけど…」
と口ごもった。
「違うって、どんな風に?」
一騎はのびっと、総士の方を向いて尋ねる。
「友達ってさ、剣司とか衛とかもちろん一騎とか、そりゃみんな友達だと思うけど、一騎は…一騎だけちょっと違うんだ」
ちがうの?とちょっとの期待といっぱいの不安を抱えた一騎は首を傾げると、
なんて言うのかな…と総士も負けないくらいめいっぱい首を傾げて言う。
「一騎がエルフに乗っていると、まぁローンドックからかもしれないけど、他のファフナーよりも動きが気になってしまうんだ」
「それで、よくというか毎回ものすごく負傷するだろ?なるべく早くペインブロックを作動させようと思ってはいるけど、
一瞬でもあのすさまじい激痛が一騎に襲いかかっているのかと思うと、なんかもう無力感に打ちひしがれるというか」
「でもそれがエルフに乗っていなくても、いつのまにか一騎のことばっかり見てて」
なんか、ごめんな変なこと言って、と苦笑した総士にここぞとばかり一騎は言った。
「その時ってさ、どんな気持ち…する?」
「どんなって?」
なんでこう感情表現系の質問を質問返しするんだよ、と思いつつも一騎は続ける。
「どきどきしたり、する?」
「どきどきって…なんだ?」
え!?
そこですか…と一騎はかなりがっかりしたが、なんだかこれは万にひとつもない機会のような気がしたので結構思い切った。
「ここ…がさ」
と言って総士の左胸を制服の上からツンと押す。
「ぎゅーって締め付けられたり、する?」
…チクタクチクタク
やけに大きく秒針の音だけが部屋に響き渡る。
暫くの沈黙の後、一騎はおそるおそる総士を見上げた。
「する…かもしれない」
総士がぽつりと呟いた。
めずらしく俯き加減なので表情は見えないけれど。
聞き間違いじゃないよね?と一騎は心の中で確認してからひとつ深呼吸すると、俺も、と小さく言った。
「俺もそうなんだ」
ぱっと総士が顔を上げる。
一騎は顔を真っ赤にしながら言った。
「総士見てると、ぎゅーってなるんだ、総士のこと思うだけでぎゅーってなる」
一騎は総士の手をつかむと、自分の左胸に押しつけた。
「心臓がバクバクいってさ」
苦しいんだ、と一騎は呟いた。
押しつけた総士の手に自分の手を重ねる。
そっと指の間に自分の指を絡ませた。
「俺が苦しいの見てると、総士も苦しいんでしょ?」
だったらさ、と言って一騎は総士を見上げる。
「助けてよ」
「…どう、やって?」
この後に及んでまた?マークを飛ばす総士に、
そこまで言わせるなんてさ、と一騎は頬をふくらませるとそっと呟く。
「好き…って、言ってよ」
もちろん、友達って意味じゃなくてね、と念を押すと一騎はぎゅっと総士に抱きついた。
けれど今日は何かが違った。
絶対絶対聞いてやるんだ!!
と総士の仕事が終わるのをうずうず待っていた。
昨日、一騎にしては珍しく今までの出来事を頭の中で整理してみた。
そしたら何となく思った、いけるんじゃないかと。
そうこうしている内に総士の仕事がひと段落ついた様子。
一騎は思い切って総士に言った。
「そーしは俺のこと、どう思ってるの?」
「どう…って?」
案の定総士は訳がまったくわからないといった表情で、
でも今日の一騎は攻めまくる。
「すす、すきとか、キライ、とか」
すると総士は、ああ、そういう意味ねと言ってふわっと笑う。
「好きだよ」
その単語にうっかり死んでしまってもいいかと思った一騎だったが、まだまだ真意を聞いた訳ではないので頑張る。
「どんな風に?」
「…どんな?」
「たとえばさ、友達として…とかいろいろあるじゃん」
一騎がしどろもどろに答えると、総士は
「うーん、何て言ったらいいのかな、友達とは違う気がするんだけど…」
と口ごもった。
「違うって、どんな風に?」
一騎はのびっと、総士の方を向いて尋ねる。
「友達ってさ、剣司とか衛とかもちろん一騎とか、そりゃみんな友達だと思うけど、一騎は…一騎だけちょっと違うんだ」
ちがうの?とちょっとの期待といっぱいの不安を抱えた一騎は首を傾げると、
なんて言うのかな…と総士も負けないくらいめいっぱい首を傾げて言う。
「一騎がエルフに乗っていると、まぁローンドックからかもしれないけど、他のファフナーよりも動きが気になってしまうんだ」
「それで、よくというか毎回ものすごく負傷するだろ?なるべく早くペインブロックを作動させようと思ってはいるけど、
一瞬でもあのすさまじい激痛が一騎に襲いかかっているのかと思うと、なんかもう無力感に打ちひしがれるというか」
「でもそれがエルフに乗っていなくても、いつのまにか一騎のことばっかり見てて」
なんか、ごめんな変なこと言って、と苦笑した総士にここぞとばかり一騎は言った。
「その時ってさ、どんな気持ち…する?」
「どんなって?」
なんでこう感情表現系の質問を質問返しするんだよ、と思いつつも一騎は続ける。
「どきどきしたり、する?」
「どきどきって…なんだ?」
え!?
