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蒼穹のファフナー文章(ときどき絵)サイト
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ビューティフルアンドロイド
 「何でもないから、大丈夫だから」

そう言って一騎は掴まれた腕を振りほどくと総士の横をすり抜けた。
待て、と焦り気味の総士の声が後ろから聞こえても一切耳を貸さずただひたすらに通路を
彼の行くであろう方向とは逆方向へと歩き続ける。
やがて目前に迫ってきた曲がり角を曲がると一騎は突然走りだした。
追いつかれないように全速力で、行く先を悟られまいと次々に左右へと進路を変え、通路を一気に走り抜ける。
何事かと声をかけてくる大人達には目もくれずに息が切れるまで足を動かしてふと顔を上げれば、
見慣れない色の床と壁に囲まれた場所に辿り着いたようだった。
一騎は適当に一番近くの部屋まで走ると、いちかばちかでIDの照合を行った。
運良く認識コードが確認されるとドアロックが解除される。間もなくシュッと風を切ってドアが開かれた。

開かれたドアの先には薄暗い照明が青白く照らす空間が広がっており、よく目をこらせば本棚のような物が整然と並んでいる。
この照明といい、どうやら永年保存の書類のために作られた書庫らしいと一騎は思った。
ならば都合が良い、そうそうここには人が来ないはずだと考えを巡らすと一騎は室内へ入り、すぐさま内側からロックをかける。
そのまま壁伝いにずるずると床にへたり込むと、立てた両膝の間に顔を埋めてしまった。

そうして一騎は先ほど終了したフェストゥムとの戦闘について思いを巡らせる。
別に、今までと変わったところなどなかったと、わずかに残っている記憶を繋ぎ合わせる。
いつものように出撃命令が下り、マークエルフに搭乗して戦闘区域へと急いだ。
すでに出撃していたファフナーによってヴェルシールド内に追い込まれたフェストゥムを視認すると、一騎はそれらに銃口を向けた。
もちろん、何発撃とうとも敵は微動だにしないことはこれまでの経験上わかりきっている。
こちらへ敵の注意を引きつければそれでいい。目的は損傷したファフナーを戦線から一旦離脱させることだった。
ライフルの連射によって一騎の狙い通りエルフへとフェストゥムは凄まじい攻撃を仕掛け始めた。
それでいい。
一騎はにやりと笑みを浮かべると、ライフルを投げ捨てた。
さらなる接近をするために敵の同化可能領域でと踏み込もうと、展開された防壁に体当たりして突っ込んだ。
何度も経験した「被同化状態」の感覚を全身に受けながら、右手に握りしめたマインを敵の体内目掛けて深く押し込む。
そして、ぐにゃりと何とも表現しがたい感触がしたかと思うと、爆弾が炸裂した。
ひゅ、と一騎は息を飲む。
大きく開いた敵の傷口からコアがこの世のものとは思えない美しい輝きを放ってその姿を覗かせている。
ほぼ毎回のように同じ攻撃方法でフェストゥムを倒す一騎だったが、いつまでたってもこの瞬間だけは慣れないと思う。
そんなことを思ったわずか数秒の間に、攻撃を緩めない敵の触手がエルフの右上腕部と胸部を一気に貫いた。

「っあぁああっ…」

凄まじい激痛に目の前が暗転しかける。
しかし一騎はその瞬間にもう片方の左手に握りしめたマインを敵のコア深くに突き刺した。
一秒も経たないうちに内部で爆発が起こり、コアの破片が傷口から溢れ出してくる。
やった。
瞬きをするのも忘れてその光景を見つめていた一騎だったが、
その時ジークフリードシステムの総士からの声が聞こえたかと思った瞬間、エルフの全ての動作が封じられた。

「一騎っ…」

総士の叫び声で我に返った一騎はどうやら後方からもう一体の敵の触手がエルフに絡みついたのだろうと考えを巡らす。
その間にも敵の攻撃は休むことなく続き、腹部や両脚も触手に貫かれたのだろう、耐えがたい激痛が襲いかかり、
やがてそれらは全て麻痺してしまった。
まだ、やれる。
一騎は冷静に装備していたマインの残数を弾き出すと、わずかに出来た隙を見計らって奇跡的に無事な左手にそのひとつを握りしめる。
そして敵の胸の奥深くに沈めようと腕を引いた瞬間、

