蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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2024.11.22 Friday
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星に願いを5
2011.11.24 Thursday
「仕方ないって理由で、人間が殺せるの?」
真矢は振り返ると真っ直ぐ正面を見つめた。
数歩先には、同じくこちらを向いたカノンが立っている。ゆっくりと視線がぶつかる。
深く澄んだ紫色の瞳。
何度となく見つめたはずのその色が、今日は生まれて初めて見る色のように怖い。
真矢はぎゅっと固く手のひらを握り締めた。
「皆城くんの戦略では、敵機の動力部の破壊だけが唯一の迎撃行動として認められてた」
「なのに、なんで?」
海風が、山肌を駆け上がって頂上に吹きつける。
カノンの髪が顔を隠すように横に靡く、木々の葉がざわざわと音を立てる。
こちらを真っ直ぐ見据えていた紫の瞳が見えなくなったことに、少しだけ緊張が途絶えてしまいそうになる。
真矢とカノンの視線を遮った赤い髪は太陽に反射して、キラキラとなんだかとてもこの場には不釣合いなほど輝いて綺麗だった。
「なんでコックピットだけ狙えなんて通信を」
「でもそれは全機には届かなかった」
「当たり前じゃない」
「戦闘時の機動的な命令指揮の権限を許可されているのは私だ」
「私が、通信を遮断したのは」
「もちろん、命令違反だ」
また、風が吹いた。
でも今度は、カノンの赤い髪は彼女の鋭い視線を隠してはくれなかった。
来る、と思った。逸らしてはいけない、絶対に。
「殺されるのを、じっと待つのか?」
ほら、と身体の中で冷静なもう一人の自分の声がする。
予想なんてもうずっと、何日も前からしていたのだから今更驚く必要なんてないのだと。
「仕方なく、皆が殺されても?」
「仕方なく、島がなくなってもそれでいいと、そう思うのか?」
それだけ言うと、カノンはくるりと向きを変えて歩き出した。勿論、振り返ることなど微塵もない。
風は吹かない。
それが一秒ごとに離れていくカノンとの距離感をやけに生々しく感じさせる。
予想の次の、そこからどうしても答えを導き出すことができなかった自分を見透かされてるような気がした。
いや、答えを出せない自分を残して立ち去る、もしかするとそこまで彼女は予想していたのかもしれない。
そしてそれは当たった。残念なことに。
だから今も、何も言えず自分はここに立ち尽くしたままだ。
「どうしたら、いいのかな」
真矢はぽつりと呟いて、カノンが去ったのとは違う方向を見た。
目の奥にこびり付くような、キラキラと赤い残像を消し去りたかった。
「あれ、遠見?」
見つめていたのとは別の方向から声がした。
びっくりして振り返ると、そこには一騎が立っていた。
「一騎くん?寝てなくていいの?」
「遠見まで寝てろって言うのかよ」
少し不貞腐れたように言った一騎は芝生の上に腰を下ろした。
聞けば、ここに来る途中会う人全てに「まだ寝てろ」と言われたらしい。
自分の身体のことくらい自分が一番わかるんだって、と一騎は口を尖らせる。
そんなことを言いながらも、無理に無理を重ねて突っ走っては周囲を心配させ続けているということをわかっていないのは紛れもない一騎自身だというのに。
でも今日は本当に調子が良いらしい。真矢はほっとして一騎の隣に腰を下ろした。
見上げた青空がとても眩しい。
「なんかこうしてるとさ、ずーっと昔に戻ったみたいだよね」
眩しくて涙が出そうだ、真矢はぎゅっと瞼を閉じる。
薄く目を開けてちらりと横を見ると、なぜか一騎は俯いていた。そのまま何も言わない。
瞬間、何かを言おうとしたかのように唇が言葉を形作ってはまた閉ざされる。