そこですか…と一騎はかなりがっかりしたが、なんだかこれは万にひとつもない機会のような気がしたので結構思い切った。
「ここ…がさ」
と言って総士の左胸を制服の上からツンと押す。
「ぎゅーって締め付けられたり、する?」
…チクタクチクタク
やけに大きく秒針の音だけが部屋に響き渡る。
暫くの沈黙の後、一騎はおそるおそる総士を見上げた。
「する…かもしれない」
総士がぽつりと呟いた。
めずらしく俯き加減なので表情は見えないけれど。
聞き間違いじゃないよね?と一騎は心の中で確認してからひとつ深呼吸すると、俺も、と小さく言った。
「俺もそうなんだ」
ぱっと総士が顔を上げる。
一騎は顔を真っ赤にしながら言った。
「総士見てると、ぎゅーってなるんだ、総士のこと思うだけでぎゅーってなる」
一騎は総士の手をつかむと、自分の左胸に押しつけた。
「心臓がバクバクいってさ」
苦しいんだ、と一騎は呟いた。
押しつけた総士の手に自分の手を重ねる。
そっと指の間に自分の指を絡ませた。
「俺が苦しいの見てると、総士も苦しいんでしょ?」
だったらさ、と言って一騎は総士を見上げる。
「助けてよ」
「…どう、やって?」
この後に及んでまた?マークを飛ばす総士に、
そこまで言わせるなんてさ、と一騎は頬をふくらませるとそっと呟く。
「好き…って、言ってよ」
もちろん、友達って意味じゃなくてね、と念を押すと一騎はぎゅっと総士に抱きついた。
らぶらぼ6
2011.11.20 Sunday
じゃんけんぽん!!
「・・・あ」
みんなグーを出した中で自分だけチョキ。
「じゃあ、一騎くん水くみに行ってきてね」
真矢は、満面の笑みで一騎にバケツを手渡した。
時間は夜の9時、アルヴィスの面々は海に来ていた。
何をかくそう、今日は毎年恒例の花火大会の日である。
なぜか七夕のちょっと前に開催されるこの一大イベントは、娯楽の少ない竜宮島の子供にとっては
年に数回開催されるお祭りと同様に心とっても踊るイベントとなっている。
そのための積立金がある程の花火大会、今年も女子は昼間からいそいそと花火を選びに行っていた。
が、例年なら午後7時に始まるはずのこの花火、今年は2時間も遅れてからのスタートとなった。
それもそのはず、さぁこれから準備をするかと思った矢先になんとも都合悪くフェストゥムが襲来したのである。
しかし人間というのはなんともゲンキンなもので、もの凄くイラついた面々は見事な連携プレーで
あっと言う間にフェストゥムを葬り去った。
だが、そんな努力も虚しく2時間遅れのスタートと相成り、
しょっぱなの水くみじゃんけんで気持ちいいほどすっぱり負けたのが一騎だった。
夏だからと、日が長いだろうと高をくくっていた自分が大誤算だったことに今更気付く。
いくら夏といえど、夜の9時にもなれば暗いのだ。
一騎は手渡されたバケツを持って大きな溜息を吐く。
崩れ落ちそうな気持ちを抱えて波打ち際であるだろう方角に向かった。
夢ならば平気なのだ、自分でも驚くくらいに。
どんなに暗くて黒い海を泳いでいても、視点が自分のちょっと後ろから眺めているから、
自分がどこにいてどこに向かっていて、どこに行けないと解って、暗い闇に引き返すのも。
でも、
「真っ暗すぎる」
実際の海は空も砂浜も海も波も全部真っ暗で、まるで境界線なんて概念なんか最初から無かったかのように
ただの黒い世界が広がっている。
視界が遮られると逆に鋭敏さを増す聴覚が、寄せては返す波の音だけやけに大きく不気味に捉え始める。
「う」
怖い、あと何歩足を踏み出したら冷たい海水が足に触れ始めるのか。
波が見えないだけでこんなに怖いなんて。
一騎は波が来るか来ないかの所までしか行けず、さっきから一向に水がくめずにいた。