《あなたは》

まただ、と一騎は思う。
圧倒的に数で攻撃を仕掛けてくる時には聞こえもしないのに、残り一体になると必ずこの声が聞こえてくるのだ。
食うか食われるかのところで殴り合いをすることに快感すら感じている自分に、
そんな平和的なフリをした嘘が通用するものかと一騎は嘲り笑う。
一つになりたいのならこの殴り合いにお前が勝てばいい、そうすればお前の好きにさせてやるよ、と一騎は心の中で呟いた。
もちろん、負けるつもりなど毛頭なかったのだが。

「消えろよ」

お前の負けだ。
一騎は思い切り振り上げた左手を敵のコア目掛けて突き刺した。
確実に相手の命を絶ったと思われる感触がして、刹那、今日何度めかの爆発が起こる。
一騎はそれを茫然と、でもこれ以上ない達成感に酔いしれながら見つめた。不思議と身体の痛みは感じなかった。
遠くで総士が何かを必死に訴えかけているのが聞こえる気がする。
けれど一騎はそれがまるで聞こえていなかったかのようにエルフを自動操縦に切り替えると、そのまま意識を喪失させた。

そして、いつものごとく医務室で目覚めた後、先生が丁度留守にしていたのをいいことに素早く制服に着替えて廊下へと飛び出した。
程なくして、向こうから歩いてくる総士に呼び止められた。

「大丈夫か?」

毎回戦闘後には恒例の体調を気遣う言葉なのだろうと最初は思った。
けれどそれは違った。もう何ともないから、とぞんざいに答えた一騎に総士はそのことじゃなくて、と言いよどむ。

「何が?」

今度は一騎が聞き返せば、総士はためらいつつも口を開いた。
延々と語られた内容の大半は未だぼうっとする頭のせいかよく理解出来なかったが、
どうやらファフナーと自分との適合率が戦闘中に異常な数値を示したらしい。
それは、一般的に言えば被同化状態でフェストゥムの攻撃を受け、完全に相手と同化してしまった状態に等しいとのことだが、
一騎の個体反応が消滅したにもかかわらずフェストゥムは撃破された。
エルフこそ損傷は酷いものだったが、パイロットの一騎は意識を喪失させたものの無事だった。
前代未聞の事態に戦闘データの細かい分析や一騎の眠っている間に詳細な身体検査が行われたらしい。
それでも結局、一騎に同化の痕跡は見られず、とりあえずの間は今後も注意して戦闘を見守ろうという意見で一致した。

「本当に、何でもないのか?」

おそらく総士は純粋に自分の精神状態を気遣ってくれているからこそ、執拗に声を掛けてくるのだろうと思う。
けれど今は何も話したくない気持ちで一杯だった。

「何でもないから、大丈夫だから」

それだけ言って逃げるようにその場を立ち去った。
システム内からリンクすることで自分の思考などすでに知られているところなのかもしれないが、
一方的に見られているのならまだしも自分の口から話すなんてとてもじゃないが出来る状態ではない。
総士から離れてもすれ違う通路での話し声すら耳を塞ぎたくなる程で、一騎は一刻も早く誰もいない所へ行きたかった。
人と違うという事実をつきつけられることが怖くてすっと一人になることでそれを避けてきたのに。
少しでも他人とは違う距離感を保っていた相手に他のみんなと同じ事を口にしてほしくないなんて単なるエゴでしかないのだろうけど。

しばらくして扉の外からロックを解除しようと操作する音が壁伝いに聞こえてきた。
とうとう見つかったか、と一騎は諦めの気持ちを浮かべつつも面倒なので顔は膝の間に埋めたままでいた。
照合確認とロック解除の音が響き渡り、ドアが開く気配がする。

「やっぱりここにいたか」

聞き慣れた声が頭上から聞こえて思わず一騎は顔を上げると、そこにはちょっと困ったような顔をして立つ総士の姿があった。

「総士…」

一騎がぽつりと呟くと、総士はゆっくりこちらに近付いて一騎に向かい合うように静かにしゃがみ込む。

「僕が悪かった」

突然、総士が謝罪の言葉を口にしたので、一騎は驚いて大きく目を見開く。
それを見た総士は申し訳なさそうに少し微笑むと続けた。

「一騎を一人にさせたくなかったのに」

そう言って総士は一騎の手を取ると、どうせ思い出したくもないことばかり考えてしまったんだろう、と寂しげな表情を浮かべた。
一騎はその様子をあっけにとられて見つめていることしか出来なかったが、
重ねた手から伝わる少し低めの体温に嫌悪感を感じることはなかった。

