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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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星に願いを7
窓の外はどしゃ降りの雨だった。
天気予報は確か一日晴れだったはずだ。
けれど午後の早いうちから空には暗雲が立ち込め、ぽつりぽつりと降り始めたかと思うと、すぐにそれは激しく地面を叩き始める。
先刻からここに立ち尽くしたまま総士は外を眺めていた。
眺めていた、というよりはただ外へと視線を向けていたといった方が正しい。
どこか焦点の合わない両目はその奥にはっきりと像を結ばないまま、時折何かに怯えるように揺らぐだけだった。

「今、ヒマだよな?」

隣に人影を感じたと思った瞬間、掛けられた声に総士は顔を上げた。

「じゃなかった?」

少しおどけた表情を浮かべた剣司がそこに立っていた。
総士が口を開こうとしたのをまるで知っていたかのようにくすりと笑う。

「咲良んとこ行ってたら空に雨降ってきてさ、洗濯物入れてたっけ?とか思って戻ってきたら今にも死にそうな顔で外を見つめてる奴がいたからさ」

「僕が?」

「お前以外に誰かいるか?」

剣司はまた笑った。少し寂しげに見えたのは気のせいなのかもしれない。



「本当に、大丈夫なのか?」

剣司の指先が窓硝子をなぞると、その跡に沿うようにつぅ、と水滴が流れ落ちる。
その様子を見つめていた総士は「一騎がか?」と言いかけそうになったのを思わず飲み込んだ。

剣司が言いたいのはそんなことじゃない。
総士には持ち得ない優しさという感情を生まれながらにおそらく誰よりも持ち得る彼が一騎のことだけを心配するはずがなく、またそれをわざわざ総士に今聞くこともたぶん有り得ない。
ぼんやりと総士がそんな考えを巡らしていると、また剣司が口を開いた。

「島のことを最優先に考えなきゃいけないのはわかる。けどお前、一騎がいなくなったらさ、生きていこうなんて思えるのか?」

硝子に映る剣司の目線が総士のそれとぶつかる。
目をそらした衝動に駆られた。
けれどそうしたら今ここで何かを言うよりも確実に相手に自分の気持ちを悟られてしまいそうな気がしてどうしてもそれが出来ない。
反射を少し見づらくさせる、窓にびっしりと張り付いた雨粒が、なんだかひどく総士を安心させた。

「別に、どんな答えでもいいと思う。それを聞こうとも思ってない。けどさ、その答えはさ、周りのこととか抜きにして、本当に自分自身がこうだって決めたものじゃなきゃ、胸を張って貫き通すことなんてできないと思うんだ」

「お前ならそんなことわかりすぎるほどわかってると思ったけど、わかりすぎるからこそ、色んなことの答えを出さなきゃって抱え込んで、一番目の前のものをおろそかにしたりしないかなって、さ」

そう言ってガラス越しの剣司はまた笑った。今度はもっと寂しそうな笑顔だった。
「じゃあ、行くわ」とだけ言って剣司はくるりと反対を向くとそのまま歩き出す。
足音がだんだん遠くに小さく消えていくと、雨音が次第に大きく聞こえ始めて、通路に一人残された総士は静かに窓硝子に額を押し付ける。

いつかまた必ず会えるからと笑った顔を思い出す。
空をまた見ることが叶った一騎と、空が大好きだった彼が消えてしまったあの日にした約束。

「ごめんな」

ぽつりと総士は呟いた。
その頬には一粒の涙が伝っていた。

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