真矢は思わず目を逸らした。
なんだか見てはいけないような、そんな気がしたからだ。
「戻りたいよね、あの頃に」
ぽつりと呟いた。
涙が一筋、頬を伝って零れ落ちる。
きっと眩しいからだ、そういうことにした。
それ以外のことを考えたくなかった。
真矢は振り返ると真っ直ぐ正面を見つめた。
数歩先には、同じくこちらを向いたカノンが立っている。ゆっくりと視線がぶつかる。
深く澄んだ紫色の瞳。
何度となく見つめたはずのその色が、今日は生まれて初めて見る色のように怖い。
真矢はぎゅっと固く手のひらを握り締めた。
「皆城くんの戦略では、敵機の動力部の破壊だけが唯一の迎撃行動として認められてた」
「なのに、なんで?」
海風が、山肌を駆け上がって頂上に吹きつける。
カノンの髪が顔を隠すように横に靡く、木々の葉がざわざわと音を立てる。
こちらを真っ直ぐ見据えていた紫の瞳が見えなくなったことに、少しだけ緊張が途絶えてしまいそうになる。
真矢とカノンの視線を遮った赤い髪は太陽に反射して、キラキラとなんだかとてもこの場には不釣合いなほど輝いて綺麗だった。
「なんでコックピットだけ狙えなんて通信を」
「でもそれは全機には届かなかった」
「当たり前じゃない」
「戦闘時の機動的な命令指揮の権限を許可されているのは私だ」
「私が、通信を遮断したのは」
「もちろん、命令違反だ」
また、風が吹いた。
でも今度は、カノンの赤い髪は彼女の鋭い視線を隠してはくれなかった。
来る、と思った。逸らしてはいけない、絶対に。
「殺されるのを、じっと待つのか?」
ほら、と身体の中で冷静なもう一人の自分の声がする。
予想なんてもうずっと、何日も前からしていたのだから今更驚く必要なんてないのだと。
「仕方なく、皆が殺されても?」
「仕方なく、島がなくなってもそれでいいと、そう思うのか?」
それだけ言うと、カノンはくるりと向きを変えて歩き出した。勿論、振り返ることなど微塵もない。
風は吹かない。
それが一秒ごとに離れていくカノンとの距離感をやけに生々しく感じさせる。
予想の次の、そこからどうしても答えを導き出すことができなかった自分を見透かされてるような気がした。
いや、答えを出せない自分を残して立ち去る、もしかするとそこまで彼女は予想していたのかもしれない。
そしてそれは当たった。残念なことに。
だから今も、何も言えず自分はここに立ち尽くしたままだ。
「どうしたら、いいのかな」
真矢はぽつりと呟いて、カノンが去ったのとは違う方向を見た。
目の奥にこびり付くような、キラキラと赤い残像を消し去りたかった。
「あれ、遠見?」
見つめていたのとは別の方向から声がした。
びっくりして振り返ると、そこには一騎が立っていた。
「一騎くん?寝てなくていいの?」
「遠見まで寝てろって言うのかよ」
少し不貞腐れたように言った一騎は芝生の上に腰を下ろした。
聞けば、ここに来る途中会う人全てに「まだ寝てろ」と言われたらしい。
自分の身体のことくらい自分が一番わかるんだって、と一騎は口を尖らせる。
そんなことを言いながらも、無理に無理を重ねて突っ走っては周囲を心配させ続けているということをわかっていないのは紛れもない一騎自身だというのに。
でも今日は本当に調子が良いらしい。真矢はほっとして一騎の隣に腰を下ろした。
見上げた青空がとても眩しい。
「なんかこうしてるとさ、ずーっと昔に戻ったみたいだよね」
眩しくて涙が出そうだ、真矢はぎゅっと瞼を閉じる。
薄く目を開けてちらりと横を見ると、なぜか一騎は俯いていた。そのまま何も言わない。
瞬間、何かを言おうとしたかのように唇が言葉を形作ってはまた閉ざされる。
真矢は思わず目を逸らした。
なんだか見てはいけないような、そんな気がしたからだ。
「戻りたいよね、あの頃に」
ぽつりと呟いた。
涙が一筋、頬を伝って零れ落ちる。
きっと眩しいからだ、そういうことにした。