「だめだだめだ、俺負けたんだし」
男の子なんだし、とかちょっと抜けた思考で意を決すると、えいっと大きく一歩踏み出した。
「ひゃぁ・・・あ」
一瞬、膝まで海水に浸かってしまう。
ちょうどその時大きな波が打ち寄せたのだ。
真っ暗な世界で聴覚と触覚だけに訴えかけられたその衝撃に一騎は膝の力が抜け、波の引いた砂浜にへたりこんでしまった。
「・・・一騎?」
ふと背後から声がする。
真っ黒い世界に丸い光がぽわぽわと浮かんでいる。
振り返ると、懐中電灯の光だったのかと、だんだんその光がこちらへ近付いてくる。
「そ・・・し」
徐々に明瞭になる視界が捉えたのは総士の顔だった。
「どうした?大丈夫か?」
「あ、ごめ・・・だいじょ、ぶ」
慌てて立ち上がろうとしたが、膝にも腕にも力が入らずどうにも立てそうになかった。
気付かれちゃ、いけない。
「ちょっと転んじゃって・・・ほんと、へーきだから」
あっち行ってていいよ、と言おうとしたその言葉を一騎は言う事が出来なかった。
「ぁ・・・」
がっちりと肩に回された腕、首筋に感じる温もり。
「そー・・・し?」
座り込んでいた一騎の背後から、総士は一騎を抱き締めていた。
「無理・・・すんなって」
抱き締める総士の髪が頬にぎゅっと触れる。
「ずっと、震えてる」
それはっ、と必死に言い訳をしようとした一騎の口を総士の手が覆うと、怖かったんだよな?ごめん、
と背後でぽつり呟く声が聞こえた。
ずきん、と胸の奥が疼くような感覚。
その手と背中に感じる温もりになんだかとても一騎は安堵してしまって、気付けばぽろぽろと涙をこぼしてしまう。
総士は何も言わず、でも一騎の震えを少しでも和らげようと抱き締める腕だけちょっと強くした。
数分後、
「一騎くーん、水くんでくれた?」
あ、と真矢の声に急に我に返る。
バケツは両手で握り締めていたが、未だ中身は空っぽのままだ。
まずい。
と思ったその時、一騎の手からするりとバケツが抜ける。
見上げると、バケツを持った総士が波打ち際まで行って手早く水をくんで来る。
「ごめん、今行くから」
総士が真矢に声を掛けた。
ほら、と言った総士の元へ慌てて立ち上がって駆け寄る。
本当にごめん、と小さく呟くと総士は「何が?」と言ってふんわり笑った。
真っ暗だったのに、その笑顔だけはなぜだか凄く綺麗に見えたのが不思議だった。
「遅いよ一騎くん」
と帰るなり真矢に小言を言われたが、一騎は全然気にも留めなかった(悪いな、とは思った)
波打ち際からずっと繋いでいた手は、どうやら暗闇のせいでみんなには見えなかったようだ。
全身の震えはいつのまにかおさまっていた。
十数分前より、暗闇が苦手じゃなくなった自分が確かにここにいる。
さっきまで繋いでいた右手をぎゅ、と握りしめて「大丈夫」と自分に呪文を唱えると、
すでに盛り上がり始めている花火の輪へと一騎は入っていった。
「・・・あ」
みんなグーを出した中で自分だけチョキ。
「じゃあ、一騎くん水くみに行ってきてね」
真矢は、満面の笑みで一騎にバケツを手渡した。
時間は夜の9時、アルヴィスの面々は海に来ていた。
何をかくそう、今日は毎年恒例の花火大会の日である。
なぜか七夕のちょっと前に開催されるこの一大イベントは、娯楽の少ない竜宮島の子供にとっては
年に数回開催されるお祭りと同様に心とっても踊るイベントとなっている。
そのための積立金がある程の花火大会、今年も女子は昼間からいそいそと花火を選びに行っていた。
が、例年なら午後7時に始まるはずのこの花火、今年は2時間も遅れてからのスタートとなった。
それもそのはず、さぁこれから準備をするかと思った矢先になんとも都合悪くフェストゥムが襲来したのである。