「ありがとう」

総士は一騎の目をじっと見つめるとそっと呟いた。
僕だけじゃなくて島のみんなが一騎にありがとうって思ってるよ、と続ける。
その優しく包み込むような心地良い声音に今まで閉じ込めていた感情がせきを切って溢れ出してしまいそうで、
一騎は思わず下を向くと、ぎゅっと固く目を瞑った。
すると、ふわりと何かに包み込まれるような感じがして、やがて肩先から伝わる温もりに、
総士に抱き締められているのかと少し遅れた思考が追いついた。

「おつかれさま」

少しして頭上から総士の声が聞こえる。
直に触れる皮膚越しに伝わる声がなんだか妙にくすぐったい。
でも今まで心の中に巣食っていたどす黒い気持ちが少しずつ消えて行くような感じがして、
一騎はそっと目の前にある総士の制服を掴んだ。

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上か下か
「俺が下なのか?」
「何か問題あるか?」

一騎は総士に見下ろされたまま固まった。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

一騎が慌てふためいて総士を見上げると総士は怪訝な顔をして覗き込む。
どうしていつもお前のペースなんだよ、と一騎は心の中で舌打ちをすると、
こんなの公平じゃないと呟いた。

今から十数分前。
紆余曲折を経て晴れて恋人同士になった二人はいわゆる、そーゆー気分になって
(昼間なのに)総士の部屋に来た。
お互いなんとなくのアイコンタクトで気持ちが通じてしまったのが嬉しいような恥ずかしいような。
丁度ミーティングが終わり、その後これといって予定の入ってなかった二人は
廊下をそそくさと俯いたまま早足で歩いた。
人通りの多い通路ではなんだか自分達のうしろめたい気持ちが周囲に気付かれてしまいそうな気がして
顔を上げることが出来なかった。
あともうちょっと、あの角を曲がれば。
曲がったところで数歩前を歩く総士の手が自分の前に伸びた。
空中でそのまま止まっているところを見ると、手を繋げ、ということらしい。
一騎は誰もいないのをもう一度確認すると、そっと総士の手に自分の手を重ねた。
途端にぎゅ、と強く握りしめられて、ほっとするようなでも恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまった。
総士の部屋まではあと少しだ。
着いたら、とその後のことを考えると歩く動作までいちいちいぎこちなくなってしまう。
前を歩く総士は相変わらず何を考えているのかわからなかったが、ずっと無言だったあたりで
なんとなくその心情が把握出来てしまうような気がするのは長年の付き合いなのかなんなのか。
と、いろいろ考えているうちに気が付けば総士の部屋の前までたどり着いていた。
シュン、と音がしてドアが開く。
その先は昨日と変わらないただの部屋なのに、なぜか心臓がどきどきして一騎は更に俯いてしまった。
二人が入り終えるとまたシュンと同じ音を立ててドアが閉まり、
ついにその時が来てしまった、と早すぎる鼓動はピークを迎えた。
俯いたまま微動だにしなかった一騎だったが、両肩に総士の腕が置かれたと思った瞬間、視界が一変した。
目の前に広がるのは天井と総士の顔、そして背中にはスプリングの軋む感触。
数秒経ってやっと自分がベッドに押し倒されたのだと理解することが出来た。
そして、

「俺が下なのか?」

冒頭の会話に戻る。

「お前、もしかして僕を抱きたかったのか?」

暫く沈黙が流れた後、総士は至極真面目な顔をして言った。

「あ…え?」

「そうなのか?」

ベッドに両腕を押さえつけられて馬乗りになられたまま言われてもなんだかもの凄く真実味がないんだけどな、
と一騎は思ったが、体力馬鹿な一騎でもこの不利な体勢から起きあがることは叶わず、おとなしくそのままの格好でいた。

「抱きたいって…そんな」

一騎が困って言いよどむと、総士はぷっと吹き出して笑う。
何がおかしいんだよ、と睨めばだって、と総士は続けた。

「男同士でどうやってやるのかお前わかるか?どんな風に愛撫して相手の緊張といて、どうやって解して…」

ここ、と総士は一騎の制服のズボンの上からその一点を押す。

「なっ…!!」

一騎が顔を真っ赤にして睨むと、ごめんごめん、と総士は謝った。

「でも、お前に抱かれる僕なんて想像出来ない」

ときっぱり総士は断言した。
お、俺だって、と一騎はすかさず反論する。
だってそうだ、まがりなりにも男に生まれて、最初から抱かれるのが当たり前だなんて思えるはずがないじゃないか。
一騎が悶々と自分の中で格闘していると総士は言った。