それ以外のことを考えたくなかった。
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お詫び
2011.11.20 Sunday
目次
2011.11.20 Sunday
各シリーズ説明(すべて総一です)
「星に願いを」
本編設定・バッドエンド。人間と戦争をするようになって人間を殺すことに思い悩んででも殺しまくってだんだんみんな壊れていきます。
「Dear,my friend」
本編設定。映画のその後っぽいオールキャラでほのぼの。
「END OF THE WORLD」(完結)
パラレル。裏っぽいお仕事をしてる二人の話、操も出てきます。最終的にはハッピーエンド。
「君と僕とあの夏の日と」(完結)
高校生パラレル。右目を怪我したバレー部一騎と生徒会総士のひと夏。いろいろあるけどハッピーエンド。
「パラダイスロスト」(完結)
本編設定のようで都合よく捏造しまくってます。
「らぶらぼ」(完結)
本編設定。頭は弱いけど全力で恋してる一騎が頭は良いけど鈍すぎる総士にラブアタックする話。
短編は大体本編設定です。
「星に願いを」
本編設定・バッドエンド。人間と戦争をするようになって人間を殺すことに思い悩んででも殺しまくってだんだんみんな壊れていきます。
「Dear,my friend」
本編設定。映画のその後っぽいオールキャラでほのぼの。
「END OF THE WORLD」(完結)
パラレル。裏っぽいお仕事をしてる二人の話、操も出てきます。最終的にはハッピーエンド。
「君と僕とあの夏の日と」(完結)
高校生パラレル。右目を怪我したバレー部一騎と生徒会総士のひと夏。いろいろあるけどハッピーエンド。
「パラダイスロスト」(完結)
本編設定のようで都合よく捏造しまくってます。
「らぶらぼ」(完結)
本編設定。頭は弱いけど全力で恋してる一騎が頭は良いけど鈍すぎる総士にラブアタックする話。
短編は大体本編設定です。
オフライン情報
2011.11.20 Sunday
【サークル名】
mEW / 蒼穹のファフナー総一小説/漫画で活動しています。
【参加イベント】
次は来年のオンリーに出れたらなぁと思います。
【発行予定】
・TSLW vol.6「Standing on the scaffold」(漫画/P数未定)
→麻木くんと溝口さんと紅音さんの日常本
【既刊】
5冊くらい残ってます。
・TSLW vol.5「BLACKOUT (Addicted)」(漫画/総一 20P 100円)
→19歳一騎が実は心の中にトラウマを持ってて戦闘中に同化しかけたり、
新型ザインに総士と一騎二人で乗ってたりとかする捏造漫画
おかげさまで完売&配布終了しました、ありがとうございます!!
・TSLW vol.3 -My First Last Memories-(漫画/操と総士と一騎 24P 100円)
sample
→操が好きすぎて苦しいので、彼の幸せな記憶を捏造で辿る漫画
・TSLW vol.4「世界の祝福の仕方なんてわからないけど」(漫画/操と総一 20P 100円)
→世界なんて大きいものをまだ祝福できない操が総一の結婚式を盛大に企画して祝福する漫画
・TSLW vol.1(小説 SFパラレル 46P 100円)完売
・TSLW vol.2(漫画 無料配布)配布終了
星に願いを4
2011.11.20 Sunday
「はぁっ…はぁっ…」
一騎は半身を起こしたベッドの上で、整わない呼吸に激しく顔を歪ませる。
鼓動だけがやけに大きく身体中に響いて、次第に目の前の景色がぼやけていく。
つけっぱなしのモニターは、さっきまで流れていた映像の再生が終わって一面が青く変わっていた。
「ダメだ、引き込まれるな」
まるで正気を保つかのように、一騎はぎゅっとシーツを握り締める。
「俺と同じにしちゃ…ダメなんだ」
ぽつりと、一騎は呟いた。