しかし人間というのはなんともゲンキンなもので、もの凄くイラついた面々は見事な連携プレーで
あっと言う間にフェストゥムを葬り去った。
だが、そんな努力も虚しく2時間遅れのスタートと相成り、
しょっぱなの水くみじゃんけんで気持ちいいほどすっぱり負けたのが一騎だった。
夏だからと、日が長いだろうと高をくくっていた自分が大誤算だったことに今更気付く。
いくら夏といえど、夜の9時にもなれば暗いのだ。
一騎は手渡されたバケツを持って大きな溜息を吐く。
崩れ落ちそうな気持ちを抱えて波打ち際であるだろう方角に向かった。
夢ならば平気なのだ、自分でも驚くくらいに。
どんなに暗くて黒い海を泳いでいても、視点が自分のちょっと後ろから眺めているから、
自分がどこにいてどこに向かっていて、どこに行けないと解って、暗い闇に引き返すのも。
でも、
「真っ暗すぎる」
実際の海は空も砂浜も海も波も全部真っ暗で、まるで境界線なんて概念なんか最初から無かったかのように
ただの黒い世界が広がっている。
視界が遮られると逆に鋭敏さを増す聴覚が、寄せては返す波の音だけやけに大きく不気味に捉え始める。
「う」
怖い、あと何歩足を踏み出したら冷たい海水が足に触れ始めるのか。
波が見えないだけでこんなに怖いなんて。
一騎は波が来るか来ないかの所までしか行けず、さっきから一向に水がくめずにいた。
「だめだだめだ、俺負けたんだし」
男の子なんだし、とかちょっと抜けた思考で意を決すると、えいっと大きく一歩踏み出した。
「ひゃぁ・・・あ」
一瞬、膝まで海水に浸かってしまう。
ちょうどその時大きな波が打ち寄せたのだ。
真っ暗な世界で聴覚と触覚だけに訴えかけられたその衝撃に一騎は膝の力が抜け、波の引いた砂浜にへたりこんでしまった。
「・・・一騎?」
ふと背後から声がする。
真っ黒い世界に丸い光がぽわぽわと浮かんでいる。
振り返ると、懐中電灯の光だったのかと、だんだんその光がこちらへ近付いてくる。
「そ・・・し」
徐々に明瞭になる視界が捉えたのは総士の顔だった。
「どうした?大丈夫か?」
「あ、ごめ・・・だいじょ、ぶ」
慌てて立ち上がろうとしたが、膝にも腕にも力が入らずどうにも立てそうになかった。
気付かれちゃ、いけない。
「ちょっと転んじゃって・・・ほんと、へーきだから」
あっち行ってていいよ、と言おうとしたその言葉を一騎は言う事が出来なかった。
「ぁ・・・」
がっちりと肩に回された腕、首筋に感じる温もり。
「そー・・・し?」
座り込んでいた一騎の背後から、総士は一騎を抱き締めていた。
「無理・・・すんなって」
抱き締める総士の髪が頬にぎゅっと触れる。
「ずっと、震えてる」
それはっ、と必死に言い訳をしようとした一騎の口を総士の手が覆うと、怖かったんだよな?ごめん、
と背後でぽつり呟く声が聞こえた。
ずきん、と胸の奥が疼くような感覚。
その手と背中に感じる温もりになんだかとても一騎は安堵してしまって、気付けばぽろぽろと涙をこぼしてしまう。
総士は何も言わず、でも一騎の震えを少しでも和らげようと抱き締める腕だけちょっと強くした。
数分後、
「一騎くーん、水くんでくれた?」
あ、と真矢の声に急に我に返る。
バケツは両手で握り締めていたが、未だ中身は空っぽのままだ。
まずい。
と思ったその時、一騎の手からするりとバケツが抜ける。
見上げると、バケツを持った総士が波打ち際まで行って手早く水をくんで来る。
「ごめん、今行くから」
総士が真矢に声を掛けた。
ほら、と言った総士の元へ慌てて立ち上がって駆け寄る。
本当にごめん、と小さく呟くと総士は「何が?」と言ってふんわり笑った。