「じゃあ、お前は僕を抱くのが想像出来るか?」

出来るに決まってんだろっ、と言いたかったが一騎はしばし考える。
総士を抱く。
生憎女の子すらまだ抱いたことなんて無いのだけれど、でもやり方くらいは心得ているつもりだ、と自分では思う。
たぶんその、男だったら使う穴が違うだけで…。
そこに指を入れてゆっくり解して、腕の下で切なげに喘ぐ総…士?
そこまで考えてまじまじと上にある総士の顔を見上げた。
この顔がこの声が、と想像するだけで途端に自分の顔が熱くなっていくのがわかる。

「あ…」

と呟いたきり一騎はその後の言葉を紡ぐことが出来なかった。

「お前には無理だって」

と未だ押し倒す体勢のまま総士は笑って言った。
なんだっていつもこの男は有り余るくらいの余裕を持っているのかさっぱりわからなかったが、
なんだか悔しくてたまらない。
お前だって、俺を抱くのが想像出来るのか?とやっとの思いで一騎は言った。
すると、もちろん、とまた余裕たっぷりの笑みが返ってくる。

「僕はシミュレートするのが得意なんだ、だから毎日一騎のどこが弱いかとか、
昨日よりももっとどこを責めれば可愛い声出すだろうかとか」

「ああああっ!!もういい!もういいからっ!!」

ぶつぶつと語り出した総士の言葉をありったけの叫び声で一騎はぶった切る。
そうだこの男はシミュレートが大の得意だった、それを失念していた自分にげっそりする。
というか毎日何考えてんだ、と思ったがなんとなく怖くてそれを口にすることが出来なかった。
なんかもう怒りたいとかそういう気持ちは通り越してしまった気がする。

「じゃあ、いいか?」

一騎がぐるぐる考えているのも知らず総士は何て事ない顔でそう言った。
何が!と一騎が言えば、続き、と一言発して総士は一騎の制服に手をかける。

「あ、ちょ、ちょっと待ってってば」

やたらと素早い総士の行動に、お前どこでそんなこと覚えてきたんだよ、
と疑念が沸かなくもなかったが、今度は手をしぶしぶ止めた総士に睨まれてしまう。

「ぃや…なんでも、ないです」

一騎がぼそりと呟くと、総士はにこりと笑って言った。

「心配しなくても気持ち良くしてやるから」

意識飛ぶくらいね、と笑みを深くした総士に一騎はただならぬ恐怖を感じつつ、
まぁ気持ち良ければそれでいっか、となんだか納得してしまった。

最初からそうと決められてるのにはちょっと反抗したくなるのだが、まぁ結局はどっちだっていいのだ。
とか考えている内に上半身を覆うものは総士によってほとんど脱がされてしまい、
どうしていいかわからなくなった一騎の唇はすかさず総士が塞いでしまった。

総士ってやっぱりすごいな、とかなり場違いな感想を一騎は抱きつつ、総士の舌と手にだんだん翻弄されていった。

総士は総士で、緩急をつけて愛撫を施すとびくびく震える一騎を見ては、
やっぱり僕のシミュレートは正しかったんだとこちらも場違いな感想を抱いていた。

こんな感じで二人の初めてのSEXは進んでいったのである。

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無題
「顔、見たいよ」

俯いていた一騎が突然、小さな声で呟いた。
一騎?と驚いた総士は声を掛けるも一向に顔を上げる気配はなく、反対に小刻みに肩が震え出す。
慌てて駆け寄ってその顔を覗き込めば、その赤い両目には涙がいまにも溢れそうな程に溜まっていた。

「一騎」

総士はもう一度呼びかけると一騎の身体を抱き締める。
片手で頭を自分の胸へと押し付けると、震えが止まるようにその身体をさすり始めた。

「帰ってくるって約束したから」

一騎は泣きじゃくりながら喋り出す。

「たとえ目が見えなくなっても、ちゃんと総士の姿は俺には見えてたんだ」

ずっとずっと待ってた、と言って一騎は一旦言葉を切ると、そっと総士の顔に手を伸ばす。
そしてその顔を確かめるように撫で、びく、と震えながら閉じた左目の上に指を被せる。
傷を優しくなぞると、その手を総士の制服へと下ろしぎゅ、と微かに震える手で掴んだ。
帰ってきてくれたのは嬉しいはずなのに、と再度口を開く。