瞬間、頬に一筋の涙が流れる。シーツ滑り落ちて一粒のシミを作る。
こんな思いを味わうのは俺だけでいいのに、俺にはその資格があるのに、あいつに罪はないのに。
「ごめんな」
歯痒かった。
戦闘に出ることができず、ただ毎日皆が島のために戦っている様子を映し出すモニターを眺めるだけ。
叫んでも声は届くはずもない、仲間の機体が危機に晒されても助けに入ることもできない。
自由になる両手は、いつでも敵の攻撃を読んで次の一手を繰り出そうとしているのに。
気がつけばただ虚しく空中を彷徨わせているだけ。
そして力なく投げ出した両手をぼんやりと見つめては、モニターの音ばかりが勝手に耳へと流れ込む。
確かカウント2秒を残して、耳を劈くような爆発音。距離はたぶん、視認できないほど遠くだ。
パラパラと微かに聞こえる音に、また命が消えた、と一騎は茫然とする。
「悪いのは、お前じゃないんだ…暉」
一騎の目から再び涙が溢れた。同時に、メディカルルームのドアが開く音がした。
「一騎、どうした?」
総士の声だった。
一騎はゆっくりと振り向く。総士はベッドサイドへ駆け寄ると、一騎の肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫か?気分、悪いんだろう?」
耳元で総士が尋ねた。そのまま、するりと伸びてきた右手に前髪を掻き揚げられる。
その感触が心地よすぎて思わず一騎はぼーっとしてしまう。そしてまた一筋、涙が流れる。
「みんな無事だから」
唐突に総士は言って、一騎が手にしていたリモコンを取り上げるとモニターの電源を落とした。
そしてモニターを見つめる一騎の視線を逸らせるように自分の方を向かせる。
「お前が心配するようなことは、ないから」
総士は言った。一騎の目を見つめたまま。
けれどなんだかとても頼りない、か細い声がと一騎は思う。
見つめた先の総士の目の奥が、微かに揺らめいたような気がした。
一騎は大きく息を吸って静かに吐き出すと、瞬きをひとつして総士を見上げた。
「あいつは…暉は、人間を殺すことに快感を覚えてる」
突然口を開いた一騎に驚いたのか、総士は目を見開いたまま何も言わない。
「暉が悪いんじゃない、けど…ダメだ、あいつを戦闘に出すのは、そしたらもう…」
「一騎、こんな言い方が適切じゃないことくらい解ってる。でもゼロファフナーがいなければ今の戦力では」
「ダメだ!」
「わかるだろう?一騎、今の戦力ではゼロファフナーがいなければ敵に太刀打ちできないことくらい」
「でも、このままじゃ暉が」
「じゃあ、お前が代わりに戦うとでもいうのか?」
そこまで言って、総士は一呼吸おいた。
「人間を、殺せるのか?」
静かに総士が言い放つ。鋭い視線に耐えられなくて、思わず顔を背けそうになる。
苦しい。まるで息ができないかのような感覚がする。ぎゅっと、胸のあたりを右手で押さえる。
真っ暗だ、と思う。微かに明かりの漏れる方向すら見当たらない程の真っ暗な空間。
苦しい。助けて欲しい。誰かにこの手を引っ張って無理矢理にでも歩かせて欲しい。
誰に?総士に?そんなことできるわけない。
また、総士に自分の闇を背負わせるなんて。絶対に。
「来主が見てたら、何て言うのかな?」
ぽつりと一騎が呟いた。わからなかった。また、涙が溢れた。
「あいつが帰ってくるまでこの島が平和であり続けるためには…」
総士は一騎を更に強く抱きしめる。
「人間を、殺さなきゃいけないんだ」
低い声、なんだか知らない他人のような声で総士は言った。
総士に触れている部分から直接響く「殺す」という言葉が、すっと自分の中に溶け込んでいくような気がして、
一騎は思わず身震いした。
一騎は半身を起こしたベッドの上で、整わない呼吸に激しく顔を歪ませる。
鼓動だけがやけに大きく身体中に響いて、次第に目の前の景色がぼやけていく。