真っ暗だったのに、その笑顔だけはなぜだか凄く綺麗に見えたのが不思議だった。
「遅いよ一騎くん」
と帰るなり真矢に小言を言われたが、一騎は全然気にも留めなかった(悪いな、とは思った)
波打ち際からずっと繋いでいた手は、どうやら暗闇のせいでみんなには見えなかったようだ。
全身の震えはいつのまにかおさまっていた。
十数分前より、暗闇が苦手じゃなくなった自分が確かにここにいる。
さっきまで繋いでいた右手をぎゅ、と握りしめて「大丈夫」と自分に呪文を唱えると、
すでに盛り上がり始めている花火の輪へと一騎は入っていった。
らぶらぼ5
2011.11.20 Sunday
「一騎、お前最近、綺麗になったな」
と、席に着くなり父親が言ったので、俺は飲みかけていたお茶を盛大に吹き出してしまった。
結構かなり熱めに入れたお茶だったからそれはもう舌とか唇が痺れる程熱くて思わず涙目になった俺に、
お、いいぞその顔!そういう顔だ
と意味不明な事を口走る父親を見て「どこが?どんな?」なんて聞いてしまう自分も親にも増して意味不明だと思う。
でもしょうがない、腐っても親子なんだし。
「一騎ももう15歳だもんな、恋のひとつやふたつ・・・」
「ふっ、ふたつもなんてしてないよっ・・・!!」
と近所迷惑省みず叫んだ俺に、
さすがは俺の子だ、なんてピュアなんだ
と惚れ惚れにやけている父親は本当にどうかしていると思う。鼻の下がさっきからのびっぱなしだ。
一体何を想像してるんだ。ああ、アルヴィスでこんな顔してたらどうしよう・・・。
ってのは置いといて、父さんごめんなさい!
そんなピュアな子供はホモでした
なんて、言えるわけないじゃないか。
父さん、なんで俺を女の子に生んでくれなかったんですか?あ、ごめん母さんだ(!)
「前途多難すぎるよ」
一騎は父親などお構いなしにおっきな溜息を吐いた。
ずずっと湯呑みをすすれば、残りのお茶がなんだか冷たい。
お茶まで、俺に冷たいなんて。
と一騎は父親譲りの意味不明な思考回路で一生懸命恋愛について考えていた。
「痛っ・・・!」
いつものように総士の部屋で休憩をしていると、机に向かっていた総士が小さく声を上げた。
何事かと慌てて一騎がベッドから飛び起きて総士の元に向かえば、彼は指先を押さえて苦い顔をしている。
その指先には血が滲んでいて、
「だ、だいじょぶ?」
と一騎が尋ねると総士は苦笑しながら、書類でつい切っちゃったんだ、と言った。
こういうのって意外と後まで痛くて困るんだよな、絆創膏貰って来なきゃと。
「じゃあ、俺、貰ってくるからっ」
一騎はメディカルルームに行こうとしたが、その腕を掴まれて後ろを振り返ると総士は、あとでいいから、と言う。
でも、総士が痛いまま仕事してるのに俺だけ何もしてないなんて。
あ、別にサボってる訳じゃないぞ!
ファフナーの新戦闘シミュレーションプログラムを待ってるの、俺は。
じゃあ、せめて、
と一騎は総士の血の滲む手をそっと取ると、一生懸命恥ずかしさをこらえて言ってみた。
「い、いたいのいたいの飛んでけっ・・・///」
・・・
・・・・
・・・・・(沈黙)
まずい。
ちょう恥ずかしい。
でも意を決して顔を上げるとそこには案の定?マークをいつぞやの一騎以上に飛ばしてる総士の顔が。
お前ちょっとは空気読めよ!と先刻もっとも空気読めてない台詞をかました一騎はもじもじしながら総士を見つめた。
「・・・何だ、それ?」
第一声がソレですか・・・(がっくし)
一騎はもの凄く落胆しながら、子供の時こうすると痛くなくなるって、してもらわなかったか?と返した。
「ペインブロックか?」
・・・。
うんまぁ、当たらずとも遠からずって・・・って!