「総士の声がして、触ればやっぱり総士だって、ちゃんと総士はここにいるって」

わかってるつもりなのに、と一騎は総士の胸に強く顔を押し付ける。

「そしたら、今度は総士が見たくて、このままいたら記憶の総士は薄れちゃいそうな気がして、
手で触って思い浮かべる記憶の輪郭じゃなくて、今ここにいる総士が見たくて」

だから。
それ以上一騎は喋ることが出来なかった。
いくら自分の願望を口にしたところで、それは叶わないからだ。

総士が帰ってくるまでの2年間、一騎は必死に治療を受けた。
激痛を伴う抗体の注射を毎日受け、1日の半分以上はベッドに縛り付けられる生活を送っていたが、
一向に症状は改善せず、それどころか緩やかに確実に進行していった。
原因は、未だファフナーで戦い続けていることにあるのは一騎自身理解していた。
しかし、ザインを除く他のファフナー全機が出撃したとしても襲来するフェストゥムには勝てない。
それ程までに島の戦力不足は続き、またそれがザインにどうしても頼りがちになる戦略を生み出していった。
そして総士が帰ってきたところでフェストゥムの攻撃が無くなる訳ではなく、
いまでも襲来が確認されれば(と言っても他のファフナーでは抑えられない時だけ)
一騎も戦闘に参加せざるを得なかった。
このままこの状況が続けば、そう遠くない未来に自分の身体が動かなくなるだろうというのが突き付けられた事実で。
島を守れるのなら本望だと思う心のどこかで、そうだとしたらその前に総士の姿を一目見たいと思う気持ちが、
日に日に大きく占領していくのを押さえつけるのが大変だった。
もう困らせたくない。
そう思っていたからこそ、絶対に言わずに心の中に閉じ込めたままその時を待とうと思っていた。
記憶の中にはまだ2年前の総士の姿が鮮やかに残っていて、それさえあれば大丈夫だと言い聞かせたつもりだった。
でも2年経ったある日、総士が帰ってきたと人伝に聞いてその気持ちが崩れ始めた。
治療のためにここ2年間ずっとアルヴィス内の一部屋をあてられて、そのベッドで戦闘時以外の大半は過ごしていたが、
そのひとりぼっちの時間に突如、ずっと会いたくて仕方なかった総士が現れたのだ。
最初は、今までの事やお互いの状態を確認する会話をしていただけだった。
記憶の中ではない直接耳に響く総士の声に安堵して、触れる顔の凹凸に記憶の中の顔を一致させて、また安心した。
それだけでいいと本当に思っていた。
それなのに。
もう自分に残された時間が少ないと改めて感じてしまった今、目の前にある顔をどうしてもこの目で見たくなってしまった。
叶わない願いだなんて2年間かけて自分が一番よく解っているはずなのに、気付けば言葉を発してしまっていた。
また、困らせた。
遅すぎる後悔の念に押しつぶされそうになって、抱き締められた胸に縋りついてしまった。
涙が止まらなかった。

「ごめん、忘れて」

総士の腕の中で一騎は小さく言った。

「忘れられるわけ、ないだろ」

抱き締められているせいで、総士の声が自分の身体の中に直接響くような感覚がする。
心なしか強まった腕の感触に、言いようのない安堵感が広がっていくのがわかる。
僕がずっとついているから、と総士が言葉を紡ぐ。

「一騎の目が見えるようになるまで、ずっと一緒にいるから」

もうちょっとの辛抱だから、と優しく頭を撫でられて、
嬉しさと離れたくない寂しさと不思議と広がる安心感に、一騎はまた涙を流した。

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メルトダウン

「あ」

目を開けると見慣れた白い天井と四方を囲むカーテン。
次第に明瞭になる視界はここが医務室であることを一騎にはっきりと認識させる。
視界とは反対に未だぼうっとする頭で、どれくらい時間が経ったのだろうと考える。
安定剤であろう点滴の減り具合からそうそう時間は経っていないのだろう、
そう納得すると、カーテンの向こうから話し声が聞こえた。

やっぱりあの異常値が関係して。でも脳波には身体機能にも異常は。データが足りない。
あの状態で同化されないなんて。数値上、確かに生命反応は消えた。何が起こってるんだ。

「…そー、し」

聞こえてくる声に耳を塞ぎたくなって思わず名前を呼んだ。たぶんそこにいるだろうと思ったから。
出した声があまりにも小さく掠れていて自分でも驚いたが、それでも向こう側に伝わるには十分だったらしい。
慌てた様子でカーテンが開けられると、総士はこちらを覗き込んだ。