つけっぱなしのモニターは、さっきまで流れていた映像の再生が終わって一面が青く変わっていた。
「ダメだ、引き込まれるな」
まるで正気を保つかのように、一騎はぎゅっとシーツを握り締める。
「俺と同じにしちゃ…ダメなんだ」
ぽつりと、一騎は呟いた。
瞬間、頬に一筋の涙が流れる。シーツ滑り落ちて一粒のシミを作る。
こんな思いを味わうのは俺だけでいいのに、俺にはその資格があるのに、あいつに罪はないのに。
「ごめんな」
歯痒かった。
戦闘に出ることができず、ただ毎日皆が島のために戦っている様子を映し出すモニターを眺めるだけ。
叫んでも声は届くはずもない、仲間の機体が危機に晒されても助けに入ることもできない。
自由になる両手は、いつでも敵の攻撃を読んで次の一手を繰り出そうとしているのに。
気がつけばただ虚しく空中を彷徨わせているだけ。
そして力なく投げ出した両手をぼんやりと見つめては、モニターの音ばかりが勝手に耳へと流れ込む。
確かカウント2秒を残して、耳を劈くような爆発音。距離はたぶん、視認できないほど遠くだ。
パラパラと微かに聞こえる音に、また命が消えた、と一騎は茫然とする。
「悪いのは、お前じゃないんだ…暉」
一騎の目から再び涙が溢れた。同時に、メディカルルームのドアが開く音がした。
「一騎、どうした?」
総士の声だった。
一騎はゆっくりと振り向く。総士はベッドサイドへ駆け寄ると、一騎の肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫か?気分、悪いんだろう?」
耳元で総士が尋ねた。そのまま、するりと伸びてきた右手に前髪を掻き揚げられる。
その感触が心地よすぎて思わず一騎はぼーっとしてしまう。そしてまた一筋、涙が流れる。
「みんな無事だから」
唐突に総士は言って、一騎が手にしていたリモコンを取り上げるとモニターの電源を落とした。
そしてモニターを見つめる一騎の視線を逸らせるように自分の方を向かせる。
「お前が心配するようなことは、ないから」
総士は言った。一騎の目を見つめたまま。
けれどなんだかとても頼りない、か細い声がと一騎は思う。
見つめた先の総士の目の奥が、微かに揺らめいたような気がした。
一騎は大きく息を吸って静かに吐き出すと、瞬きをひとつして総士を見上げた。
「あいつは…暉は、人間を殺すことに快感を覚えてる」
突然口を開いた一騎に驚いたのか、総士は目を見開いたまま何も言わない。
「暉が悪いんじゃない、けど…ダメだ、あいつを戦闘に出すのは、そしたらもう…」
「一騎、こんな言い方が適切じゃないことくらい解ってる。でもゼロファフナーがいなければ今の戦力では」
「ダメだ!」
「わかるだろう?一騎、今の戦力ではゼロファフナーがいなければ敵に太刀打ちできないことくらい」
「でも、このままじゃ暉が」
「じゃあ、お前が代わりに戦うとでもいうのか?」
そこまで言って、総士は一呼吸おいた。
「人間を、殺せるのか?」
静かに総士が言い放つ。鋭い視線に耐えられなくて、思わず顔を背けそうになる。
苦しい。まるで息ができないかのような感覚がする。ぎゅっと、胸のあたりを右手で押さえる。
真っ暗だ、と思う。微かに明かりの漏れる方向すら見当たらない程の真っ暗な空間。
苦しい。助けて欲しい。誰かにこの手を引っ張って無理矢理にでも歩かせて欲しい。
誰に?総士に?そんなことできるわけない。
また、総士に自分の闇を背負わせるなんて。絶対に。
「来主が見てたら、何て言うのかな?」
ぽつりと一騎が呟いた。わからなかった。また、涙が溢れた。
「あいつが帰ってくるまでこの島が平和であり続けるためには…」
総士は一騎を更に強く抱きしめる。
「人間を、殺さなきゃいけないんだ」
低い声、なんだか知らない他人のような声で総士は言った。
総士に触れている部分から直接響く「殺す」という言葉が、すっと自分の中に溶け込んでいくような気がして、
一騎は思わず身震いした。