いつも以上に真面目な顔をして聞いてくる総士に一騎はなんだかもう自分がとてつもなく
大きな間違いをおかしてしまったと半ば馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「もういい、ごめん、何でもないからやっぱ絆創膏取ってくる」
と今度こそ本当にメディカルルームへと行こうとした一騎を
「ぇ?」
またも後ろからがっちりと掴む腕にびっくりして振り向いた。
痛くなくなったからいいよ、と総士は言う。
そして、
「お前の優秀なペインブロックのおかげだ、ありがとう」
だなんてまたすっごい綺麗な笑顔でそんな事口にするもんだから、
なんかちょっとそれずれてるよ総士とか思った気持ちなんてどこかへ吹き飛んでしまって、
つられて俺もにへらっと笑ってしまった。
「お前のそれは誰にでも効くのか?」
なんてついでに尋ねられたから、
「そ、総士だけに決まってるじゃんか・・・!!」
とついつい本音が出てしまって、ああしまった、しまったよ俺と思ったら、
「なんかうれしいな、それ」
とかって総士がにこっと笑うから、
「痛くなったら、いつでも言えよっ!」
なんて言っちゃったけど、あれをまた言うなんて顔から火が出て死んでしまいそうだと思う。
だめだだめだ、死んだら総士に会えないじゃないか(!)
フェストゥムなんかにやられてる場合じゃないぞ、俺。
あいつらもキラキラして結構綺麗だと思うけど、至近距離で見た綺麗さは圧倒的に総士のが上だ
(遠くから見るとあいつらは金色で派手だから、遠くだとあいつらもまぁまぁ綺麗だ)
あ、でも俺は綺麗だからって抱き締められると安心するからって(のろけじゃないぞ!)
総士を壊そうなんて絶対絶対に思ってなんかないかんな!
でも総士に壊されるなら大歓迎だ!
・・・?
・・・・俺ってもしかしてMなのかも。
まぁいっか(たぶんよくない)
なんて考えながら格納庫に向かっている俺の鼻の下はゆるっと伸びっぱなしで、
ああやっぱり腐っても親子なんだなぁとぼんやり思う。
幸せそうだねぇ、一騎くん
とすれ違う人に結構言われた。
俺ってそんなに顔に出やすいのかな?
そうそう、その日のシミュレーションは初めてのプログラムなのに最高値を叩き出してしまった。
愛の力ってのは偉大だと思った。
と、席に着くなり父親が言ったので、俺は飲みかけていたお茶を盛大に吹き出してしまった。
結構かなり熱めに入れたお茶だったからそれはもう舌とか唇が痺れる程熱くて思わず涙目になった俺に、
お、いいぞその顔!そういう顔だ
と意味不明な事を口走る父親を見て「どこが?どんな?」なんて聞いてしまう自分も親にも増して意味不明だと思う。
でもしょうがない、腐っても親子なんだし。
「一騎ももう15歳だもんな、恋のひとつやふたつ・・・」
「ふっ、ふたつもなんてしてないよっ・・・!!」
と近所迷惑省みず叫んだ俺に、
さすがは俺の子だ、なんてピュアなんだ
と惚れ惚れにやけている父親は本当にどうかしていると思う。鼻の下がさっきからのびっぱなしだ。
一体何を想像してるんだ。ああ、アルヴィスでこんな顔してたらどうしよう・・・。
ってのは置いといて、父さんごめんなさい!
そんなピュアな子供はホモでした
なんて、言えるわけないじゃないか。
父さん、なんで俺を女の子に生んでくれなかったんですか?あ、ごめん母さんだ(!)