「気分は?」

いつもの口調で総士が尋ねてくる。
何でもないよと返したかったけれど、一体何を点滴に入れているのか、
未だに手足の感覚が戻らなくて一騎は曖昧に微笑んだだけだった。

気付いていないわけがなかった。自分の中に何か別のものがいるということには。
戦闘時のあの異常な感覚。
頭の中に靄がかかるようでいてクリアになるような不思議な感じがして、どんどん総士の声が遠くなる。
ほぼ無音状態になると、敵の攻撃の盲点が見えてくるような気がして、実際に見えているのだろう、
敵に致命傷を与えることが出来る。
身体中を熱い何かがすごい速さで駆け巡るような感覚。
自分の身体がどこにあるのかさえ忘れてしまうような。
目の前まで赤く染まるのではないかと思った瞬間、急に現実に引き戻されたかのように、
正常さを取り戻した視界に映るのは、破壊された敵の姿だけだった。
それから先の記憶は毎回ほとんど無いに等しい。
大体、総士から指示があってファフナーを自動操縦に切り替えて意識を喪失させる。
でも今回はなぜかその指示に従わずに手動のまま格納庫へ戻った。
確かに機体の損傷は今までよりも少なかったがそれでも動かすたびに生身の身体は激痛で悲鳴を上げた。
なんとか耐えてファフナーから降りるも、駆けつけた総士を見るなり視界が暗転した。

「一騎っ」

あと少しの所で床にくずおれた一騎を総士は慌てて抱き起こす。
以前からデータで彼に異常な値が現れているということは何度も聞かされていたが、
実際に変調をきたして意識を失った姿を見るのは初めてだった。
総士は驚きを隠せないまま一騎を抱きしめていると、駆けつけた医療班がストレッチャーへと促す。
そっとその上に身体を横たえさせると、医療班とともに処置室へと向かった。
そしてそこでは、脳波や身体機能の精密検査が行われた。
結果は、異常なし。
思い当たる原因と言えば、またも戦闘時に消滅した一騎の生命個体反応と関係があるのだろう。
被同化状態の戦闘下において個体反応が消えるというのは、一般的に言えば同化されてしまったということだ。
それなのにその状態で彼は敵を倒し、ファフナーごと無事に帰還する。
いくら調べてみても、その身体に同化現象の痕跡は見られない。
何が起こっているのだろうと思う、でも聞いてはいけないようなそんな気もするから口に出せない。

医師と話し合っていると背後で名前を呼ばれた。
慌ててカーテンを開ければ意識を取り戻した一騎がいる。
が、見るからに顔色は悪く、でも何か言わなきゃと極力平静を装って「気分は?」と尋ねてしまったが、
返ってきたのはその状態を反映するかのような曖昧な笑みだけだった。

「異常はないって」

笑顔を作ってゆっくりと切り出せば、一騎は困ったように笑った。

「ごめん、ちょっとだけ聞こえてた」

どの辺から?と尋ねれば最後の方だけ、と一騎は控えめに言う。

「島を守ろうってみんなと一緒に戦ってるだけなのに、俺だけ異常なんてさ」

それだけ言うと一騎は首だけ総士とは逆の方向に向けた。
まだ四肢の感覚が戻ってないのか、と総士は思う。
倒れた時、激しい筋硬直状態にあってすぐさま弛緩剤の投与が行われたのだ。
起きてから少し経っても身体の感覚が戻らずにあの会話を聞いたら傷付くよな、
と総士は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
島を守るために危険を冒して毎回戦っているというのに、
それを異常だと他人に見られているのはどんな気持ちなんだろうとその心中を察せない自分に歯痒い思いが込み上げる。

「…慣れてるから」

別にいいけど、と一騎は小さく呟いた。

「ごめん、ちょっと困らせてみたかったんだ」

と続けたけれど相変わらず向こう側を向いたままだったのでどんな表情をしているのかはわからない。
総士が何も言えずに数秒経つ。
すると一騎はこちらを向いた。

「聞きたいんだろ?」

見上げてくる一騎に総士は内心驚いたことを必死に隠して目を逸らそうとはしなかった。
総士にだけだったら話してもいいんだ、と一騎は言うと静かに目を閉じる。
弛緩剤と安定剤の副作用なんだろうなと総士は思ったが、
これ以上話すにもどう答えていいのか心底困っていたので少しほっとしてしまった。

「ごめん」

一騎の寝息が聞こえ始めたのを確認して総士は小さく呟くとベッドサイドを後にした。

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