「前途多難すぎるよ」
一騎は父親などお構いなしにおっきな溜息を吐いた。
ずずっと湯呑みをすすれば、残りのお茶がなんだか冷たい。
お茶まで、俺に冷たいなんて。
と一騎は父親譲りの意味不明な思考回路で一生懸命恋愛について考えていた。
「痛っ・・・!」
いつものように総士の部屋で休憩をしていると、机に向かっていた総士が小さく声を上げた。
何事かと慌てて一騎がベッドから飛び起きて総士の元に向かえば、彼は指先を押さえて苦い顔をしている。
その指先には血が滲んでいて、
「だ、だいじょぶ?」
と一騎が尋ねると総士は苦笑しながら、書類でつい切っちゃったんだ、と言った。
こういうのって意外と後まで痛くて困るんだよな、絆創膏貰って来なきゃと。
「じゃあ、俺、貰ってくるからっ」
一騎はメディカルルームに行こうとしたが、その腕を掴まれて後ろを振り返ると総士は、あとでいいから、と言う。
でも、総士が痛いまま仕事してるのに俺だけ何もしてないなんて。
あ、別にサボってる訳じゃないぞ!
ファフナーの新戦闘シミュレーションプログラムを待ってるの、俺は。
じゃあ、せめて、
と一騎は総士の血の滲む手をそっと取ると、一生懸命恥ずかしさをこらえて言ってみた。
「い、いたいのいたいの飛んでけっ・・・///」
・・・
・・・・
・・・・・(沈黙)
まずい。
ちょう恥ずかしい。
でも意を決して顔を上げるとそこには案の定?マークをいつぞやの一騎以上に飛ばしてる総士の顔が。
お前ちょっとは空気読めよ!と先刻もっとも空気読めてない台詞をかました一騎はもじもじしながら総士を見つめた。
「・・・何だ、それ?」
第一声がソレですか・・・(がっくし)
一騎はもの凄く落胆しながら、子供の時こうすると痛くなくなるって、してもらわなかったか?と返した。
「ペインブロックか?」
・・・。
うんまぁ、当たらずとも遠からずって・・・って!
いつも以上に真面目な顔をして聞いてくる総士に一騎はなんだかもう自分がとてつもなく
大きな間違いをおかしてしまったと半ば馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「もういい、ごめん、何でもないからやっぱ絆創膏取ってくる」
と今度こそ本当にメディカルルームへと行こうとした一騎を
「ぇ?」
またも後ろからがっちりと掴む腕にびっくりして振り向いた。
痛くなくなったからいいよ、と総士は言う。
そして、
「お前の優秀なペインブロックのおかげだ、ありがとう」
だなんてまたすっごい綺麗な笑顔でそんな事口にするもんだから、
なんかちょっとそれずれてるよ総士とか思った気持ちなんてどこかへ吹き飛んでしまって、
つられて俺もにへらっと笑ってしまった。
「お前のそれは誰にでも効くのか?」
なんてついでに尋ねられたから、
「そ、総士だけに決まってるじゃんか・・・!!」
とついつい本音が出てしまって、ああしまった、しまったよ俺と思ったら、
「なんかうれしいな、それ」
とかって総士がにこっと笑うから、
「痛くなったら、いつでも言えよっ!」
なんて言っちゃったけど、あれをまた言うなんて顔から火が出て死んでしまいそうだと思う。
だめだだめだ、死んだら総士に会えないじゃないか(!)
フェストゥムなんかにやられてる場合じゃないぞ、俺。
あいつらもキラキラして結構綺麗だと思うけど、至近距離で見た綺麗さは圧倒的に総士のが上だ
(遠くから見るとあいつらは金色で派手だから、遠くだとあいつらもまぁまぁ綺麗だ)
あ、でも俺は綺麗だからって抱き締められると安心するからって(のろけじゃないぞ!)
総士を壊そうなんて絶対絶対に思ってなんかないかんな!
でも総士に壊されるなら大歓迎だ!
・・・?
・・・・俺ってもしかしてMなのかも。
まぁいっか(たぶんよくない)
なんて考えながら格納庫に向かっている俺の鼻の下はゆるっと伸びっぱなしで、
ああやっぱり腐っても親子なんだなぁとぼんやり思う。
幸せそうだねぇ、一騎くん
とすれ違う人に結構言われた。
俺ってそんなに顔に出やすいのかな?
そうそう、その日のシミュレーションは初めてのプログラムなのに最高値を叩き出してしまった。
愛の力ってのは偉大だと思った。